初めてのドライブデート!…じゃなく浄化旅へ
撮影仕事を1日手伝う件も、念のためにカイが軽い暗示魔法を使ってお父さんお母さんの許可を取ってくれました。
でも、お母さんはすっかりカイの写真ファンなので(東京でやってるカイの写真展まで行ったくらいです)、わたしがモデルになると聞いて舞い上がっていましたけどね~。暗示かけなくても大丈夫だったかも。
さて、日曜日に朝からあわあわしながらわたしは用意をしていました。
白のワンピースを着るのは決まっているんですが、髪が上手に結べなくて……。可愛いリボンを付けたいんですけど。
必死に鏡の前で奮闘していたら、お姉ちゃんが部屋を覗いて呆れたように言いました。
「結んであげようか?」
「お姉ちゃん~!お願いします……」
お姉ちゃんは、ささっと可愛く2つに分けてお下げの三つ編みを作ってくれました。リボンも結んでくれます。
「ありがとう!」
「……ねえ、優那。あの人、オジさんだよ?浮かれすぎじゃない?」
「え?」
「開さん。いい人だとは思うけどさぁ……年上すぎるって」
「お、お姉ちゃん。な、なにを言ってるの」
「だって、優那、好きなんでしょ」
「~~~っ!」
バ、バレてるぅ。
でもだって。
前世で、25才を過ぎたら聖力が急激に衰えて、聖女は引退することが多いんです。そのときには、絶対にカイに告白しようと心に決めていました。自惚れかも知れないけど、カイもわたしのこと好きじゃないかな?って思っていたから、聖女引退後の幸せな結婚生活のことをすっごく心の支えにしてて。
だけど結局、叶えることは出来ませんでした。そんな前世の夢を……長年、心で温めていた分、あっさり捨てられないのは仕方ないですよね?
今世では12才差ですけど、親子ほどは離れていませんし。
カイは恋人いないらしいし、いまだに“ユーナ様”って大事にしてくれてますし。
別に障害は何もないんだから、将来、結婚……とか……その前にまずは恋人とか……いえ、瘴気の浄化もちゃんとしますけどね?
「優那くらいの年の子が、年上のカッコいいお兄さんに憧れるのは分かる。分かるけど、ロリコンはやっぱりさぁ……」
「えっ?!ロリコン設定決定?!」
それ、絶対に違いますから。
「いやいや、ロリコンでしょ。優那に対する態度がおかしいもん、あの人。お父さんもお母さんもどうして何も疑問に思わないの」
「そ、そんなことないと思うな~。カイ…さん、誰にでも優しいから」
「優那の靴でも舐めそうだよ?」
……さすがにそれはしないよ、カイも。
ハートマークが背景に見えるお母さんと、やや寂しげな顔のお父さん、渋い顔のお姉ちゃんに見送られながら出発しました
「ねえ、カイ。お姉ちゃんにも魔法は掛けた?」
車が走り出してすぐ、わたしはカイに聞きました。
「ええ、申し訳ないですが掛けさせていただきました」
「あまり効いてない気がするんだけど……」
「本当ですか?!」
驚いたようにカイがわたしを見ます。
「うん。お姉ちゃん、カイのことすごく不審に思ってる……」
「そうですか。俺に対して、最初っから不信感があるんですね。俺、態度悪かったかなぁ……」
あ、そうか。病室で手を握ってたのを見たときに“ロリコン認定”したからだ。この誤解、どうやって解除したらいいんだろ……。
―――目的の場所へ行く前に、山の上の眺望が良い場所で写真を撮ることになりました。カイは事前に撮影地を下見していたようです。
わたしは麦わら帽子を被って、後ろ姿で立つだけ。
1時間ほど、カイは様々な構図で写真を撮りました。
「ありがとうございます。いい写真が撮れました」
「いえ、役に立てて良かったわ」
「えーと……それで、これとは別に、個人的にユーナ様を撮らせていただいてもよろしいですか?」
まあ!
そんな遠慮気味に許可を求めなくてもいいのに。
「ええ、全然構わないわ!」
「では」
そこから、更に30分ほどかけて写真を撮ってもらいました。今度は正面や、横からです。わたしの顔がばっちり写ります。
真剣な表情でファインダーを覗きこむカイには、ドキドキしちゃう。
「普段通りでいいですよ。そんなに緊張しないで」
「そ、それは難しいですね……モデルって初めてですし」
「じゃあ、目の前にファーラ様がいるって想像してください。今、ファーラ様がリュースと踊っています」
「プッ」
ファーラ様は、前世でわたしより3つ年下の聖女の方です。ちょっとドジっ子なところのある可愛らしい方です。リュースは、彼女の護衛。身長2mくらいあるとてもゴツイ方です。
リュースにくるくる振り回されているファーラ様が思い浮かんで、わたしは思わず笑ってしまいました。
「もう!笑っちゃったじゃない!」
「ユーナ様は笑顔が一番ですから」
もう。そんな優しい笑顔で言われたら、今度は真っ赤になっちゃうってば。
ちょっとだけ見せてもらった写真画像は、やはり白黒で……そこにわたしが、なんだかとても神秘的な雰囲気で写っていました。わたしだけど、わたしじゃないみたい。
「まだ見習い騎士のときの話ですが」
カメラを覗きこんでいるわたしに、カイが静かに呟きました。
「上手く魔法が使いこなせなくて、闇に飲み込まれそうになっていた俺に、ユーナ様がお声を掛けてくださいましたよね」
「そうでしたっけ?」
「心地よい闇ですね、って言ったんですよ。“わたしの周りは光があふれすぎているので、あなたの闇に包まれて寝てみたいです”って。俺、ビックリしたなぁ。聖女さまが闇がいいって言うんですから」
ああ~……そういえば、そんなことを言った気がする。
修行の毎日に疲れてしまって、真っ暗な中で何も見えず何も聞こえないで寝たら、スッキリしそう~って思ったんだっけ。
「その瞬間、俺の闇の中に光が一条射しました。以来、俺は迷わずに歩いていけるようになりました。―――だから俺は……闇の中に射すユーナ様の光を撮っているんです」
そ、そんな意味があるのね、カイの写真……。
カイは蕩けそうなほど素敵な笑顔でわたしを見つめました。
「今日、撮った写真……俺の宝物です」
きゃー!!
今のカイの顔!そっちも写真に残して~!!わたしの宝物にするから!
さて、件の浄化の方はあっさり終了しました。
そして、わたしは終わったら車まで歩けず座り込んでしまいました。
「この世界では魔力や聖力を使うと、疲労が激しいようです。無理なさらず、このまま眠ってください。安全に家までお送りしますから」
「ううう、ごめんなさい……」
カイにお姫様抱っこをされてもその喜びを味わう余裕なく……わたしはすぐに深い眠りに落ちました。