モテるために筋トレしてただけなのに!
28歳の筋トレ好きな佐藤はいつも通りの日常を過ごしていた。
モテるためにジムに通う毎日。
そんな日々が突然揺れ動く。
「20...21..22!」ガシャン
今日の胸トレはこれで終わり。
足早に給水機から水を汲みプロテインを摂取する。
ゴクゴクと身体に染み渡るタンパク質に身体全体が歓喜の声を上げている。筋肉がスタンディングオベーションしているぜ。
筋トレを始めて10年。
俺はモテたいがために筋トレを続けてきた。
今ではベンチプレス300キロ。デッドリフト600キロ。
スクワット500キロまで達成する事ができた。
ただ、俺に近づいてくるのは野生のゴリラ、もといゴリマッチョの男どもだけだ。
女の子は全然近づいてこない。というより、以前より遠くなった気がする。
おかしい。マッチョはモテるはずだ。
筋肉はあればあるほどモテるはずだ。なのに、、、女の子に全くモテないのだ。
まだ俺には筋肉が足りていないんだと自分に言い聞かせ、ここまでやってきたが、もうわかってるんだ。自分でも。
俺は鍛えすぎてしまったようだ。
細マッチョはモテるという記事を見て始めた筋トレだったが、続けていくと筋トレの楽しさにのめり込み、ついつい毎日5時間も筋トレをしてしまっていた。
そりゃあこんな身体にもなるわ。
動物園に行くとやけに、メスゴリラが俺の方に寄ってきていたが、あれはゴリラ界の細マッチョって事なのだろう。
もう俺ゴリラなんだ。
そんな絶望の淵に立たされていたある日。
いつものようにジムに行くと、誰もいない。
おかしい。毎日いる常連の腹筋の中田さんも、上腕三頭筋の木沢さんも、大腿四頭筋の横沢くんもいない。
すると、更衣室から1人の男が出てきた。眩い光を放つその男は顔こそ見えないが、シルエットから自分よりも大きい事がわかる。
タイヤでも乗ってるのかという大きさの三角筋。そんな肩から生えている樹齢1000年はありそうなほど大きな腕。背中の広がりは80坪はあるだろう。
なのにトイレットペーパーの芯ほどしかない絞れたウエスト。
脚には2本屋久杉が付いている
。
こいつ。只者じゃない。
そう思うのも束の間、その男が話しかけてきた。
「君には才能がある。私の住んでいる星、筋星にこないか」と。
な、何を言っているんだ。鍛えすぎると頭まで脳筋になってしまうのか。こうはなりたくない。
しかし続け様に男は「我が星では、筋肉の病気。カタボリック症候群が流行ってしまっている。君には我が星で筋トレをしてもらい、その筋肉を皆にわけてほしいのだ」と。
俺はアンパンマンにでもなるのか?
てか筋肉を分けるって何。多分痛いじゃん。肉離れでもあんなに痛いのに、ちぎって渡すの?泣くよ俺。
そんな事を考えていると男は俺の考えている事を見通すかのように「大丈夫。マッチョは優しい。優しい男は強い。強いということは痛みにも強いということ。これで万事OKじゃろ」と言ってきた。
何も大丈夫じゃない。理論が筋肉すぎる。
これ以上話しても無駄だと感じた俺は「すいません。僕はモテたくて筋トレを始めただけなんです。そのような世界を救うような大層なことはできません。他を当たってください」
これなら当たり障りもなく断ることができただろう。
俺はスクワットをするために振り返り、歩を進めようとした。
「あ、うちの星、筋肉あればあるほどモテるぞ」
「行きます。俺が救わなくて誰が救うんですか。もっと早く言って欲しかったですよ」
心の底から出た。出ちゃった。
「そうかそうか、では我が星に向かおう。」
男はそういうと俺を抱きしめ、深く沈み込んだ。
何をするんだ?と思った時、私たちは空を飛んでいた。
男は一回の跳躍で大気圏を越えたのだ。
そう気づいた時には、俺は気を失っていた。この筋肉がなければ粉々だったであろう。筋肉よ愛してる。
気がつくと、鳥の群れの中に俺は倒れ込んでいた。
「くさっ!でかっ!多!」
その鳥は体調2メートルは下らず、筋肉が浮き出ていて、その数は300以上。
どうやら本当に筋星というものは存在するらしい。
こうして俺の筋星物語は始まっていった。