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墓碑  作者: ファイアフライ
第Ⅰ章:導入部
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ドッグデイズ

強い不安感やストレスを与える描写が多数含まれます。

苦手な方はブラウザバックして下さい。


 私の名前はイゼルダ・シュバルツ。前世は異世界の勇者にして暗黒竜の力を受け継ぎし闇の勇者だ。シャキーン!

 

 かっこいい……

 

 そして黒髪黒目にしてジト目の言わずと知れた美少女である。

 自称だが、何か?

 

 

 

 前回。マの山で邪竜を退治したまでは良かったのだが、実はその邪竜は師匠が瘴気に侵されて変身した姿だったのである。

 

 私は後からそのことに気付き打ちひしがれていた。

 

 だが瘴気の被害者は師匠だけではなかったのだ。


 近頃の私はもっぱら沈黙と虚無だけが友達である

 

 

 

 ——起きると異常に怠かった。

 

 

 

 師を失って現実感が無い。

 

 ふとそこにいるような気がして、居そうな場所へ目を凝らすが当然のことながら何もない。

 

 

 マイルズ師を探す。

 

 

 探しても何処にもいない。

 

 

 庭でハーブの手入れをしているのかもしれないと、庭を探してもいないのだ。

 

 愛用していた小型乗用ゴーレムに乗ってどこか遠くに行ってるだけかもしれないと、ゴーレムの置いてある小屋を覗いても無感情なゴーレムの瞳に、ぼさぼさの酷い顔の私が写り込むだけで何処にもいはしない。

 

 

 

「あはは……」

 

 

 

 実におかしな人だった。

 

 

 ——だが。居て当然と思っている人が突然いなくなっても実感がぜんぜん湧いてこないものだ。

 

 植物の手入れのため魔除けを動かすと五月蠅くいってくるのだが、まーりん師の気配は何処にも感じられない。

 

 

 時には鬱陶(うっとう)しい師匠が居なくなってくれたら。なんて思ってみたこともあった。

 それが良くなかったのなら、もうそんなことは絶対思わないから……だから

 

 

 

 ——いや。そんなことはわかってるんだ。

 

 

 ……関係ないって。

 

 でもね、……それでも。それでもさ——理由を探してしまう。

 

 

 

 もしかしたら空気が伝わってたのかもしれない。

 それが何かシグナルとして伝わってて。瘴気を受け入れて、生きることを(あきら)めるきっかけになっていたのかもしれない。

 そんな風に思ってしまう。

 

 

 

 自分が殺したんだって

 

 

 

 ——いや、きっと考えすぎなのだろう。……分かってる。

 

 師はいわゆるLGBTQのどれか、なのだったのだと思う。

 詳しいことは調べていない。レッテル張りなど意味がないと思っているからだ。

 師はLGBTQではないし、LGBTQは師ではない。師は師だ。精神科医に無駄金払うつもりは無い。薬漬けにされた挙句監禁され、気付いたら早死にしてるなんてまっぴら。

 

 

 年齢にして71歳。白髪で長髪。縛られるのが嫌で孤独を好む。

 矛盾するようだが、底抜けに明るく気が付くと人に溶け込んでる。

 擬人法を好む茶目っ気のある老人。

 よく物を無くす人で、どっかに旅に行っちゃったみたい。が口癖だった。

 

 理解が足りないのかもしれないが……。

 私が許せないようなことでも、悪意が無いと思えば許してしまう。

 良く言えばいい人——。

 

 悪意には敏感でさっと距離を取っていたように思う。

 人が感じてることを敏感に察する人だった。

 

 私が困ったことがあるとテレパシーかな? とすぐに飛んできて助けてくれた。

 

 

 ——正直そこまでしなくてもいいのに。最近はそう鬱陶しく思うことも多々あった。

 

 

 居なくなって初めてわかる——有難さ。

 

 

 師の知人は大体(・・)変な人ばっかりだった。

 自分の事は棚に上げて鬱陶しく感じてる節も——。

 そのせいで私も色眼鏡越しに見られていたことは自覚している。

 

 ——葬儀はひっそりと行われた。

 魔法使いの死というものは魔法と深くかかわる。

 そのため教会を介さず親族。師や弟子だけで行われるのである。

 

 死が利用されないように当人に紐づく物に処置を行っていくので原則的に決まった形式などないのだが。衆人環視で持ち物の封印と破棄を行うめんどくささは共通だろう。タイミングを見て喪主や家族、友人が弔辞を述べて遺体を処理する。

 

 しかし師の場合は主だった物をアイテムボックスで持ち歩いていたので実に簡単なものだった。

 

 

 実感が無いというのが正直な感想なのだ。

 

 この世界のどこにもいないということを実感できない。

 邪竜となった場面を目撃したわけでもない。

 実はすり替わっていた、という事もありうるのだが【追跡】の魔法は一切反応しなかった。

 遮蔽されてる可能性もある。

 

 【託宣】の儀式を多重展開しても思わしい結果は出なかった。

 コレで出ないということは生存している確率は百万分の一を下回る。

 ギルドの富くじ一等と同じ確率——ゼロでは無いが……捜索には人の手を借りなくてはならない。……結局は無駄な行為だろう。

 大体生きていれば連絡をくれるはずだ……敢えて連絡しない理由があるのならこちらからはどうしようもない。

 これが活劇であるなら、十数年探し回った挙句、記憶喪失で再開。なんて予定調和な展開もありうるのだろうか……。

 

 

 

 死んだ。と、考えるのが妥当——。

 

 

 

 徒労感と無力感がソファに沈み込んでいく。

 

 

 チュン、ピヨ、キョキョキョキョ——キョン

 

 家の外では鳥たちがいつもと変わらず家の周りで無遠慮に(さえず)っている。

 この空間だけ切り取られたかのように静まり返るのである。

 

 なんというか。心は空虚だが、それ以上に体が重怠いのだ。

 

 

 

 やるべきことはあるのだ。仕事のメモは溜まってそろそろ催促に来るかもしれない。

 しかしやる気が起きないのである。

 

 そんなこと言っていられないのは分かってるので、のろのろと最優先の仕事だけはかたずけているが明らかに能率は落ちていた。

 優先度の低いものはキャンセルすることになるだろう。

 なにせマンパワーが単純に半分になるのだから。

 

 今日にでも魔法ギルドの地域担当者がやってくるかもしれない。

 偉ぶる無神経な相手とのノルマの交渉は気が重い。

 

 

 やることがある間は忘れることもできるだろう。

 そのうちいないことが当たり前になっていくのだ。

 それがなんとも恐ろしいことのようにおもえた。

 

 だから、師の替わりにマンドレイクの鉢植えに水をやるのだ。

 代わりになる訳もないのだが藁をもつかむ心持なのである。

 

 

 だが水のやり方が悪いのか日に日にしなびてゆく。みるみる風化して塵に戻っていく。

 その様子を見るたびに金縛りにあったように体が締め付けられるのである。

 

 

 ある時ごちゃついた研究室で重たい体を引き摺って仕事をしていた時のことだ。

 安易に楽をしようとしたのが悪かったのだろう。

 器具の端が窓辺の道具類にあたってドミノ倒しのように崩れてしまった。

 その時慌てて手で押さえようとしたのだが、ふらついて更に崩してしまう。

 

 ——そしてそこにはマンドレイクの鉢植えも並べてあった。

 

 

 ガシャン——

 

 

 マンドレイクとは引き抜くと悲鳴を上げ聞いたものの魂を奪う。

 

 

 私はとっさに耳を抑えた——が何も聞こえはしなかった。

 

 

 そう、すでに枯れていたのだ……。

 

 

 

「——ああああ!」

 

 私は急に何もかもが嫌になって、研究室の器具を手当たり次第に破壊した——

 

 

 

 

 

 

 ——寄る辺なく糸の切れた凧のように、全身の筋肉がバラバラに解けて無くなってしまうような虚脱感が忍び寄ってきて。追い払っても。追い払っても 絶え間なくやってくる

 

 

 

 悲劇ぶるなって? 正直どうでもい

 

 

 

 寝て起きると 異常に(だる)い だるさが積み重なってどんどん重くなってく 動きたくない

 

 

 

 無が私をベッドに押さえつける

 

 

 

 ない に放散して なくなってく

 

 

 

 

 ああ……

 

 

 

 

 

 もう かんがえるのもめんどう——

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 つかれてしまった わたしは——

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 あれ? ——そういえば。師が姫を助けに行く前、私に言っていたことがあった。たしか……

 

 

『——もう、あたしは必要無いのね』

 

 

 あ……。

 

 そうだ。

 

 周りから後ろ指、さされるのが嫌で、距離を置こうとしていた……。

 邪険に扱っていた。

 

 師は空気に敏感でちょっとした事で察してしまう。

 私は鈍感で分からないが——そうか……そう、なのか……。

 

 

 

 

 

 

 

 ——ふとソファの下に紙が落ちているのが目に入った。

 私が小さい頃よくお絵描きしていた紙——。

 私も師もモノグサで、掃除せずそのままになっていたものだ。

 

 師はバカみたいに大きな紙をどっさり持ってきて、描きやすいように全部切ってくれていたのを思い出す。

 

 反抗期で全部捨ててしまったが——。

 

 師は面食らったような気配のあと、あっさり許してくれたが——甘えていたのだろう。私は……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ——師は私の為に人生を使ってくれた。

 

 ……バカだ。私は。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ドンドン——

 

「いーぜーるーだー! 遊びにキマシタワー!」

 

 うるさい……

 

 

 

「はい。どーん!」

 

 

 私はあっけにとられた。

 なんと悪魔化した怪力に任せてドアを容易く吹き飛ばしたのである。が、中途半端に吹き飛ばしたはずの(ひしゃ)げたドアは、ブランコのように戻ってきてアンナマリー姫にぶつかった!

 

「あ——!」

 

 私は声を出した。

 思わず出たのである。

 

 しかし、アンナマリー姫はけろっとした様子で、ドアをむしり取ると横に置いた。

 

「よいしょ」

「ぉぉ……」

 

 彼女が無事で安心するやら、ドアが壊れて余計寒くなったことを心配するやら、この後の処理など、久しぶりに胸の内に吹き荒れる雑多な感情に戸惑う私がいた。

 

 

 

 ——そんな彼女をしげしげ眺めながらふと思ったのである。

 悪魔になって大丈夫なのだろうかと。

 

 

 人間が瘴気によって容易く悪魔に変る。それはつまり逆もありうるということだ。

 

 そして悪魔が人間ではないという状態であるなら。

 彼女の中の人間が無くなっても悪魔のままであるはず……。

 

 彼女は寒風の中、平気な顔で元気に振る舞っていた。

 もし、彼女の中の人間がその影響をモロに受けていたなら……そう考えると——私の中にとある嫌な予感がよぎった。

 

 

 彼女が悪魔になって少なくとも2週間経っている。

 もしかして手遅れかもしれない……ふと、師匠の姿と彼女の姿が重なった気がした。

 

 彼女の中の人間を殺してはならない。

 

 

 ——悪魔の知識は禁忌に属するものだ。

 それを求めれば私はタダでは済まないだろう。だが。もう、どうなっても構わない。

 そんな自暴自棄な考えがうかんだ。

 

 師匠を殺した。死に追いやった私にはそれが相応しい。

 死神が私を甘美に誘惑する。

 

 彼女を助けることを口実に逃げたいだけなのかもしれない。

 

 何かに取り組んでいる間は忘れられる。

 

 我ながら浅ましい……。

 

 

 

 ——私は急に寒さを感じ震え始めた。

 今更ながら冷気を感じなかった事に気がついたのである。

 私は何度か咳ばらいをして喉の調子を確かめると口を開いた。

 

「……ココア。飲む?」

「ココア好きですわ!」

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