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転生聖女は生まれ変わっても聖女する  作者: もののめ明
本編

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10/20

聖女なので、人の心の闇も祓います

今回の問題は聖女の力で無理矢理、解決……。

 中学1年生になり、憧れの制服ライフになりました。ちょっと大人に近づいた気分です。

 うちの中学は、必ず何かの部活動に入らなければならないため、わたしは写真部に入部です。せっかくカイのところでお手伝いしているんですもの。もっと写真に強くなりたいですよね。

 ということでカイは、中学入学のお祝いとしてカメラをプレゼントしますと言ってくれました。

 新しいカメラを買うつもりだったようですが、わたしは、カイが使っていた古いカメラ(現在は使っていない)をぜひ譲って欲しいとお願いしました。だってカイが愛用していたカメラ……新品より価値があります!

 もらってから、後で値段を調べたらすっごく高くてビックリしましたけどね。カメラってこんなに高いのか……。しかも部活のカメラよりも高額なので、クラブで使うのは無しです。怖くて学校へ持っていけない。

 一方、瘴気の方は、特に出現がありません。

 ということで、最近はカイの事務所で聖力の制御特訓をしています。毎回、浄化し終わって寝込むのは困りますからね。自分の使える量、抑えた使い方を把握しておく必要があります。前世とは少し感覚が違うので、体が覚え込むまでは時間が掛かりそうです。

 ところでですね……今、大きな悩みがあるんですよ。

 なんとかカイとデートをしたいと思っているんですが、全然、出来ないんです。月に1回の事務所へ行く日は、仕事的な話と聖力の特訓だけで終わってしまいます。他の日に一緒に出掛けようと誘ってみても、仕事で断られてばかり。

 えええ~、わたしのために空けてくれないの?!

 かといって、カイがよそよそしくなったワケではありません。相変わらず、わたしを一番大事にしてくれています。何かあれば、全部放りだして常時護衛する気持ちでいっぱいみたいです。

 う~ん、どう距離を詰めていけばいいのかしら。


 さて、2学期も半ばになった頃、わたしは急にイジメに遭いました。

 朝の挨拶をしても無視され、教科書がゴミ箱に捨てられてしまったり。

 ……何故?

 わたし、何かしたでしょうか?分かりません……。

 物が隠されたり、捨てられたりするのは困るのですけど、実は聖力は便利な部分がありまして。わたしの持ち物には、わたしの聖痕というか聖力に触れたあとが強めに残っています。それを探れば、どこにあるか調べるのは簡単なんですよね。

 なので、破られたり落書きされたりする方がかなりダメージ大きいです。

 無視される件については、前世でも先輩聖女に同じことをされたことがありまして、まあ、もう仕方ないかな~と静観することにしました。嫌いな人間から話しかけられても、イヤな気分になるだけでしょうし。

 ということで、休み時間は本をゆっくり読めて助かります。

 最近、お姉ちゃんからオススメ恋愛小説をいろいろと借りていて、それがどれも面白いのです!でも、どの本も男性側からのアプローチが多くって。わたしが使えそうなテクニックがない……。

 そんなある日、トイレで数人のクラスメートに囲まれました。

「お前、いっつも澄ましててムカつくんだよ!」

「ちょっとカワイイからって気取ってんなよ」

「もう学校来んな、ブス」

 ほとんど喋ったことがなかったんですけど、わたし、相当嫌われていたのですね!イジメられているから分かってはいましたが、面と向かって言われるとショックはショックだなぁ。

「ごめんなさい。……なるべく、席でおとなしくしていたんですが、それでもダメですか?中学は義務教育なので、学校をサボるわけにはいかないし」

「はあ?!フザけてんのか、お前!」

「あ、お前ではなく、左塔です。えーと…耶麻田(やまだ)さんと、寿々木(すずき)さんと、多加橋(たかはし)さんでしたっけ?」

「なっ。……馴れ馴れしく名前を呼ぶな!」

「えっ。名前を呼ばなかったら、何とお呼びすればいいんですか?1年3組のとても綺麗なストレートロングの背の高い方、ショートボブでよく通る素敵な声の方、セミロングでアイドルになれそうな目の大きい可愛らしい方――でも、なんとか分かるかも知れませんけど、ちょっと長くて不便です」

「…………」

 3人は気味悪そうに顔を見合わせています。あら?わたし、変なことを言いましたかしら。

「頭、大丈夫か、お前」

「5才のときにジャングルジムから落ちて頭を打ちましたが、MRIの結果は問題なしです。その後、特に頭を打ったことはないので大丈夫と思います。ご心配、ありがとうございます」

「そーゆーことは言ってない!」

 え?じゃあ、どういう意味なんでしょう。

 寿々木さんの目が鋭くなりました。ぐっとわたしの髪を掴んで、引っ張ります。

「とにかく、あんたは気に入らないんだ。死ねよ」

 彼女の胸の奥に、黒い、黒い塊が見えました。たぶん、長い間、心が傷つけられて出来た黒い闇。

 闇は、光を嫌います。彼女がわたしを嫌悪してしまう、一番の要因はこれですね。

「ご家族と上手くいってないんですか?うちも一時期、両親の離婚問題で揉めました。家族って難しいですよね。……わたしでは全然力になれませんが。せめて、その傷ついた心は癒させてください。そんな闇を抱えたまま、日々を送るのは苦しいでしょう?」

「なに……を……」

 寿々木さんの手を取って、そっと聖力を流しました。心の闇は瘴気を生じます。瘴気は少しずつ精神を貪って、自身ではどうしようもない暴力行為に及ぶ場合があります。今ならまだ、瘴気に全身が染まる前ですから本来の気質に戻ることが出来るでしょう。

 寿々木さんの目から涙がこぼれ落ちました。

 それを見た耶麻田さんと多加橋さんの顔色が変わります。

「おい?!どうしたんだよ、何された!」

「あなた達にも闇が見えますね。大きくなる前に消しましょう!」

「ちょ……止めろっ!」

 思わず後ずさる2人の手を取り、わたしは一気に聖力を流しました。寿々木さんよりは小さいけれど、2人ともしっかり瘴気に侵されています。充分、日常生活に支障が出るレベルです。心の奥底に巣食う闇は、そばで診ないと分かりにくいんですよね。もっと早くに気付くべきでした。

「ああ……!」

 2人も涙を流し始め、わたしは無事に浄化できてホッとしたのでした。


「え?優那、年上好き?」

「ちがうの、年上好きじゃなく……好きな人がたまたま年上だったっていうだけで……」

「でも12も年上って厳しくね?」

「うん……全然、相手にしてくれなくて……」

「そりゃ、中学生に手を出したら犯罪だしねえ」

 その日から、急にわたしが耶麻田さん・寿々木さん・多加橋さんと仲良くなったので、クラスのみんなは驚愕しているようです。遠巻きに様子を窺われています。

 浄化して、心がすっかり軽くなった3人は何故かわたしと「友達になろう!」と言い出して毎日、休み時間は一緒に過ごしています。みなさん、家庭環境が複雑なようです。わたしではちっとも力になれませんが、「愚痴を聞いてもらえるだけで、ちょっと心が軽くなったよ」と寿々木さんは言います。愚痴なんて、いくらでも聞きます!

 耶麻田さんは、「さっさと家を出て、幸せになろうっと」ですって。その強さがカッコいいです。

 ちなみにわたしの愛読書の話から、いつの間にかわたしの恋愛の話になり、全員にわたしは年上の男性カイが好きだとバレました。今はどうやってカイに意識してもらうかという相談に乗ってもらっているところです。

「とりあえず、もう小学生じゃなく大人の女だって気付いてもらわないと」

「そうだよ。あ、次にその事務所へ行く日はいつ?化粧、してあげる」

「持ち物も、キャラクターグッズは止めよう。子供っぽいって」

 うわぁ、とても為になるアドバイスばかり。

 よし、ガンバるぞ~。

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