雨だって時には虹になって輝けるのよ♪
もうすぐ夏休み。森では蝉の鳴き声が充満していることだろう。だが、目下の問題はやかましい鳴き声でもうだるような暑さでもない。それは目の前に広がっているピンクだ。問題はそれが何か、ということではなく、誰のものなのかということだ。そう、その所有者がキャーと悲鳴をあげるだけの少女ならまだ、解決作は見つかる。だが、例えばそれが日頃からよくしっている暴力&毒舌女だった場合は・・・
「死ねーーーーーーーーー」
こうなるわけだ。しかし、ぶつかってきたのはあいつじゃなかったけ?
その女は今日もいた。そして慈穏は今日も楽しそうだった。それがとっても悔しくて私は慈穏に会うことを決めた。だって高校生になってから慈穏はあんな顔、私には見せてくれなかったから。
私は浮かれていた。前のことで少し近ずけたと勘違いしていた。馬鹿だった。だって、世の中はそんなに甘くないことぐらい身をもって経験していたはずなのだから・・・
朝、家をでるといつも通り、若竹さんが待っていた。全く変わらない。
「ほら、行くわよ。早くしないとゴミムシ見たいな顔をもっと醜くなるように殴りつづけるわよ」
あいかわらず全く変わらない毒舌で迎えてくれた。前の出来事が嘘のような気がする。やはり、あれは長い夢だったんだ。だって、こいつが俺に泣きついてくるような女ではないということぐらいわかっている。・・・つまり、夢だとすると俺はこいつに好意を持っているということか!?こいつのせいでマゾに目覚めてしまったのか!?まずいぞオレ。やばいぞオレ。
「あら、何を真剣に悩んでいるのかしら?ダンゴ虫になる方法?残念ながら私はダンゴ虫とはつきあわない主義なの。踏み潰しても良心は痛まないわ」
ホントに血も涙もないやつだ。しかも止めてくれ。このままでは俺のマゾシズムが・・・。
もうその時には校門の前まで来ていた。そして、僕は驚いた。もう着いたからというわけではない。そこで声をかけてきた少女を見てだ。
「久しぶり。慈穏」
慈穏は、驚いていた。無理もないはずだ。こんなところで会うなんて考えてるわけもなかっただろう。でも、それがとても悔しくて、そして、あの女の方が私よりも慈穏に今、近いというのが許せなかった。だから・・・だから・・・私は私を捨てた慈穏が許せなかった・・・
目の前には中学校の頃の見知った顔があった。高校に入ってからは3度しか会っていない。それでもそいつのことはよく覚えていた。なぜならこの少女は・・・
成宮は硬直していた。なぜかは、分からない。私は何も知らなかったんだ。成宮のことを・・・
「ねえ、慈穏。あんた、妹亡くして自暴自棄になる気持ちはわかるわ。でも、それで他の人に迷惑かけるなんてあんたらしくないでしょ。しかもよりによって女だなんて。ね、『お人好しヒーロー』さん」
「・・・その名前で呼ぶな」
「なによ!私に命令するの?学校の噂はほんとのようね。慈穏」
その女がわりこんできた。彼女は言った。
「あなた誰よ。成宮くんのこと知らないでそんなこと言わないでよね」
その時、涙が溢れそうになって驚く。なぜよ!?私はあんな奴のことなんてもう好きでも何でもないでしょ!?だって、私を・・・私、を捨てたのよ・・・。そんな男なんて最低じゃない。でも・・・頭の中で響く言葉とは裏腹に中学校の頃が蘇ってくる。
「泣くなよ、原田。ほら、もう大丈夫だから」
そう言って手をさしだしてきてくれた人は、私の初恋の人だった。私が初めて好きになって、初めてデートしてくれて・・・。そして、初めて、私にとって一番大切で、一番・・・一緒にいてほしいと思った人だから。だから、許せなかった。そして、ずっと一緒にいてほしかった・・・
「あんたこそ、慈穏のこと知ってるとでもいうの?」
その女は小馬鹿にしたような顔で言った。でも、それに私は言い返せなかった。だって、何も知らないのだから。この女と成宮の関係も知らないのだ。そんな頭の中の言葉に嫌になる。私はこの女のように、慈穏などと呼べないのだ。だから、くやしかった・・・
私たちはその時、成宮 慈穏の様子がおかしいのに全く気付かなかった。互いの存在ばかり考えていたのだ。そして、予鈴の音で私たちは微妙な余韻を残して校舎に入っていったのだ。
「お兄ちゃん・・・。死んじゃ駄目だよ。絶対にわた・・・しのために・・・生きてね・・・。ぜった・・・いに・・・しな・・・ないで・・・」
その時、血まみれの道路の上で百合は人形になったのだ。白いきれいな顔はもう二度と自分の意思で目を開けることも言葉を発することもしなくなったのだ。そう、その時からこの家には誰もいない。この家はその時から真っ暗だった。自分以外誰もいない家。でも、それでも、僕はこの家にいる。いつもの習慣で百合の部屋に「ただいま」と言う。そして、いつも通りそのあいさつに返答はなかった。なぜだか頭ががんがんする。部屋のベッドに向かう。そして、音楽を流そうとオーディオに手を伸ばそうとするが、そこで意識がなくなっていった・・・
「ごめん、今日はちょっと気分が悪いんだ。先に帰っといてくれるかな」
帰り際いつものように成宮のクラスに行くと言われた。何か、成宮の様子がおかしいのは気づいていたのだ。これも、あの女に会ったときから・・・。ただ、分かっていた。あの女の言った通り私は成宮のことを何も知らないことぐらい分かってた。でも、だからって・・・
いつも慈穏の中で私は二番目だった。何をしても二番目だった。デートなんて妹にかまっている時間の半分もできないし、いつも、妹のことばっかり慈穏は話していた。いつもいつも、慈穏は妹のために身をすり減らし、ずっと、妹のことばかり考えていた。そして次は、別の女とつるんでいた。いっしょにいるって言ったくせに。妹のことが落ち着いたら、いっしょにいてやるって言ったくせに・・・
次の朝、成宮はいくら待っても来なかった。時間もだいぶ過ぎ、しょうがないので学校に向かう。でも、少し怖かった。もしかしたら、あの女と一緒に言ったんじゃないかと思うと・・・
慈穏はまだ来ていなかった。あの女もクラスをのぞきにきている。慈穏と今日は一緒に来ていないようだ。少しうれしいとともに、少し心配になる。予鈴が鳴ってクラスに戻る。廊下に慈穏の姿はなかった・・・
「我が悩める乙女は深刻そうな顔をして何を考えてるのかね?なるっちのことかな~?」
「ちがうわよ。あんな奴のことなんて知らないわ」
「ほうほう。では、なるっちが、なぜ休んだかも知らなくていいのですな?」
「え?なんで、成宮が休んだか知ってるの?教えないさいよーーー」
「あせるな、春奈。ぐびがびばる。死ぬ・・・。死んじゃう・・・」
「じゃあ、成宮は風邪で休んだの?」
「そうそう、恋する乙女は普通の女より輝いて見えるね~」
「うるさいわよ!いいから答えなさい、朱里」
「分かった分かった。春奈はかわいんだから、もう」
「いいからさっさと答えなさい!」
「荒々しい乙女はすさんだら怖いねぇ。なるっちは風邪だよ。まあ、珍しいけどね。また、妹のことじゃなければいいけど」
え・・・?あいつに妹って言ったような?そういえば、あの女もそんなことを言っていたような・・・。
「ねえ、朱里。妹って・・・?」
「え?誰の妹?あ、ごめん。もうすぐ時間だ。じゃあね~。今日は一人じゃさびしいだろうから、いっしょに帰ってやってもいいZE☆」
そう言って、朱里は慌てて、自分のクラスに戻っていった。まるで、いけないことを言ってしまったかのように・・・
チャイムが鳴った。ベッドから出て、玄関のドアを開ける。そこには、原田がいた。話す言葉が思いつかなくなり、硬直する。
「えっと、その・・・、大丈夫かな?熱とかないの?」
「あ、ああ。大丈夫だけど・・・」
「昼ご飯とかは?」
「まだ・・・」
「じゃあ、作ってあげる」
「お、おい。いいって、別に」
「ほらほら、いいから病人は寝てなきゃ」
そう言って彼女は見慣れた様子でキッチンに向かっていった。まあ、することもないので、ベッドに向かう。すると、またチャイムがなった。出て行こうとすると、原田に呼び止められた。
「私が出るから慈穏は寝てる。ほらほら」
そう言われて仕方なく部屋に戻ってベッドに入る。そのまま、意識がなくなっていった。
「はーい、今慈穏は、寝てるん・・・」
でかかった言葉がつまる。玄関には、あの女がいた。もう一人、一緒に女がいる。相手も驚いたようだ。そりゃそうだろう。だが、もう一方の女はあまり驚かずに声をかけてきた。
「あらら、直美じゃん。なにしてんの?こんなところで」
「あら、もしかして早川さん?気づかなかったわ。で、あなたたちこそなんでここにいるのかしら?」
「友達が風邪をひいてるのに、お見舞いに来てはだめなのかしら?」
「あら、そんなことを言ってないわ。ただ、慈穏の彼女としては彼氏の家に入ってくる女は確認しなければならないでしょ?」
「あら、なぜあなたが決めるのかな?それは、「あなたの彼氏」が決めることじゃない。人の家に上がらしてもらっといて、へんなこといってるんじゃないわ!」
気がつくと、二人になっていた。向こうも連れが消えたことに気づいたようだ。
「あら、もう一人の方はどっかに行ってしまったようね。あなたはどうするの?もしかして、見捨てられたんじゃないの?」
と言ってみる。そして気づいた。
「うるさいわ。あんたなんて・・・」
「おまえら、こんなところでさっきから何してるんだ?」
慈穏が後ろに立っていることに・・・
彼女・・・?なんで・・・?そう、私は知ってたはずだった。成宮に彼女がいてもおかしいないということぐらい分かっていたはずだったのだ。あの日、出会ってから、今日までそんなことも考えなかった自分がバカに思える。だって、成宮を好きだっていう人は、もう何回か見てきたのだ。私は何も知らない。ただただうぬぼれていた。私は一緒にいてくれるのは、私に気があるからと、勘違いしていた。成宮はそんなことちっとも思ってないとも考えずに。また、私には何も残らないかな?また、みんな喧嘩して、別れちゃうのかな・・・?そんなの・・・いやだ・・・。私がいたから、みんな喧嘩する。私がいなくなったらいいんだ。あれ・・・?なんでだろ・・・。なんで、私は涙を流してるの・・・?なんで、私は悲しいの・・・?
とても、きまずい。男の家に女の子がいるってだけでも気まずいのに、それが例えば旧知の犬猿の仲である二人の女の子だったりしたら、その家の主人はどう動けばいいのだろうか?それが今の僕の家の状態だった。さっきからこの家は久しぶりに三人もの人がいるのに全くもって静かだった。そんな中、この空気に耐えられなくなったのか朱里が口を開いた。
「慈穏、キッチン借りていい?久しぶりにお菓子でも作ってあげるから」
「おまえのお菓子というと、どうせ形のいびつなクッキーだろ?」
すると、直美が口を挟んできた。
「あんたなんかが作るより私が作った方がいいわよ。ね、慈穏?」
「私に決まってるでしょ?ここに来たら私がお菓子を作るっていう決まりなの。ね、慈穏?」
いや、俺に聞かれてもな・・・。
「「私よね!?」」
・・・なんなんだろう。空気がそれとなく軽くなったのはいいが、今度は軽く殺気が感じられるのだが。どちらを選んでも恐怖が待っているような気がするぞ?この状況はどうすればいいんだ・・・?たぶん、どっちでもいいから早くベッドで寝たい、などと言ったら、皮肉にも一生ベッドで寝てなければならない。これにもし、若竹がいたら・・・って、あれ?そういえば
「若竹はどうしたんだ・・・?」
さっさと質問に答えなさいなどと言われ、何か攻撃が襲ってくるはずと身構えるが予想に反してなにも来ない。目をあげると、二人とも急に黙り込んでそわそわとしていた・・・
なんでよ・・・。なんで、ここであの女の名前が出てくるのよ・・・。なんで・・・おかしいよ・・・。私じゃやっぱり駄目なの・・・?ねえ、答えてよ。私を選んでくれたんじゃないの?痛い・・・。胸がつぶれそう・・・。ねえ、慈穏・・・私を慈穏は選んでくれないの・・・?私ならここにいるよ・・・?私なら・・・
「どうかしたのか?」
でも、次に響いてきたのは私の想像とは違う答え。私を慈穏は心配してる。でも、みんなにそうなんだ・・・。私だけじゃない。だって、私は・・・
空気がさらに重くなっていく。僕はもう一度、声をかけた。
「え、えっと・・・。若竹となにかあったのか?」
その言葉をいった瞬間、なぜか、直美が急に立ち上がって玄関に向かって走っていった。
「え?お、おい、ちょっと待てよ」
呼び止めて、思わず直美の手を握る。そして、思った。こいつの手を触ったのって久しぶりだなと。一番最後に直美と手をつないだ時もこんな感じで、その顔には涙が流れていた。とても、きれいな雨の滴のように彼女のほおを伝っていく涙を今と同じようにただただなすすべもなく抑えられなかった。理由が分からなかったから。だけど、たぶん今と同じようにその時も彼女を泣かせたのは僕だ。だから、もう泣かせないと誓ったはずだ。なのに、やっぱり・・・。僕は妹との誓いをやぶってばかりいる。
「ごめん・・・」
僕はただ謝るしかなかった。
「なによ・・・また、どうせ理由も分からなく謝ってるんでしょ。もういい・・・。私はそれでもあきらめないって決めたから」
その決意のこもった言葉とは裏腹に、彼女は泣きやむこともなくただ悲しそうな目で見るだけ。僕はどうすればいいのか全く分からなかった。そんな時、背中に力がかかる。気がつくと、直美の体が胸の中にすっぽりと入っていた。
私は、昔誓った。このぬくもりを独り占めできるなら、私は何でもすると。でも、そんな誓いは決して果たされない。だって、もうこの温かなぬくもりは過去に生きていたある少女のためだと知っているから。それでも、私はあきらめない。私はいつまでも二番なんかいやだから。ちょっとでも、慈穏に振り向いてもらえるように・・・
ようやく、直美が泣きやんだ頃にはもう、空を暗くなり始めていた。
「送ってくよ、まあおまえに手を出すような男はいないと思うけどな」
「ブスで悪かったわね」
口答えするぐらいには元気も回復したらしい。しかし、誰か一人いないような気もするのだが、とりあえず、直美の家の方に一緒に歩く。そして、ポツリポツリと会話する。
「一緒に歩くのって、何年ぶりだっけな」
「1年半ぶり」
「そんなに長かったっけ?」
「妹が死んだ日をおぼえてないわけないんでしょ?」
そうやって、少しいじめてみる。これが私にできる精一杯の反抗。慈穏にできる精一杯の気持ちの伝え方だった。でも、慈穏は気のないように
「そうだったな」
と答えただけだった。そして、二人とも黙りこむ。どうせ、慈穏は妹のことをまた考えているんだろう。勝手な想像なのに少しだけ怒りを感じる。そして、自分にも叱った。せっかく、慈穏と話せたのになぜこんな言葉を返すんだ、と。学校のそばをとおった時、ふと目をあげた。すると、もう誰もいないはずの学校の屋上に人影が見えたような気がした。よく見ると、確かに誰かいる。慈穏に聞いてみた。
「ねえ、学校の屋上に誰かいるけど、見に行ってみない?」
「え・・・?」
こんな時間に屋上?そう思って、屋上を見る。確かに誰かいるようだ。だが、暗くて見えない。だがその時、何かが光った。それは、懐中電灯だった。警官が走ってきて聞いてきたのだ。
「君たち、この学校の子かい?」
「はい、そうですけど」
「若竹 春奈さんがどこにいるか心当たりないかな?どうも、親が連絡が取れなくて探しているようなんだ。まだこんな時間だし、高校生だから心配する必要もないと思うんだけど・・・。まあ、知ってたら教えて・・・って、君!どこに行くんだ!」
その声を無視して、学校の裏玄関に回る。思った通り開いていた。玄関で先生にあったがそんなこと気にせずに階段の方に走る。そして、駆け上がり屋上のドアを開いた。そこには思った通りの少女が今にも落ちて行きそうに屋上の手すりの先に立っていた。倒れていくその手を力いっぱいつかむ。すると、その少女は必死にその手をほどこうとして叫んだ。
「なんで、じゃまするのよ!いつも、そう。いつもいつも・・・」
だが、その声は僕の顔を見るなりしぼんでいく。でも、決して彼女は上に上がろうとしない。それどころか、体をもっと激しく揺さぶりはじめた。
「バカ!おまえ、何してんだよ」
「なによ!私の何が分かるっていうのよ。一回助けたぐらいで図にのってるんじゃないわよ!」
「だからって死ぬことないだろうが!おまえ、前、死にたくないって言ったんじゃないのかよ!」
「だからなによ!タダの自分勝手でしょ!?勝手に私の運命変えないでよ!」
「な・・・」
雨がポツリと降る暗闇の中、頭にこだまのように言葉が響く。「タダの自分勝手でしょ!?」あの日、僕は妹を置いて出て行った。いや、妹に追い出されたのだ。「お兄ちゃんに私の何が分かるのよ!」怒られる理由が分からなかった。「お兄ちゃんは自分勝手すぎるの!」ただただ、途方に暮れるだけだった。そんなもう一人の少女が重なる。
「私が死んだら、みんな幸せになるのよ」
「・・・やめろ」
「私が死んだら、お兄ちゃんも幸せになるでしょ?」無邪気に笑う少女の姿が見えた。
「私が消えたらみんな元通りになる」
「やめろよ!」
全く前と同じ状況。でも怒鳴っていたのは今度は僕だった。雨で手が滑る。もう、助けられない。僕はまた、一人殺してしまう。そんなの嫌だ!!僕はそんなこと望んでいない。何とかしろよ。誰か、なんとかしてくれよ!!!
「神頼みなんてしても無駄か・・・」
どうせ、また少女を救えない。また、僕の目の前で一人女の子が死んでいく。だから、関わりたくなかったのに。だから、僕は・・・
「幽霊頼みなら聞いてあげてもいいわね~♪」
そう声がして、またもう一人の手が加わる。
「ほら、いっせいのうででいくわよ」
そうして、若竹を持ち上げる。そして、初めて若竹を叩いた。
「バカが!」
そんな僕を先輩がなだめる。すると、若竹が言った。
「慈穏になにが分かるのよ!!慈穏は何にもしらないくせに。素人もしてくれないくせに!」
そう言って、走り去ろうとする。だが、そんな彼女の手を僕はつかんだ。
「おまえが死んだら本当に元通りになると思ってるのか?」
僕はそれに答えようとした彼女の体を抱き寄せた。
「そんなバカなこと言うなよ」
彼女は泣いているのかどうかわからなかった。それでも雨にぬれているその体が震えていることだけは感じた。
「誰もおまえを必要としていないなんて言うな。おまえが必要なんだからおまえのお父さんもお母さんもケンカしてるんだろ?じゃあ、ケンカさしとけばいいんだよ。どっちもおまえのことが好きなんだから」
彼女は驚いたようだ。でも、僕は知っている。前に助けたとき、家まで二人ともお礼をしに来たのだ。その時もやっぱり、二人はケンカしていた。でも、うらやましいほどどちらも心配していたのだ。やっぱり、若竹の親なんだな、とその時思った。
「お前みたいに二人ともただ単に気持ちの伝え方が下手なんだよ」
「なんで、知ってるの・・・?」
「それは直に聞いてみたら?」
本人たちがやってくるのが見えた。若竹の体をはなしてやさしく押す。
「ほら」
僕にはできなかったこと。それを他人にしてほしいと思うのはただの自己満足かもしれない。それでも、僕はあの日、自分が味わった感覚は絶対に身近な人に感じてほしくなかった。でも、これが本当に正しいのか分からなかった。その時、隣にいた先輩がどこからもらってきたのかタオルをさしだしてきて差し出してきて言った。
「ほら、慈穏くん。風邪ひいちゃうよ」
そのタオルを受け取って頭を拭く。そして顔をあげた時、そこには親子三人の温かい会話をしている姿があった。雨は少し小降りになっていたが、頭の上ではピンクの傘が揺れていた。
また、若竹の親にさんざんお礼を言われた。学校から抜け出した時にはもう、時計の針が10時を過ぎていた。若竹はまだ油をしぼられるようだ。そこで、先輩と一緒に家の方向に歩いていく。
「慈穏くん。今回の教訓、思いついた?」
「いえ・・・。ただ・・・人はみかけによらないな~なんて思ったりしてます」
「ふーん。ねえ、慈穏くん。雨って最後にどこに行くと思う?」
「海じゃないですか?」
「ちがうわよ」
そう言って、彼女はいたずらっぽく笑った。
「また、雲に戻っていくの。ずーと、落ちてきては、また上がっていって雲になる。そして、また落ちてくるの。決して雲にとどまることもないし、だからって海にずっとあるわけでもない。それでも、雨はずっときれいな音を奏でながら落ちてくるの。この世って、そういう人ばっかりじゃない?いつも、ずっと空回りして、それでもきれいな音を立てながら抵抗する。だから、雨ってみんな透明なんだよ。それでも、雨だって時には虹になって輝けるのよ」
その時はもう、家の前についていた。
「だから、私はこの世にいるのかもね」
「え・・・?」
その言葉に反論しようと思った時には、もう彼女はいつものように「またね」と手を振って、パタパタと暗闇に消えていってしまっていた。この雨も明日には晴れそうだ
次の日、玄関から出て背伸びをする。
「うーん、いい朝だ」
今日は寝ざめがいい。良いことがありそうだ。空気を思いっきり吸いこんで・・・
「おらぁぁぁぁぁぁ!」
「ぐはっ・・・」
わき腹に突然衝撃が走り、手で押さえてしゃがみこむ。そんな僕の前を黒い影がたちふさぐ。
「さあ、慈穏。説明してくれないかしら?女の子に夜危ないからって送っておいて、途中で放り出すってどういうこと!?」
わ、忘れてた・・・。昨日は直美を送っている最中だったんだ・・・。だが、そんな僕に手を差し伸べてくれた女の子がいた。その顔は天使のそれだった。
「なに、勝手に殴ってるの?これは私のものよ」
その天使は僕のために悪魔と戦ってくれている。しかし、なぜか、「これは私のサンドバックよ」と言われた気がしなくもないのだが・・・。
「なに、ふざけたこと言ってるのよ。慈穏なんか言ってやんなさいよ」
「いや、いきなり朝っぱらからわき腹に蹴りをいれてくる女の子もどうかと思うがな」
「あら、成宮くんは私にいたぶられるのが好きなだけに決まってるじゃない。ね、成宮くん?」
「ね、成宮くん?じゃねえよ!どっちでもいやだよ!」
「「えっ!?まさか、私の他でもいいからいたぶられたいと思ってるというの!?」」
「俺はそんな奴にはなりたくないし、Mだとも一言も口にしたことはないのだが!?」
「「え・・・?」」
「・・・・・・」
ついていけない・・・。なんなんだ、こいつらは・・・。
「あぁ、もう分かったよ」
そう言った瞬間、後悔した。
「ほら、学校行くわよ」
上機嫌の直美が腕を回してきた。朝から、これはさすがに少し恥ずかしいな、などと思っていると反対の方向にも若竹が腕を回してきた。
「べ、別に。あんたを少し、こらしめようと思ってとりあえず腕をまわしてるだけだから」
うん、なんかちょっととっさの照れ隠しにしてはおかしい内容だった気もするけど、まあ、こいつってたぶん美人だし毒素さえ抜ければ結構かわいいな、などと思っていると反対方向の足をふんずけられる。
「ほら、早くしないと学校おくれるわよ、慈穏」
「分かった分かった」
「それから、なんでその女と手をつないでるの?」
「え・・・?」
なんでだろ・・・?
「べつにいいでしょ。人の勝手って言う言葉を知らないのかしら?」
そう思っていたら、今度は若竹が口をはさんでくる。
「あら、何?『成宮くん』に聞いてみたら?ね、慈穏?」
「え、何?」
何が起きてるんだ?なんか、二人の間で火花が見えるぞ?
「・・・もう、いいわ。早く行くわよ!」
・・・?なんか、怒られてる?俺ってなんかしたっけ?などと思っていると、直美が手を引っ張り始める。すると、今度はもう一方の手も引っ張り始めた。
「なあ、おまえら。まだ、学校には遅刻するような時間じゃなしさ?って、うわ。おい、そんな急がなくってもいいだろ!?」
「「うるさいわよ」」
そんな感じで、その日から一緒に学校に行くメンバーが増えた。まあ、波乱に満ちた登校だけれども、少し前の自分に近づきつつあるような気がした。でも、それでも、二人の笑顔がそこにあるのはとても幸せだとその時思った。
えっとですね
どうして、こんだけ書くのに一か月かかるのか。早く続きかけよ。などと思った人たち。本当にすいませんでしたーーーー。
なんか、いろいろありましてね?
まあ、次はがんばりますよ(たぶん)
ということで、やっと書き終わったーーーー