それでも変わらない日
——私は目を覚ますとダブル眼帯を外した。
もはやダブル眼帯が無いと眠れない体なのだ。
この身を暗黒の炎に焼かれる宿業がダブル眼帯を求めるのである。
使い捨てダンジョンの壁ごしに薄っすらと外の様子を見ると、未だ辺りは真っ暗で静まり返っていた。
聞こえるのは葉っぱの落ちる音くらいだろうか。
結構寝臭いので、入口を少し開けて掌で煽いだ。
何度か往復して意味の無いことに気付くと、誤魔化す様に髪を解いて手櫛で梳いたのであった。
私は低血圧なのだ。
それからアイテムボックスから愛用の櫛を取り出し、自分を落ち着かせるため撫で付けつつ、魔導ラジオを付けたのである。
「ザザ……君の膵臓でご飯三杯いける」
「……私でご飯三杯……嬉しい」
カチャ
「ガー……剃刀入れて脅迫状送る人。年賀状でも剃刀張り付ける。なるほど私もよくやりますねー」
「やる訳ないでしょォ。そんな人いませんよー」
「リップサービス、」
「やだ、この人絶対テンションオカシイー!」
カチャ
「ザー……オプションはどれにいたしますか?」
「んー、蜂蜜が食べたいな」
「わかる。それプーさんの顔をプリントした赤いTシャツ着てる黄色い人だよね。うらー!」
「この恥知らずの共産主義者め。」
——ハハハハハハハハハハ!
「なんで俺、怒られたの?」
——キャアーハハハハハハ!
カチャ
「ザー……朝起きたらカストラートさんからでした。大変ですねー。ソーセージ詰め合わせ送らせていただきまーす」
カチャ
まったく、おかしなラジオしかやっていない。
まぁ、深夜ならこんなものだろうか……?
——ところで今私は三人称の人に向かって話をしているわけだが。
今の状態は二人称の形式になるのだろうか。
うん。どうでもいいか。
どうでもいいついでに告白すると、私の前世は男子高校生だったのだ。つまりTSということである。
仮にこの世界が小説の世界だとしよう。
その世界を男性が書いていたと仮定する。
男性が女性である私の内心まで描写することに違和感があるはずだ。
しかしTSと設定してしまえば問題ないなのだ。
私の目を見ろ。
それはもう見事なグルグル目に見えることだろう。
そして私は唐突に仰け反った。
「——私の背後にいる第三者目線!
満足か!
コレで満足なのか!
——閑話休題!」
「……ふぇ? なんですの?」
やれやれ。まったく……。寝ていたアンナマリー姫を起こしてしまったようだ。
とはいえ、もう一時間弱で出発時刻である。
寝直すには中途半端な時間。
死の山の往復を考えるなら、ややギリギリだろうか。ハプニングで時間を取られれば致命的だ。
なにより、悪魔化解除後のアンナマリー姫は、見た目通りの幼女に戻ってしまう。
夜の死の山に入る訳にはいかない。十分な余裕が欲しい。
だからこそ夜明け直前から登り始めるのである。
「もうすぐ出発だから。
準備始めよっか」
「まじ?」
「……まじ。」
「お休みなさい、なのですわ」
「ちょちょちょちょ、ちょっと待って!
いい? 悪魔化してる今のアンナマリー姫はとってもヤバイの。
だから、冥王って人に協力してもらって——」
「悪魔化? なんですのソレ?
なんか胡散臭いですわ!」
「いやいやいやいや!
すっごいパワー発揮しちゃってるでしょ!?」
「んー。……レベルアップ?」
「違うよー。自分で疑問符つけちゃってるの気付いてるかなー?」
それに対してアンナマリー姫は小首を傾げてこう言った!
「——ふぇ?」
「——とぼけても無駄だからね!
私の家のドア吹き飛ばしてたよね!?
喰らえ! 遺憾のイ!」
み゛〜〜〜ん
「ぐぇ!」
こうしてアンナマリー姫は、超なかんじの男のような光線ビームで無事説得されたのであった。




