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しりとりは、意外と難しい…

 小学校一年生になりました。

 勉強を教えてもらえるだなんて、とても楽しみです。

 そもそも前世では、わたしは最低限の読み書きしかできませんでした。貴族ぐらいしか学校に行かないので、孤児で読み書きできるのはマシな方なんですけど。

 でも、この世界では誰でも、少なくとも9年は勉強できるのですね。もしも大学まで行ったら……16年?!そんなに長く勉強できる環境があるって信じられないです。

 でも、お姉ちゃんは「勉強なんて面白くなーい」と言います。どんどん難しくなってゆくから、大変なんでしょうか?わたし、ちゃんと卒業できるかしら?


 学校では、体育とか図工とか、面白い教科もありました。まさか、運動や絵を教えてもらえるなんて。不思議ですね。

 そうそう、音楽もあるんですよ。一年生はピアニカですが、もう少し上の学年になると笛を吹くそうです。楽器ができるようになるなんて、信じられない。ああ、うれしいな~。

 どんどん文字も覚えて、難しい本だって読めるようになってきました。そして算数ができると、お買い物もワクワクしますね。お小遣いをもらっているので(働いてもいないのに、ありがたい話です)、そのお金で何が買えるか、計算するのが面白いのです。

 わたし、まだ6才ですけど……この調子なら、1年後でもう前世より賢くなってそう。だとすると、小学校を卒業する頃には、きっとものすご~く賢くなっていますね。うふふ。

 さて、2学期になって、ちょっと授業が進まなくなってきました。

 理由は……隣の席の三ツ木翔梧(しょうご)くんにあります。

 三ツ木くんは、授業が始まったら教室をウロウロするのです。

 そして、人の鉛筆を取ったり、黒板に勝手に落書きしたり。先生が注意しても聞きません。

 そのうち他の子も騒ぎだして立ち上がり、友達と遊んだりします。

 その頃になると担任の山尾家(やまおか)先生は、泣きそうになってしまいます。ちなみに山尾家先生は女性で、今年、28才だそうです。

 わたしは、どんどん授業を進めてほしいのですけど、難しそうですよね……どうしたらいいんでしょう?

 ある日、休み時間に三ツ木くんに声をかけてみました。

「三ツ木くん。わたしと勝負しない?」

「あぁ?なんの しょうぶだよ」

「しりとり。三ツ木くんが勝ったら、給食のデザートあげる。わたしが勝ったら、三ツ木くんは授業中に席から動かない」

「……いいぜ」

 こうして、わたしと三ツ木くんの勝負が始まりました。

 だけど、休み時間だけでは足りません。

 三ツ木くんが「どうすんだよ!」と言うので、ノートで勝負の続きをすることにしました。しゃべらずに、文字で順番に書いていくのです。

 わたしは授業が聞けなくなっちゃうけど……これなら他の子に迷惑はかかりません。

 ―――かぶとむし。しか。かめむし。しいたけ。けむし。しお。おおぞうむし。

「え?そんな虫、いるの?」

「いる。コウチュウ目の虫だ」

 ……しょうがっこう。うりはむし。しわ。わらじむし。

「三ツ木くん!虫ばっかりズルい!」

 とうとう、わたしは小さな声で文句を言いました。こんなの、卑怯です!

 すると、三ツ木くんはニヤリと笑いました。

「さくせんだよ、さくせん。オレの勝ちだな」

「うぐぐ……」

 く、悔しい。まさか虫に負けるなんて。

 だけど三ツ木くんは、勝ったのに給食のデザートはわたしに返してくれました。

「おまえ、弱っちかったからな。こんなんでデザートとったら、かわいそうだし」

 三ツ木くんって、実は優しい人ですね。


 山尾家先生には「左塔さん!どうやって三ツ木くんを座らせたの?午後もお願いしてもいい?」と言われました。

 え、えええ?!どうしよう。

 三ツ木くんの虫知識には勝てないのに……。

 だけど、せっかく三ツ木くんと仲良くなり始めたので、ここで終わりは良くない気がします。

 よし、昼からもがんばってみよう!

 

 午後は、“ん”で終わる言葉の勝負にしました。

 これなら、なんとかなるかも……!

 うどん。かなぶん。ふとん。みどりひょうもん。しんかんせん。うらぎんひょうもん。みかん。くもがたひょうもん。きりん。つまぐろひょうもん。

「まって、まって。ひょうもんって何?!」

「ヒョウモンチョウっていう、チョウチョさ」

「ええ~、種類多すぎるよ……」

 結局、わたしはまた負けたのでした……。

 

 帰り道。

 わたしは三ツ木くんに聞きました。

「三ツ木くんって、虫が好きなの?」

「おう。ずかん、5さつもってる。ほとんどおぼえてるぜ」

「すごーい。頭いいんだね」

「……そんなことない」

 これ、謙遜っていうやつですよね。三ツ木くん、カッコいいな~。

「わたしは、図鑑1冊分も覚えてるもの、ないよ。頭が良くないと覚えられないよ。三ツ木くんは将来、昆虫博士だね!」

「お前のほうが、べんきょうできるだろ。お前のほうがスゴいよ」

「でも、三ツ木くんは学校で教えてもらってないことをいっぱい自分で覚えたんでしょ?じゃあ、三ツ木くんの方がすごいよ。今度、虫のこと教えてね」

「ああ。おしえてやる」

「ありがとう!」

 ───次の日から、何故か三ツ木くんは授業はおとなしく座って聞くようになりました。

 そして、わたしにいろいろ、虫のことを教えてくれました。

 それまで虫って気持ち悪いと思っていましたが、花みたいなカマキリとか、鳥に食べられないよう目みたいな模様のある蛾とか、変わった虫がいっぱいいると知って……わたしは世界って面白いものがたくさんあるんだと改めて知ったのでした。

山尾家先生、ちょっと頼りないですが……まだ若いので、これからきっと頑張って良い先生になってくれると思います。

「ゆ、優那ちゃんに負けてられないわ!」

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