消えた記憶と愛する人の嘘 15
何事もなく、病室に無事たどり着いた。
病室の扉が静かに閉まると、まいはゆっくりと俺の前に立った。
さっきまでの悪戯っぽい笑顔とは違う。
彼女の瞳はまるで熱を帯びたかのように、しっとりと潤んでいた。
妖艶な目一一まるで獲物を捉えるかのような視線で、俺を見つめてくる。
次の瞬間、何の前触れもなく、まいは俺の胸に手を添えながらそっと背伸びをした。
そして一ー
柔らかい唇が、俺の唇を塞ぐ。
一瞬、驚きに体が強張るが、それも束の間だった。
彼女の熱が俺の中にじわじわと流れ込むように、ゆっくりとしたキスが始まる。
唇が触れ合い、確かめるように何度も重な
る。
まいの手が俺の胸からゆっくりと首へと移動し、指先が優しく肌をなぞる。
その仕草があまりにも自然で、俺は抵抗することも忘れていた。
いやーーそんなことは、最初から考えてすらいなかったのかもしれない。
俺も自然と腕を伸ばし、まいの腰にそっと手を回す。
細い腰を引き寄せると、彼女は小さく息を漏らした。
その瞬間、唇の隙間からまいの舌がするりと入り込んできた。
甘く、深く、絡み合う。
ただ唇を重ねるだけのキスとは違う。
求め合うように、確かめ合うように、俺たちは舌を絡ませた。
時間の感覚が消える。
ただ、息が苦しくなるほどに長い時間、俺たちは互いの熱を交わし合った。
まいの指がそっと俺の首筋をなぞり、そのまま後頭部に回る。
まるで俺が逃げないようにするかのように、強く抱きしめてくる。
その熱に当てられるように、俺も彼女をさらに強く引き寄せた。
ーーそして、ふと、まいが唇を離す。
名残惜しそうに、ゆっくりと。
彼女の瞳は、俺を覗き込むように揺れていた。
ほんの少し、頬が紅潮しているのがわかる。
そして、まいは微笑んだ。
「.....やっぱり、謙とのキス.....好き.....」
その言葉に、俺はただ息を呑む。
何かを言おうとしたが、言葉にならなかった。
心臓が妙に早く打っている。
ーーこの感覚は、なんだ?
記憶がないはずの俺なのに、この瞬間だけは確かに"まい”という存在をと強く感じていた。