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9.集合写真は…

9.集合写真は…


 天明3年の浅間山の噴火で形成された白糸の滝は高さ3m、長さ70mと連なり、地下水が岩肌から湧き出る潜流瀑で絹糸の様な水が幾重にも降り注ぐ。その空気感は東京のそれとは比べ物にならないほど清々しい。

「日下部さん写真を撮りましょうよ」

 岡本に声を掛けられ、滝を背景にガイドに写真を撮ってもらう。本来ならここで一発集合写真でも撮るところなのだけれど、ここに来るまでの間からして、みんなばらばらに行動していて誰がどこに居るのかさえ分からない状況だった。

 みんな各々滝を後にした後は、すぐにバスに乗り込む者も居れば、駐車場周辺の土産物屋へ吸い込まれていく者も居る。そんな中で川島がずっと電話を耳に充てている。最初は仕事の話なのだと思ったのだけれど…。

「そうは言っても、旅行中で今、長野に居るんだよ。そんなにすぐには帰れないから…」

 なんだかヤバそうな話をしている。そう言えば、以前から田舎…鹿児島の父親の具合が良くないというのは聞いていた。今回の旅行に行く際もその辺りに不安があったのは否めない。それでも、すぐにどうこうということはないだろうと旅行に参加した。まさか、このタイミングで? でも、こればかりはいかんともしがたく、後の行程については本人の判断に任せるしかない。


 白糸の滝を出発したバスは鬼押しハイウェイに入り鬼押出し園に向かう。白糸の滝の清々しい空気を受けて一旦はすっきり目を覚ましたはずが、バスが走り出すと、またしても心地よい揺れに身を委ねるのであった。その間もガイドからは試験に関する耳よりの話がされたのだけれど。


 園内にはいくつかの周遊コースがある。どのコースを選ぶかは各自で決めてもらう。出発時間までは自由行動だ。日下部と浦田、柿沢がバスを降りて真っ先に向かったのは喫煙所。ベンチに座って一服していると、上ったり下ったりの周遊コースを歩く気にはならず、売店を見て回ったりして、みんなが戻って来るのを待つことにした。間もなく井川、小暮、須崎も吸い寄せられるように喫煙所に集まって来た。彼らは最短のコースを回って来たらしい。

「みんな、あそこで記念写真を撮るんだね」

 柿沢が呟く。見ると外国人観光客が記念撮影をしている場所がある。

「さっきの白糸の滝でも思ったんですけど、ばらける前に集合写真を撮っておけばよかったかな」

「そうだね」

 とは言っても後の祭りだ。そういうことはバスを降りる前に言っておくべきだった。





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