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4.腫れ物王妃①

あれからアンレイは私と一度も顔を合わせることなく、側妃シャンナアンナを連れて辺境の地へと向かった。


そしてその知らせを私が知ったのは、彼らがすでに王宮を出立した後のことだった。


「申し訳ございません、王妃様。国王陛下は急な公務の為に側妃様を伴って辺境へと向かわれました。一週間後には戻られる予定でございます」


頭を下げながらそう伝えてくる宰相。


 また事後報告なのね…。


国王の命にただ従っているだけなのだから、宰相を責めても意味はない。


でもアンレイから直接聞きたかった。『行ってくる、待っててくれ』と私に言って欲しかった。


 そんな時間をさえ作れなかった…?

 それとも掛ける言葉は必要ないと思ったの…。

 


胸の内に湧き上がる思いに蓋をして、当然の疑問だけを言葉にする。


「なぜシャンナアンナ様も一緒に行ったのですか…?」


王妃が不在ならば、その代わりに側妃を公務に伴うこともあるだろう。

でも今は私がいる、それは本来王妃の役目だ。

 

「国王陛下は帰国したばかりの王妃様を気遣っておられました。少しずつ学んでから公務を増やしていけばいいと。それに側妃様は公務に精通されておりますので、心配は御無用です」

「そう…。もう下がっていいわ」

「では失礼いたします、王妃様」


アンレイが私を気遣ったのも嘘ではないと思う。けれども私よりも側妃のほうが役に立つというのが本当のところだろう。


それは宰相の言葉からも感じた。

私を見下しているのではない、でも明らかに側妃への評価が高く信頼していると伝わってきた。



 なにが本当なのだろう……。



私が抱いた側妃への印象は、強かで狡猾な女性というものだった。


周囲には気づかれないように、でも私だけに伝わるように不快な言動をしてくる。

もし私が少しでも反応しようものなら、きっと陥れるつもりなのだろう。


証拠はない、でもあの目を見れば分かる。


――彼女にとって私は邪魔な存在。



でも宰相はそんな風に思っていないようだ。


側妃は二年間も上手く隠しているのだろうか。自分にとって必要な人物には表の顔を、それ以外には裏の顔と使い分けている?

貴族は器用にいくつかの顔を使い分けたりする。だから彼女がそうだとしても驚きはしない。


でもこの私の認識は正しくはないとすぐに知ることになる。







「こんな扱い絶対におかしいです!ジュンリヤ様が三年間も隣国で耐えてきたこそ、今この国は平和になっているんです。それなのに王妃であるジュンリヤ様よりも側妃様を褒め称えて…」


今は部屋の中には私と侍女クローナしかいない。

だから彼女は感情を抑えることなく私のために怒ってくれている。


国王と側妃不在の王宮で、クローナは私の為に情報を集めてくれていた。

王妃という立場の私には侍女や護衛騎士達も本音を漏らすことはない。でも同じ立場であり、かつ男爵令嬢という低い身分のクローナとは気安く話すようになっていた。


クローナ曰く、王宮で働く人々はみな側妃を褒め称えているという。


『側妃様がこの二年間国王陛下を支えてくださったから、王妃様は三年間で帰ってくることが出来たんですよ』

『きっと側妃様がいなければ、ここまで復興は進んでいなかったでしょうね』

『側妃様を娶った時は隣国にいる王妃様のことが頭に浮かんで、正直どうかと思ったけれど、今となっては国王陛下の英断だったと分かるわ』


誰も否定的な事を一切口にしない。


『でも、裏ではどうなのかしら…?下の者には意地悪とかしているかもしれないでしょ』

『それはないわ。側妃様は厳しい人だけど、いつだって理不尽なことは言わないわ。あんな素晴らしい人だから、国王陛下から是非にと望まれたのよ』


クローナが水を向けても、答えは同じだったという。



誰に対しても分け隔てなく接しているのなら、それはもう裏の顔がないということだろう。

本当にそうなのだろうか?

でも全員を欺くことは難しいことだし、もし猫を被っていたら誰かしら違和感を抱くものだ。



クローナは腹を立てながら、王宮内で見聞きしたことを私に伝えてくれる。


どうやら側妃はもともと優秀な人物だったらしい。側妃になるとすぐに積極的に公務を手伝い、今や国王陛下の隣に欠かせない存在として周りから認められているという。


「悔しいです…。確かに側妃様の功績は素晴らしいのでしょう。でもそれはジュンリヤ様の犠牲があったからこそです。それなのに、誰も彼もが側妃様、側妃様と浮かれて煩いです!それに比べて王妃であるジュンリヤ様のことは腫れ物のように扱って。一部の侍女達は酷い噂まで流しているんです、もちろん誰も信じてはいませんが…。私、国王陛下が戻られたら直訴します」


クローナは目に涙を浮かべて訴えてくる。彼女がそういうのも当然だった。


王宮での生活に不自由はない。『国を守った王妃』として心から尽くしてくれる。


悪意などない、それは分かっている。


――…でも違うのだ。



王宮で働いている者達は、側妃の惜しみない努力を近くで二年間も見続けてきている。


だから彼らの側妃への忠誠心は揺るぎないものだ。

それは臣下として決して間違ってはいない。



『そんな側妃様を差し置いて、王妃様に尽くしていいのか…』

『人としてそれは薄情すぎるのではないだろうか』

『側妃様が心を痛めたりはしないだろうか…』


誰もそんなことを口にはしない。

でもそんな戸惑いみたいなものは、隠そうとしても伝わってくるものだった。




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