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13 君だけなんだ、こんなにも俺を熱くさせるのは

「……ちょっと待て、何を言っている?」

「ふん、しらを切るのもいい加減にしてください。ちゃんとわかってますから。どうせあなたには愛人がいて、私は世間体を取り繕うだけの都合の良い存在なんでしょう!?」


 ユーゼルはその言葉に、はっと息をのんだ。

 図星を指されたので驚いたのだろうか。

 せめてもの矜持でユーゼルを強く睨みつけると、彼は気まずそうな顔をするでもなく……何故か、くつくつと笑い始めたのだ。


「なっ、何がおかしいんですか!?」


 馬鹿にされたような気がして、エレインは思わずそう言い返す。

 するとユーゼルは、愛しくてたまらない、とでもいうような優しい目をこちらに向けてきた。


「いや……君が嫉妬してくれたのだと思うと嬉しくてな」

「……は? 嫉妬?」


 いったい、この男は何を言っている?


「最初に言っておくが、俺に愛人などいない。どれだけ勘ぐろうが、調べようが、いないものはいないんだ」

「だ、だったら……どうして私なんかに求婚を――」

「君だけだ」


 その言葉は、まるで懇願のようにも聞こえた。


「君だけなんだ、こんなにも俺を熱くさせるのは」


 そう口にするユーゼルの表情は、いつになく真剣味を帯びていた。

 彼の瞳は、エレインしか見ていない。

 他の誰にも目に入っていないのだと、一瞬でエレインが悟らざるを得ないくらいに。


「だから……泣くな」


 ユーゼルの指先が、涙に濡れたエレインの目元を優しく拭う。

 真摯な表情でそんなことを言われ、エレインは急に恥ずかしくなってしまった。

 これではまるで、ユーゼルに愛人がいるのが嫌で泣いたみたいではないか!


「な、泣いてません!」

「泣いてるじゃないか」

「泣いてない! これは汗です!!」

「ふぅん……」

「ひっ、舐めないでください!」


 ぺろり、とエレインの涙を拭った指先を舐めるユーゼルに、エレインはもはや大混乱だった。

 ユーゼル曰くエレインが疑うような愛人はいないらしい。それはよかった。


(いや、別によくないわ! 何も解決してないんだから!!)


 彼は前世からの宿敵。彼を葬り去らないと、エレインの無念は晴れない。

 照れ隠しにそっぽを向くエレインを見て、ユーゼルは優しく笑った。


「心配しなくても、俺には君だけだ。君の勇ましく戦う姿に惚れた。それがすべてだ」

「あなた……おかしいですよ」

「そうかもな。君が俺をおかしくさせる」

「あぁもう!」


 これ以上ここにいると、エレインまでおかしくなってしまう。

 とにかく、今夜はもう無理だ。

 ユーゼルを葬り去るのは、またの機会にした方がいい。

 そう悟って、エレインはベッドから身を起こす。


「今夜は……戻ります」


 だから次の機会を首を洗って待っていろ。

 そんな思いを込めたつもりだったが、ユーゼルは何を考えたのか立ち上がりかけたエレインの腕を後ろから引いたのだ。


「ちょ……!」


 思わずバランスを崩し、エレインの体はユーゼルの腕の中にすっぽりと納まってしまう。

 間近に彼の体温を感じ、少し落ち着きかけた鼓動がまた忙しなく暴れ始めた。


「念のため、言っておく」

「な、何を――」

「もしも次に、今夜と同じように俺のベッドに忍んできた場合は――」


 ユーゼルの手が、するりとエレインの腰のあたりを軽く撫でた。


「ひっ!?」

「『そういう誘い』だとみなす。……次は止まってやれない」


 確かな熱情を感じさせる、低い声が耳に吹き込まれる。


「それでもいいというのなら……いつでも待っている」


 それだけ言うと、ユーゼルはぱっとエレインを解放した。

 エレインは二、三歩たたらを踏んだ後……ものすごい勢いで自分に割り当てられたベッドへと退避した。


「おやすみ、エレイン」


 追い打ちのようにそんな声が降って来て、エレインは慌てて頭のてっぺんまで毛布をかぶって聞こえないふりをした。


(本当に、なんなのよ……!)


 心臓がうるさいほど早鐘を打っている。

 頬が燃えるように熱い。

 冷静になれ……と自分に言い聞かせても、思考回路がぐちゃぐちゃになってしまったかのようにうまくいかない。

 ユーゼルの声が、言葉が、視線が、こちらに触れる温度が……まるで呪いのように消えてくれないのだ。

 気がつけば、彼のことばかり考えてしまっている。


(こんなはずじゃ、なかったのに……)


 ぎゅっと自分を抱きしめるようにして、エレインは熱い吐息を漏らした。

 結局その夜は再び寝込みを襲う気にもならず、かといって安眠できるはずもなく、まんじりともせず夜を明かしたのだった。

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