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大事な人との奇跡的な再会

 カイ・ルウェン。

 前世でわたしの護衛だった人です。稀な闇の魔法を使う魔法剣士で、とても強い人でした。

 15才のときからずっとそばで守ってくれていたのに、とっても強い魔物と戦ったとき、ひどい傷を負ってしまって。それでもわたしを逃がすためにムリをし、命を落としました。

 あのときの恐怖と絶望……生まれ変わった今でも思い出すたびに足元から世界が崩れて真っ暗闇の中に取り込まれそうになります。

 彼がいて、どんなときでも笑顔で励ましてくれたから、辛くて苦しい浄化を頑張ってゆけたのに。彼がいなくなった世界で、わたしは何のためにこんなに必死で大地を浄めなければならないのか。

 聖女としてあるまじきことですけど、何度そんなことを考えたことでしょう。

 そのカイと、まさかもう一度逢えるなんて。

 自然と涙がこぼれてきました。

 カイは慌ててハンカチを引っ張り出し、わたしの目元を拭います。

「な、泣かないでください、ユーナ様」

「カイが……カイがいなくなって、ずっとずっと、哀しかったのです。わたしのために……わたしを守るために命を落としてしまって……!」

「いいえ、俺の命は貴女のものだ。貴女を守るためなら、俺は何度でも死ねる」

 わたしはカイの手を握り締めました。

「いいえ……いいえ!命は、それぞれその人のものです。誰かのために投げ出して欲しくない。でもわたしは、あなたに甘えっぱなしで……そして、あなたは強いから、絶対に死ぬはずがないと思いこんでいて」

「……!申し訳ありません。そうですね、貴女を残して、貴女を悲しませて……護衛失格だな、俺……」

「ち、ちがうの、そういうつもりで言ったわけじゃなく」

 カイはいつだって、わたしのために命を懸けていた。護衛という仕事を誇りにしていた。決してそれを否定したいわけじゃない。ただ―――わたしがカイを失いたくなかっただけ。

「貴女は……天寿を全うされましたか……?」

 ふいに静かな瞳が真っ直ぐにわたしを見ました。

 わたしは一瞬息を飲んで……俯きました。

「カイがいなくなって1年後くらいかしら。ラーゼの森で……その……」

 ぎゅっとわたしの手が握り返されました。大きくて温かい手。前世で何度もわたしを励ましてくれた手。

 以前とは違う体のはずなのに、以前と同じようにごつごつと硬くて、力強さが伝わってくる……。

「貴女が役目を終えるまで、お守りすると誓ったのに。ホント、俺はダメだな……」

「カイ……」

 ―――それからわたし達は、いっぱい話をしました。

 カイは、この世界で生まれて自我を持ち始めた頃からすでに“カイ・ルウェン”としての記憶があったそうです。前世で命を落とす際、『来世でも、必ずユーナ様のお側に』と強く願ったので、記憶を持って生まれた以上、この世界で絶対にわたしに会えるはずだと信じていたと言われました。そして、わたしと会ったときのために小さい頃から様々な武術を習って体を鍛えたそうです。

 うう。

 む、胸が痛い。

 わたし、前世のことを思い出すまでに時間は掛かってるし、思い出してからも『前世は前世だから』って今世を楽しむ気、満々でしたもん……。ごめんなさい~。

 さらにカイは、ちゃんと1人で訓練して、魔法も使えるそうです。

 そして中学卒業とともにリュック1つで世界に旅へ。

「ど、どうしてそんなことをしたんですか?」

「この世界のどこかにユーナ様がおられるはずだから、探さねばと思いまして」

 ひえ~!カ、カイの忠誠心が重っ……!

「各地でアルバイトをしながら、転々としました。で、たまたま悪漢に絡まれていた人を助けたら古いカメラをもらいまして。そこからなんとなく風景写真を撮り始め、その写真を友人がネットに上げたらいつの間にか写真家として生計が立つようになりました」

「すごいですね……。今度、ぜひ、カイの写真を見てみたいです」

「はい。お持ちします!」

 お願いしたら、キラキラした瞳で力いっぱい、約束してくれました。

 顔立ちは前世とまったく違うのに、仕草とか、雰囲気とか……やっぱりカイですね。


 カイとの話に夢中になっていたら、病室の入口で「優那?」と心配そうな声がしました。

 振り返ると……お姉ちゃんです。学校が終わってすぐに病院へ来てくれたようです。

「お姉ちゃん!」

 お姉ちゃんは厳しい顔になってツカツカとベッドに近寄り、ぐいっとカイの手を引っ張りました。

「……何しているんですか」

「あ。……失礼しました」

 カイが慌ててわたしから手を離します。

「あ、あの、お姉ちゃん、カ……藤佐和さんはお見舞いに来てくれて……」

「ええ、そうみたいね。ありがとうございます、妹を助けてくれて。心配もしていただいて。でも、手を握るのはどうかと?」

「すみません。また意識を失ったと聞いて、本当に心配をしたものですから」

 お姉ちゃんの目がさらに険しくなりました。

「今まで優那と面識はなかったですよね?ちょっと心配の度が過ぎませんか?」

「お、お姉ちゃん。落ち着いて……」

 お姉ちゃんがわたしを守ろうとしてくれているのは分かる。けど、カイは怪しい人じゃないの~。

 どう説明したらいいのかしら?

 冷や汗をかきながら言葉を探していたら、カイはすっと立ち上がりました。

「これは本当に……申し訳ない。亡くなった妹の面影を勝手に優那さんに重ねてしまったようです」

「え?あ……あ、そうなんですか?ご、ごめんなさい、まさかそんな事情があるとは……」

「いえ。お姉さんの心配ももっともですから。それでは、俺はこれで失礼しますね。―――優那さん、お体をお大事に。今週末まで入院されるんですね?退院までに写真はお届けします」

 にっこり笑って頭を下げ、カイはさっと病室を出て行きました。


「悪いこと言っちゃったかな」

 お姉ちゃんが自己嫌悪の滲んだ声で呟きました。

「ううん、わたしのこと守ろうとしてくれたんでしょう?藤佐和さんも分かってると思う。ありがとう、お姉ちゃん」

 というか、カイの今世での妹さんが亡くなっていたなんて!そういえば、今世での家族のことを聞くのを忘れてたわ。カイ、今は家族がいるのかしら?前世では、実家と縁を切っていたけれど……。

「……てっきりロリコンかと思ったのよ。だから優那を変態の手から守らなきゃ!って焦ったんだけど」

 ロリコン!変態!?

 やだ、カイがすっごい誤解を受けている~!

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