表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
17/361

消えた記憶と愛する人の嘘 17 【プリンを巡る小さな攻防戦——その先にある温かな感情】



「これにしようかな」


俺が手に取ったのは、袋の中にひとつだけ入っていたプリンだった。プラスチックのカップに入った、コンビニの定番スイーツ。特別なものじゃないけど、なぜか無性に食べたくなった。


しかし、その瞬間——


「ダメ!」


まいが素早く手を伸ばし、俺の手からプリンを取り上げた。


「これ、私が狙ってたの!」


ぷくっと頬を膨らませ、子供みたいな仕草で抗議してくる。


「えー、でも俺もこれ食べたいよ」


ふざけた口調で言いながら、俺もプリンを奪い返そうとする。まいはそれを阻止しようと、両手でしっかりとプリンを抱え込む。


「これは私の!謙は他のにして!」


「ずるい!俺だって食べたい!」


「謙はこっちのチョコにしなよ!」


「なんでだよ!プリン食べたいの!」


「ダメなの!これは譲れません!」


「そんなこと言わずに一口くらい……」


「いや!」


そんなやりとりを続けるうちに、まるで子供みたいに無邪気にじゃれ合っていた。お互いにプリンを取り合いながら笑い合い、まいは「絶対にあげないもん!」と意地になっている。


……ふと、気がついた。


俺たち、こんなふうにふざけ合って、イチャイチャしている。


それは、とても自然なことのように思えた。


まいが、ふっと息をつき、微笑む。


「……なんか、久しぶりだね、こういうの」


その言葉に、俺の心がじんわりと温かくなる。


記憶はない。過去の思い出も、まいとの関係も、俺には思い出せないままだ。


だけど——


俺は今、この瞬間、まいが愛おしくてたまらなくなっていた。


何もかもを忘れてしまったはずの俺なのに、この気持ちは確かにここにある。


まいの笑顔を見ているだけで、胸がいっぱいになる。このままずっと、彼女のそばにいたいと、そう思った。


「……ねえ、半分こしよっか?」


気がつけば、俺はそう提案していた。まいはちょっと驚いた顔をしたあと、優しく微笑んだ。


「……しょうがないなぁ」


そう言いながら、まいはプリンのフタを開け、スプーンを差し出してくれた。


俺たちは、笑い合いながらひとつのプリンを分け合う。


それは何気ない時間だったけど、俺にとってはとても大切なもののように思えた。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ