5.改札
5.改札
出発前日。日下部は外出したついでに旅行の集合場所である東京駅に来ていた。買い出しをする店の営業時間や場所を確認しておくために。これまでに何度も下見をしてはいたのだけれど、念には念を。
出発当日。いつものように集合時間より早く東京駅へやって来た日下部は車内に持ち込む日本酒を二本、四合瓶で購入し、買い出し班が来るのを待った。間もなく買い出し班の名取、岡本、穴井が到着した。日下部は名取に現金が入った巾着袋を渡すと買い出しを三人に任せた。
「領収書をちゃんともらって来いよ」
その間にメンバーが集まってくる。集合時間前には大宮乗車組を除いた全員が揃った。いつもなら必ず一人か二人は遅れて来るのだけれど、今回は優秀だ。少し時間は早いが早速ホームへ移動することにした。ホームに上がれば喫煙所がある。
新幹線の改札。穴井が自動改札を通れないでいる。事前に乗車券を受け取っていなかったから入場券で駅構内に入ったらしい。東京駅の改札を通っていない乗車券がはじかれたようだ。何度もやり直しているのだけれど一向に改札を通れないでいる。
「向こう! 向こうの有人改札へ行って来い」
見かねた日下部が叫ぶ。
「あいつは何やってんだ? 俺は先に上がってるぞ」
早くタバコを吸いたい井川はそう言って、とっととエスカレータに乗って消えていった。
出発前の喫煙場は混み合っていた。日下部が入って行くとタバコ組の井川、浦田社長、柿沢仙台支店長、新入社員の須崎…新入社員と行っても親会社に在籍していた須崎は日下部より年上だ…は既に煙にまみれて更なる煙を吐き出していた。
「あいつは何やってたんだ?」
穴井のことだ。
「乗車券の入れ方が間違っていたみたいです」
「だから田舎者は困るんだよ」
金沢行の北陸新幹線“はくたか”がホームに入って来た。