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雨のち先輩ときどき教訓!?  作者: 雷彗緋龍 魔倶禰詞亜
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虹がかかる日は、そう遠くないのよ♪

 今日は久しぶりの雨だった。もうすぐ夏休みといっても、まだ七月にもなっていない。そんな中、学校は終わり僕は若竹さんと一緒に帰宅に向かった。そこまでは、いつもと変わりない。しかし、傘をとってさし、帰宅に向かった時見えてきたのは、ピンクの水玉模様の傘だった。僕の知っている中で、こんな傘をさしている同じ背丈の女子はただ一人だけだった。

「先輩・・・。今日は何とたわむれていたんですか・・・?」

「あっ。慈穏しおんくん、春奈はるなちゃ~ん。ヤッホー」

「ヤッホーって相手の真ん前で言うもんなんですか・・・。まあ、それはともかく今日は何の用なんですか・・・?」

「なーに、その私が不幸を連れてくるみたいな言い方は?もうっ」

「だって、そうじゃないですか。雨を連れて来るってのはまだ許せますけど、そのドジっプリは何とかできないんですか?」

「私はドジじゃないんもん」

 そうやって先輩はむくれた。そんな彼女に僕は「はいはい」とあいまいに答え歩き出す。やっぱり、彼女はからからと笑いながらまた変な体験話を始めた。

「あのね、さっき、どぶにメダカが泳いでいたんだよ。それで、流れに逆らってずーと泳いでいるの。でね、手を水に入れてみたらねすいーと逃げて行っちゃったんだよ」

「それはよかったですね」

「ああっ、さりげなくバカにしてるでしょ」

「べつに、そんなことないですけど」

「そういう態度だから、慈穏くんはもてないのよ!」

 去年のバレンタインにチョコをだいぶもらったような気がするのは気のせいだろうか?たぶん先輩ふうの考えでは気のせいなのだろう・・・。まあ、とにかく雨の日にしてはいつもより平凡だった。先輩がいることを除いて。そして、全然話を振ってもらえない若竹さんが少しむくれているのを除いて。


 くはっ・・・!わき腹に衝撃が走る。なんでいつも俺なんだ。俺がなんか悪いことしたか!?少し口答えしただけだろ!?ぐっ・・・。痛い、いたいいたいいたい。なんで他の奴らにはやらないんだ。がふっ・・・。助けろよ!見てるだけじゃなくて助けろよ!!うっ・・・。動け!!あいつらをかっこよくぶちかましてやるんだ。なんで、俺の足は。かはっ・・・。怖い、痛い怖いいたいいたいいたい!!あいつらがにくい!俺をけったあいつらが。ぐ・・・。そしてこのクラスが!!!!!!こわいいたい・・・・・・。


 家を出ると空は晴れていた。でも、いつもの習慣でピンク傘を探してしまう。その時若竹さんがやってきた。

「成宮くん。学校遅れるわよ」

 相変わらず冷たい奴だ。この口調は僕だけというんだからもっとたちが悪い。

「はいはい、分かりましたよお嬢様」

 そういうと彼女はきっと睨んできた。

「次言ったらぶっ殺すけどどうする?」

 とても顔に似合わない物騒な言葉を顔をきれいな顔をゆがませてそえながら。若竹さんは、どうにもこうにも本当のお嬢様だ。日本の三大財閥と言われている若竹財閥の娘さん。登校には前まで、とっても豪華な車で来ていたはずなのだが、ある事件があってから、僕と一緒に通うことになってしまった。なにしろ、帰りに校門まで迎えに来たボディーガードと車を僕の前ですごい形相をして追い返してしまった。しかし、僕としてはあまりありがたくない話で、本人は自覚しているのかいないのか。、なにしろ若竹さんは近寄りづらいというだけでいちようは美人の分類に入るスタイルだ。そんな彼女と急に一緒に登校するとなれば、変なうわさがたつのは当然だ。よって、男子からはすごく理不尽な怨念が漂っているし、女子からもなぜかそんな怨念が漂ってくる・・・。しかも、前まで僕は孤立していたのでそれが逆効果になったのか、反対によく覚えられてしまっていて、情報が広まるのがすごく速かったのだ。そんなわけでいろいろと大変なのである。

「何、ボケッとつったってんの。はやく来なさいよ」

「ほいほい」

僕は校門をくぐった。その時の僕は全く何も気づかなかっただろう。あんなことが起こるなんて・・・。学校の上には、虹がうっすらとかかっていた。


 今日も学校に行かなければならないのか。なぜ!!僕はいじめられてるんだぞ。なんで、学校なんて。じゃあ、親に言えばいいじゃないか。臆病だって思われる!ちがうだろ。またいじめられるのが怖いんだ。結局かっこつけているのは心の中だけで、何にも出来やしない。黙れ黙れ黙れ!!!僕はただあいつらは悪人でも人を傷つけたくないだけで・・・。まだそんなこと言っているのかい?怖いって言っちゃえばいいのに。怖くなんかない!!へえ、じゃあなんであいつらを殴れないんだい?ククク、君は弱虫で意気地なしだからね。そのくせ、強がって群がろうと必死にあがくんだろ?うるさいうるさいうるさい、僕は泣き虫でも群がろうともいていない!じゃあ、なぜあいつらに立ち向かえないんだい?なぜ、誰も君を助けてくれないんだい?黙れ黙れ!お前なんか消えてしまえ!ふふふ・・・あーはっはっはっはっは。それは無理だよ。だって僕は君の一部。僕は君で君は僕だろ?あーはっはっはっは。


 昼休み、僕はやっぱり弁当を持って上に上がっていった。屋上には、まだ若竹さんは来てなかった。屋上の手すりの方に座って弁当を置くとドアが開いた。

「やあ、若竹さん。授業はどう・・・」

 そこには、テニス部の後輩の女の子が立っていた。僕は、その瞬間仮面をかぶる。

「やあ、どうしたのかな」

 いつもの顔だ。自分も嫌いだ。この仮面が。だって何があっても笑っているのだから。そう、僕はだれかが話しかけてきたときは微笑みながら応答する。例え何があろうと。それは拒絶を意味する仮面。笑い顔の仮面。だから、みんな僕には話しかけない。僕もみんなには話しかけない。それだけの関係。でも、たまにこうやって僕の領域に侵入してくるものがいる。そんなときに仮面をかぶる。でも、最近はその仮面にひびが入ってきていた。

「先輩!助けてください!もう、先輩しか頼れる人がいないんです!」

 そう、そしてこの時も僕の仮面は壊れた。ばらばらに。これで壊れるのは三回目。親ですら破ったことのない仮面はある人によってもろく風化させられてしまったらしい。僕はそんなわけで第二の事件簿を作り上げてしまったのだ。

「どうしたんだい?」

「私、中学校の時にその・・・好きな人がいたんです。で、その人と一緒にこの学校に入学して同じクラスになれたんです。でもその人、入学してから性格が変わったみたいで、なんか、本来の自分を隠しているような感じでとってもガラが悪くなっちゃって、クラスに嫌われるうようになっちゃったんです。そんな時に、学校の不良グループに絡まれるようになっちゃって、いつも殴られたりされて。でも、その人。口答えを始めてどんどん状態が悪くなっていく一方で・・・。だから、どうか助けてあげてください、成宮先輩。他の先輩はそんなのいじめられる方が悪いって取り合ってくれないんです。このままじゃ、拓斗くんは・・・」

「分かったよ、できるだけ協力する」

 そう答えた瞬間彼女の顔はパーと明るくなった。でも、僕の中ではなぜこんなことを言ってしまったんだろうという後悔が胸に押し寄せていた・・・。そんな時にドアが開いて、若竹さんが入ってきた。そして僕と泣いている彼女を見るなり

「何してるの成宮くん?まさか、あんた。変なことしたんじゃないでしょうね!!」

 と言って僕が答える前に蹴りをいれてきたのだった。


 あいつらに復讐するんだ、それしかない。役に立たない先生にクラスメート、後はあのクソガキども。俺を裏切ったやつは全員、血祭りにしてやる。ククククク・・・あーはッはッはッは。血祭りだあっはっは。誰からやろうか?まずはあいつからでいいか?あっはっは


「理不尽だ・・・」

 僕は、吹奏楽部を終えた若竹さんに言った。

「しょうがないでしょうが。あんたはいかにも不審者っぽい顔してるから」

「俺のどこが不審者なんだ!」

「もう一回蹴られたいの?」

「なんでそうなるんだよ・・・」

 若竹さんは、雨の日は部活を休みなぜだか、部活が雨で休みの僕に付いてくる。本人が言うには、別に楽器なんて簡単に覚えられるじゃない?ということらしい。金持ちのお嬢様は本当にすごい・・・。とにかく、そんなわけで彼女とは自然と(?)一緒に毎日帰ることになってしまうのだ。これこそ理不尽だと思う。なぜなら彼女は帰る間ずーと毒舌を僕に浴びせ続けるのだから。やられる本人にしてみればたまったもんじゃない。そんなわけで今日も彼女は毒舌を見事に振りまいていた。しかし、今日ぼくは他のことで頭がいっぱいだった。そんな様子を彼女が感づいたのか、毒舌をやめてこっちを見つめてくる。こう、見ていると彼女はとてもかわいい。思わず見とれてしまった。すると

 バシッ!

なぐられた。

「成宮くん、ごめん。ちょっと、きもかったから。つい、手が・・・」

「ちょっときもかったからって、いきなり顔面殴るか?」

「あら、ごめんなさい。腹のほうが良かったかしら?」

「腹はもっとまずいだろうが!」

「じゃあ、そうね・・・目はどう?」

「しばしば、考えてお前は今までの中で一番危ない結論に達するのか!?」

「分かったわ、次からは気をつけるから。ちゃんとみぞおちを狙うようにするわ」

「やめてくれ・・・」

「とにかく、そのきもい顔をこちらに見せないで、くれる?むしずがはしるから」

「なんで、お前はおれと一緒に帰っているんだ・・・」

 疲れる・・・。非常に疲れる・・・。なんでぼくはこんな目にあっているんだ・・・。そんなわけで、とにかく家に着いてしまったのだった。

「では、またね。成宮くん。明日あなたが朝起きて、顔を洗っているときに急性の心臓発作になって死んでいなかったら、また一緒に行きましょうね」

「なんで例えがそんなに具体的なんだ!?」

「大丈夫、それ以外の場合だったらちゃんとひきずってでも学校にお別れを言わさせてあげるわ」

「全然、大丈夫じゃねえよ!」

 彼女をそんなことを言って見送り僕は家の中に入っていった。


 ククク、あいつはきっともだえ苦しむかな?あっはっはっは。あんな奴死んで当然なんだ。でも、俺がやったとばれたらまずいことになる。そのための計画だ。ちゃんとしなければ・・・


 翌朝、雨がしとしと降っている中、ピンクの傘を見つけ先輩に話しかけた。

「先輩、何してるんですか?」

 先輩は、しゃがんで何かしていた。覗き込んで見ると、先輩の前には一羽の小鳥が倒れていた。昨日、はねられたらしく、羽はひん曲がり見るも無残な状態になっていた。そこで気づいた。その小鳥ははねられたのではなかったのだ。なぜなら、背中に刃物で付けられたらしい切り傷があったからだ。顔は何かでつぶされていた。

「先輩・・・?」

「ねえ、慈穏くん・・・。誰がこんなひどいことするんだろね・・・?なんでかな・・・?小鳥、嫌いだったのかな・・・?だってね、このこいつも私、この子の声を雨の日の終わりごろにいつも聞いてたの。とってもきれいだったんだよ?なのに、なんでかな・・・」

 彼女は泣いていた。ただただ、誰も責めることもなく静かに静かに泣いていた。それは、なんと口答えしていいのか分からない光景だった。彼女は、誰も責めなかった。逆に彼女は、その人の心配までしていた。そして、小鳥の死に涙を流していた。彼女の涙が雨に混ざって溶けていく。小鳥の血も雨に流されていきあたりは少し赤ににじんでいた。

「先輩行きますよ」

 僕はそう言った。若竹さんがこっちに来たからだ。

「うん・・・」

「大丈夫です。僕がこの鳥は家の庭に埋めといてあげますから。いつでも、見に来ていいですよ」

 そう言って僕は、血ににじんだ鳥をやさしく持ち上げた。そして、家のツバキの下の暗がりの中にそうっと置いておいた。これでたぶん、家族には気づかれないだろうし、晴れになったら埋めてあげればいい。

「その代わり埋めるのは晴れの時ですよ?」

「うん・・・。ありがとう、慈穏くん」

 そう言って彼女は笑った。涙と雨にぬれた顔で・・・


 ククク、いまにも見てろよ、おまえら。ぐふっ・・・。あの鳥のようにお前らを切り刻んでやるからな。ぐはっ・・・。俺はおまえらより強いんだ。おまえらに虐げられた分お前らの体を切り刻んでやる!そして、俺を助けなかった奴らに復讐してやる!がはっ・・・


 校門をくぐった時、僕は目にした。それは、渡り廊下で4人の同学年の男子が後輩と思われる男の子をけっている光景だった。僕が声をかけようとしたとき横から先輩が駆け出すのが見えた。

「君たち何してるの!?」

 そう言いながら。すると、彼らは逃げていった。その時渡り廊下の男子が逃げていった反対の出口に誰かの影が見えた。その影は、ゆっくりとそのそばを去っていった。

「大丈夫?」

「あ、えっと・・・はい。ありがとうございました」

 そういうと彼は静かに去っていった。

「何、あれ。せっかく助けてやったてのに」

 何もしていない、説得力皆無の若竹さんが言った。

「あのこ・・・」

「どうしたんですか?先輩?」

「えっ?あ、ああ、何でもないわ。ほら、学校学校♪」

 そう言って彼女は手を振って傘をさしながら去っていった。

「どうしたんだろ?」

「そんなに気になるなら、聞きに行けばいいでしょ」

 なんか、若竹さんも怒ってる。なぜだろうか?


 くそっ、偽善者め。今頃出てきたって遅い!ははは・・・。俺はこの手が殺人をしてやるんだ!今頃、出てきたって遅いんだ!あーはっはっはっはっはははは・・・・・・


 昼休み、僕はやっぱり屋上にむかう。

「あら、成宮くん。ここに何をしに来たの?それとも何?自殺でもしに来たとか?」

「おまえに言われると非常にリアルだからやめてくれ・・・。おまえこそ、こんなところで俺なんかと一緒に昼ごはん食べるより、教室で食べたほうがいいんじゃないのか?」

「無理やりあんたに作らされた友達と話すよりはよっぽど楽だわ」

「あのなあ・・・」

 そんな会話は、猛スピードで階段を上がってきた少女によって中断された。それは、後輩の女の子だった。彼女は今にも泣きそうになって言った。

「先輩、拓斗くんを助けてあげてください!」

 よく見ると彼女の制服には少しほこりが付いていて、足に擦り傷ができていた。

「分かった。分かったから君は保健室に・・・」

 彼女は僕が言う前にもう階段を下りていた。しょうがないので僕も降りる。彼女は一階まで降りると、廊下を走っていく。その先にある人目のつかない建物は一つしかなかった。僕は体育館を目指して走った。途中の渡り廊下から雨が目に入った。先輩だったらこの後どうするんだろうと、ふと思った。


 ククク、なんで今頃こいつらはおびえるんだ?あーはっはっは。今頃命乞いか?遅いな~。もうちょっと前からしとけばよかったのに。バカなやつらだな~。くっそ!なんなんだ、あいつは!?今まで助けようともしなかったくせに、弱いくせに!なんで、あんなに傷つかせたんだ!たくっ、なんなんだよ、あいつは!?


 体育館に入った時見えたのは、カッターをもった少年と、それにおびえている4人の集団だった。二人は、足や手から血が出ていた。

「なに、しにきたんだ!?」

 その少年がすごむように言った。カッターから血がたれている光景は非常にリアルなものだった。だが、彼はまだ人を殺していない。どうすれば・・・。先輩、どうしたらいいんですか・・・?僕はここにいない人にすがるような想いだった。だが、もちろん誰も来るはずがない。とにかく、ここは力ずくでもとめなければいけない。僕は彼に向かっていった。彼はカッターをむちゃくちゃに振り回していたが、こっちはいちようは少林拳と柔道は習っていたのだ。フェイントをかけ後ろに回るという作業に彼の体の動きはうまく乗ってくれた。だが、突如、腕に痛みが走る。彼の手がいや彼は手だけを出そうとしたのかも知らないが、その中にあったカッターが僕の手に刺さっていた。それは、僕の動きに合わせて傷口をえぐっていく。

「ぐっ・・・」

「成宮!」

「だめだ、きちゃ。大丈夫」

 僕はそう言って立ち上がり態勢を立て直す。しかし、腕の痛みは耐え難いものになっていた。その時、横から割って入ってきた人がいた。それは待ちに待っていた人だけれども今、いちばん来てほしくない人だった。

「慈穏くん、大丈夫?だめよ、無茶しちゃ」

「せ、せんぱいこそ、ぐ・・・、早くどこかに隠れといてください」

「大丈夫よ。私は先輩なんだから」

 そう言って彼女は、その少年の前に立った。彼はあぜんとして口もきけなかったらしい。ただただ、立っていた。

「ねえ、君の名前は?」

 そんな彼に先輩は、首をかしげながら聞いた。

「拓斗です」

 彼はその流れに押されて言った。

「拓斗くんか~。拓斗くんは何でこんなことしてるのかな?」

 その一言で彼は自我を取り戻したらしい。彼は、さっきのすごみをきかせた声に戻り、4人の男たちの方をみながら言った。

「見て分かりませんか?復讐なんですよ。ククク、あんたが何を言おうがな!こっちに来るなよ。俺は本気だぞ」

「ねえ、拓斗くん・・・」

 しかし、そんな言葉を彼女は無視した。そして、彼のほうにむかっていった。僕はそんな彼女を追いかけて走っていった。僕が「先輩!」と言って彼女を押し倒す時頬に軽く痛みが走った。

「先輩、何してるんですか!」

 僕は怒鳴った。しかし、その時、その少年がカッターを前に出して、4人の人たちに突っ込んでいくところだった。そこに誰かが飛び込んだ。ぐさっと鈍い音が聞こえた・・・


 なっ・・・。何してやがるんだ、こいつは・・・。そいつはゆっくりとほほ笑んで俺の視界の中から消えた。下を見てみると血で床がそまっていた・・・。何も聞こえなかった・・・


 カッターの刃の先は飛び込んだ少女ではなくその歯を振りまわしていた少年の服の中にあった。そこは血で滲んでいる。そんな状態なのに少年は微笑みながら少女に話しかけた。

「ごめんな・・・。萩原。俺、バカだったのかな・・・?俺、またやり直せるかな・・・?」

 そう彼は言った。最後に涙を流してあやまり続けながら。そして、くらりと倒れた。

「拓斗くん!」

「若竹さん、救急車を呼んでくれ!」

 倒れた人の介抱に向かう。外にはもうすでに、救急車のサイレンの音が聞こえていた。


 雨はまだしとしとと降り続いていた。僕らはそんな中、傘を並べて歩いていた。雨が葉を叩いて静かな音楽をあたりに響かせていた。しかし、それはむなしくあたりに響いているだけだった。僕らは黙りこくっていた。そんな静寂を先輩が破った。

「あっ!カタツムリさんだ」

 彼女はそう言ったからパタパタとかけて行った。もうすでにの演奏は小さくなり、雨も傘をささなくてもほとんど感じないほどになっていた。若竹さんは先輩が駆けて行った後、はっとなにかにきづいたように、急に「じゃあね、成宮くん」と言って去っていってしまった。そんな彼女の後姿がさびしげだったのは気のせいだろうか・・・と、首をかしげながていると、こっちにまた、パタパタと先輩が走ってきた。

「ねえねえ、慈穏くん。今回の教訓は?」

「何なんですか、いったい教訓って?」

「だから~、頭に思い浮かんだ言葉だよ、慈穏くん」

 そう言われても困るのだが、、まあ、今回は教訓らしきものは頭の中にあった。

「後輩に頼られるのって、けっこういいことですよね」

「だめだめだよ、慈穏くん。今回の教訓は、虹がかかる日はそう遠くない、だよ」

 この人は自分の考え出した、言葉をただ聞いてほしいだけじゃないんだろうか・・・。そう思っていると先輩がまた話し始めた。

「私ね、虹見たことないの。だから、一回見てみたいかな。でも、あの二人もきっと、私と同じだったんだよ。たぶん、あの二人は虹が見たくても見れなかったの・・・。だから、私も虹見てみたいかな?あの、二人みたいに」

「先輩・・・?」

「あはは、なーんてね♪私は先輩で、雨降り少女だもん♪」

 彼女は明るく笑って「またねー」と言いながら、パタパタと駆けて行った。そんな彼女の後姿に向かって言った。

「先輩、もうあんな危ないことしないでくださいね!」

 彼女の体がすーと、空気に溶けていった。でも、僕は見た。彼女が消える前にこっちを向いて微笑んだ姿を。

 雨はやみ、日の光が雲の間から、差し込んできた。僕はそんな中ポツリと言った。

「もう少し待っていたら見れるのに・・・」

 でも、誰も答える人はいなかった。僕は家の中に入っていった。

 空には一筋の虹がかかっていた・・・

どうも、読んでいただいた方、感謝です。

次の話も読んでいただけるとありがたいです。


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