8話、決闘2
「キィーンっ!」
会場に鋭い音が響いた。
『まさか、無剣の奴が勝ったのか?!』
『俺たちは夢を見ているんじゃないか?』
そんな中一人の生徒が指を指しながら言った。
『おい、あれを見ろ!』
観客の視線が一斉にラルが持つ剣に集まった。よく見るとヴァルタの体10cm位のところで透明な壁のようなものに剣が止められている。その瞬間気づいた『魔法障壁』だと。
魔法障壁は物理攻撃を緩和する位の力しかないが、それはお互いが身体強化してる場合、ラルの場合は、身体強化していないから、攻撃が魔法障壁を破る事が出来ない。
今思えば、始めからヴァルタは身体強化しているように見えなかった。
「やっぱり手を抜いていたんだ…」
「当たり前だろう。魔法が使えない奴を魔法でいたぶってもつまらない。
ならどうすれば面白いか考えた。魔法が使えない奴に残ってるのは自慢の剣術だ。
剣しか使えない奴を剣で倒す、これほど楽しいものはない。そうだと思わないかい?」
クズだ。相手の心を折ることを楽しんでいる。
「だが俺は剣でお前に勝てない。褒めてやるよ、剣の天才。ここからは手加減無しだ
本気でいかせてもらう」
(やることは一つだ。魔力は無限じゃない、有限だ。ならどうする?簡単だ。魔力がきれた瞬間を狙う。)
ラルは地を蹴りヴァルタに迫り、剣を振るった。ラルが振った剣はヴァルタの首に届く寸前で「カンッ」と音を立てて動きを止めた。理由は簡単だ。ラルが振り切るよりも早くヴァルタが己の受け身をとったからである。
「くっ...」
相手の剣を振り解こうと全力で力を込めたがピクリともしない。
「どうした?剣の天才よー!こっちからいかせてもらうぜ」
そう言って不気味な笑みを浮かべたヴァルタは一瞬にして姿を消した。四方八方見渡したが見つからなかった。
(あんな巨体を見逃すはずがない。)
つまり…上!
「フッ」
「ッ…!?」
気づいたときには遅かった。ネズミを見つけた蛇のように真上から流星の如き速さで落ちてくる剣がラルの体めがけて振られた。
「負けた」
迫り来る剣が怖くて目を瞑ってしまった。
しかし不思議なことにいつまでたっても痛みを感じなかった。
目を開けるとそこには目の前で大剣を止めているヴァルタの姿が目に入った。ヴァルタだけじゃない観客も全て…
スローだ。
突然夢の中で聞いた声と同じ声が聞こえた。
「今は時間が無い」
あたりを見渡しても誰もいない。
「私を感じて」
私って言っているから女だと思うけど…
彼女が言う前から、胸の真ん中あたりから特別な、なにかを感じていた。
そのなにかは呼吸と同時に体全体に広がった。
いつの間にかスローモーションの世界で僕は動けるようになっていた。
落ちてくる剣をゆっくり避け、ヴァルタの体に反撃した。
10cmのところで透明な壁を感じたが、紙を切るかのように簡単に斬れた。
観客はもう誰も喋っていない。ただ試合の行く末を見守るだけだった。
「バタッ」
静かな会場に音が響く。決着がついた。
「しょ、勝者ラル!」
審判がバトル終了の合図をだした。それと同時に歓声が会場を包んだ。
あの声は一体…