消えた記憶と愛する人の嘘 11
動き出す、
ここから全てが狂い始め、ある方向に動き出し始めた、
きっと、誰にも止められない、今となっては………
俺は天井を見つめながら、ぼんやりと考えた。
――俺の所持品って、どうなったんだろう?
財布、携帯、鍵……
何か手がかりになるものがあるのではないか?
そう思うと、少しだけ気持ちが前に向いた気がした。
わずかでも、過去に繋がる何かがそこにあるのなら、今の俺にとって、それは大きな意味を持つはずだった。
考えてみると、昨日目覚めた時には身体中に激痛が走り、まともに動くことすらできなかった。
だが、今日は違う。
ゆっくりとではあるが、手足を動かしてみても、あの鋭い痛みはない。
鈍く重い違和感はあるが、耐えられないほどではなかった。
これなら、歩けるかもしれない。
俺はゆっくりと上半身を起こした。
――大丈夫、動ける。
久しぶりに自分の意思で体を動かせた気がして、少しだけ気持ちが前向きになる。
何もしないまま、ただ時間が過ぎていくのを待つのはもう嫌だった。
記憶が戻らないなら、せめて今の自分にできることを探さなければ。
――まずは、ナースステーションへ行って、所持品のことを聞いてみよう。
何か手がかりがあるかもしれない。
そう思うと、わずかに胸が高鳴る。
俺はそっとベッドから足を下ろし、慎重に立ち上がった。
ほんの少しふらついたが、大丈夫。
一歩、また一歩と、確かめるように足を動かす。
ぎこちないが、前へ進める。
目的があるだけで、こんなにも気持ちが変わるものなのか。
何かを取り戻せるかもしれない――そんな希望が、今の俺を動かしていた。
病室の中で、俺は何度も足を踏み出した。
ゆっくりと、一歩ずつ。
最初はぎこちなかった。
長い間寝たきりだったせいか、体が自分のものではないような違和感があった。
足を踏み出すたびに、膝の関節がぎこちなく動き、バランスを取るのに少し苦労する。
それでも、諦めずに繰り返した。
病室の端から端まで、何度も往復する。
最初はたった数歩進むだけでも慎重にならざるを得なかったが、徐々に足の運びがスムーズになってくるのを感じた。
血の巡りが良くなってきたのか、最初にあった鈍い重さが和らいでいく。
次に、上半身を大きく回してみた。
肩を回し、首をひねり、背中を軽く伸ばす。
関節がポキポキと鳴り、体の隅々に眠っていた感覚が呼び覚まされるような気がした。
ゆっくりと腕を上げてみる。
最初は少し突っ張る感じがあったが、何度か繰り返しているうちにスムーズに動かせるようになった。
腰をひねってみると、少し違和感はあるものの、痛みはない。
俺は深く息を吸い込み、ゆっくりと吐き出した。
――よし、動ける。
最初のぎこちなさはまだ完全には消えていないが、確実に体は目覚めてきている。
このままなら、ナースステーションまで行ける。
体が動く――それだけで、ほんの少しだけ気持ちが前向きになった。
「よし、行ってみるか」
そう小さく呟いて、俺は病室の扉に手をかけた。
深く息を吸い、ゆっくりと吐き出す。
緊張とも期待ともつかない感情が胸の奥で静かに渦を巻いていた。
扉を押し開けると、病院独特の消毒液の匂いと、静まり返った廊下が広がる。
淡い光が窓から差し込み、白く長い廊下を照らしていた。
新作いかがですか?
早くも私まいが気になり出しました。
また、よかったらしばらくの時間お付き合いよろしくお願いいたします。
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