聖女活動を始めます!
カイに写真を見せてもらう約束をしましたが、カイから見せてもらう前にその願いは叶いました。
お母さんがカイの写真集を買ってきたのです。
「とっても印象的な写真よ。すごくキレイ!なんかね、海外で賞ももらっているんですって~」
嬉々として見せてくれたカイの写真は、白黒の風景写真でした。陰影がとてもインパクトあります。静謐で、思わず祈りたくなるような、そんな風景。カイの目には、こんな風に世界が見えているのでしょうか。
「彼、この街に引っ越してくる予定らしいわよ。住むところを探していたときに優那を見つけたんですって」
「お母さん、浮かれすぎ」
「だって瑠奈~。イケメンなんだもん、仕方ないじゃない!」
「でも、オジさんじゃん」
オ、オジさん!?
お母さん情報によると、カイは23才。全然、オジさんじゃないと思います。
あ、でも今のわたしとは12才差なのか……。前世は2才差だったのに。どうしてこんなに年の差が開いちゃったのかしら。悲しいなぁ。
そういえば、お姉ちゃんが好きなダンスユニットは10代の男の子でしたっけ。だったらお姉ちゃんにとってカイは年上すぎるのかしらん。でも23才は絶対、若いと思いますよ?だってわたし、前世で享年23才。まだオバさんではなかった……はず……ですもん……。
―――その夜の消灯時間。
明かりが消えてしばらくして、入口に人影が見えました。
「ユーナ様。起きておられますか?」
「カイ?!もう面会時間は終わって、消灯時間ですけど」
看護師さんに見つかったら、怒られるんじゃないかしら。
焦るわたしに、カイはいたずらっ子な笑みを浮かべました。
「大丈夫です。認識阻害の魔法を発動させています」
……大丈夫と言っていいの、それ?
「ユーナ様に写真を持ってきたんですが……必要なかったみたいですね」
室内に入ってきたカイは、ベッド脇のサイドテーブルを見て苦笑しました。お母さんが買ってきた写真集です。カイの手元にも、同じ写真集。
「ううん、ありがとう!でも、そんなに急がなくて良かったのに」
「いえ、明日の日中は少し無理そうなので少しでも早めにと」
「……明日じゃなくても」
「少しでも早くと思ったのですが……」
やだ、カイがしょんぼりしちゃった。
「うれしい、本当にありがとう!こっちの本はお母さんに返す予定だったの。だから、カイからもらった本はわたしの宝物にするね!」
途端にカイの顔が明るくなりました。
もう。
変なところは子供っぽいんだから。
「え?わたしのために、この街へ引っ越してくるの?」
「もちろんです。俺はユーナ様のためにいるのですから」
カイの明日の用事は、引っ越しの準備のためだそうです。
「仕事、困らない?」
「今はネットでデータをやり取りすれば済みます。それに俺は風景写真を撮るので、元々あちこちに出掛けることが多いからどこに住んでも同じなんですよ。でも、ユーナ様と会えましたので仕事は辞めようと思っています」
さっぱりした顔で言い切られて、わたしはビックリしました。
「え?辞めちゃうの?!ど、どうして……」
「もちろん、ユーナ様の護衛のためです!今夜も朝まで外でお守りしますので」
えええっ?!
「な、な、なんで?!何も危ないことなんてないよ?」
「いいえ、病院なら安心かと思っていたのに、また倒れられたと聞いて本当に肝を潰しました。明日も急いで片付けてこちらへ参りますので、ご安心ください」
「安心できません!ダメです、ダメ!仕事は続けなさい!護衛も不要です!」
「何故ですか?!」
さっきの、写真集を急がなくてもいいと言ったときよりショックを受けた顔でカイがオロオロとわたしを見ました。
カイ……過保護が過ぎませんか……。
「病院で倒れたのは、瘴気に侵された人を浄化したせいなの。だから、もう大丈夫。それと、護衛が不要なのはね、この日本でそんな危ないことはないからだよ!魔物はいないんだし、わたしは普通の小学生なんだから」
「でも……」
「でも、じゃないです。カイがストーカーとして捕まっちゃいますよ?今後、瘴気の浄化へ行くときは必ずカイと一緒に行きますから、それ以外はカイも今まで通り生活してください」
「……はい。分かりました。でも、浄化の際はお供させていただけるんですね?絶対に、俺を呼んでくれますね?」
ああ、そうか。前世でカイがいなくなってから、わたしは深く絶望しましたが、カイもこの世界でたった1人、ずっとわたしを探してくれていたんですよね。
「はい、呼びます。……ただ、わたし、まだスマホを持ってないんですよね~。どうしましょ?」
さて、わたしは小学校6年生になりました。とうとう、小学校の最終学年です。
6年は長いものだと思っていましたが、意外とあっという間ですね。
カイがわたしの住む街に引っ越してきたので、わたしの生活は少し変わりました。現在、月に1回、カイの事務所へお手伝いに行っているのです。―――という名目で、瘴気に冒された場所がないかを探しています。
カイによると、今まで瘴気らしきものの出現はなかったとか。
でも、世界の綻びのようなものをわたしは感じます。きっとこれから、徐々に出現するのでしょう。だからこそ、わたしがこの世界で目覚め、カイも呼ばれたのでしょうから。
ちなみに、月1でカイの事務所へ行くことについて、両親の許可はカイが力づくで得ました。魔法で軽い催眠をかけてOKしてもらったのです。……これ、前世でやったら重罪です。精神に干渉する魔法は使ったらダメなのです。
でも、高校生ならアルバイトという方法が取れますが、小学生ですから……命の恩人に恩返ししたい!と力説して、無理矢理、魔法で納得してもらったのです。
お父さん、お母さん。ごめんね。これは世界を守るためだから……。
あの神社の1件以降、特に瘴気らしきものは見つかりません。
というか、ある程度の範囲ならわたしも感知できますが、日本全国とか、世界規模はさすがにムリなので、ニュースをチェックする日々です。
今日は急に出版社の人と打ち合わせが入ったとカイが出掛けました。
ネットニュースのチェックも疲れてきたので……よし、この隙にちょっと事務所の掃除をしましょう!カイがいると、雑用は一切させてくれないんですもん~。もう前世とは違うと何度も言ってるのに。わたし、今世は掃除も料理も洗濯もできます。結構、良い奥さんになれる気がするんだけどな~。
……ただ、カイも全部できるんですよね。しかも、わたしより遥かに料理が上手ですからね。女のプライドが粉々になります。
フンフンと鼻歌を歌いつつ掃除をしていて。
テレビで気になるニュースが流れました(瘴気チェックのためにニュース番組だけ見ているのです)。
古い屋敷を壊そうとしたら、工事の人がバタバタと倒れたというものです。原因は不明。
人の乗っていない重機と古い屋敷の映像が映ったとき、黒いモヤが見えました。……瘴気ですね。
これは、行かなければ!
ただ、かなり遠そうな場所です。どうやって行きましょう?そして、親にはなんと言えば?
はあ~、小学生の身は不便なことが多いですねぇ。
「そこなら、車で行けば1日で往復できますよ」
帰ってきたカイに相談したら、力強い返事が返ってきました。
「ご両親には、俺の撮影の仕事を1日手伝ってもらうことになったと説明しましょう。というか、実際、手伝ってもらえると助かります。企業からの依頼で、少女の写真がいるんですよ。後ろ姿だけなんですが。それをユーナ様で撮らせてもらえたら……とても嬉しい」
そんな真剣な目で言われたら……ドキドキしてしまうわ。
それに、カイに写真を撮ってもらえるなんて、わたしの方こそお願いしたいくらいなんだもの。風景写真しか撮らないんだと思っていたから言わなかったけど。
「わたしで大丈夫……?」
モジモジしながら聞いたら、カイは満面の笑みになりました。
「俺が写真を撮り始めたのは、ある意味、ユーナ様の存在があるからなんです。ぜひ。……あ、もちろん、モデル料はお支払いしますので!」
「ええ~?瘴気を浄化しに行くのに遠くまで連れて行ってもらうし、別にお金とか……」
「それとこれとは話が違います。こういうことは、きっちりしなくては。それに、浄化の件は俺も関係者の一員だと思っています。違うんですか……?」
悲しそうに手を握られたら、それ以上はもう何も言えません。
そうね。きっと神さまはわたしとカイ、2人で協力し合えるように取り計らってくれたのでしょうから。
―――というわけで、次の日曜はカイと浄化の旅です。
重大な任務を控えているのに不謹慎ですけど……ちょっとワクワクしちゃうなぁ。
大幅修正のせいで、カイの“亡くなった妹”の件について、触れるタイミングを失ってしまいました…。
これ、カイの嘘です。瑠奈を誤魔化すために咄嗟に嘘をついています……。今世で妹はおらず、両親と姉がいます。全員、元気です。