28.レザの正体②〜レザ視点〜
ジュンリヤとの接触は俺の個人的なことだが、ランダには隠すことなく報告をしている。
俺に万が一に何かあったら、その尻拭いは嫌でもランダが第一王子として行う必要があるからだ。
上に立つ者は臣下が関わったことを本当に知らなかったとしても『関係ない』とか『知らなかった』では済まされない。
この場合前者がランダで、後者は当然俺だ。
「国王は王妃の言葉に耳を貸さなかったようだ。すぐにジュンリヤは部屋から出てきて、その後酔った国王は側妃の部屋に向かった」
俺の知っている事実のみを言葉にする。
憶測や希望的観測は報告には必要がない。そんなものは判断を見誤るもとになるだけだ。
だから言葉にしなかったが、国王とジュンリヤの間で何があったのか予想はついていた。たぶん国王はジュンリヤの中に残っていただろう想いとも言えないなにかを跡形もなく消し去ったのだろう。
もし間違えなければ、そのなにかが彼女との未来の可能性を僅かに残すことになったかもしれないのに。
――その愚かな選択に感謝しかない。
会話を聞いていたわけではないが、出てきた時の彼女の表情がすべてを表していた。
それに後から出てきたあの男の苦悶に満ちた顔は己の過ちの大きさに耐えられないという感じだった。
だからきっとあの愛していない側妃の元へ行ったのだろう。互いに心を開いていない関係ならば気が楽だったそんなところだろうか。
愛する人の心が自分から去ってしまったという事実と向き合いたくなくてあの男は逃げた。
ジュンリヤを追いかけることすらせずに。
まあ、その気持ちは分かるがな…。
理解できるというのは逃げたことではない。当たり前だが俺だったら逃げはしない。
だがジュンリヤから拒まれた苦しみだけは十分理解できてる。
もし俺が完璧に拒絶されたら狂ってしまう自信はある。
――いや、確実に狂う。
それから彼女が幸せだったらそっと側から離れる。万が一にも狂った俺が彼女を傷つけたりしないように。
ジュンリヤを傷つけ続ける行動は理解できないし、己を憐れんで側妃で気晴らしなんて愚かだとしか言いようがない。
…理解し難い馬鹿だな、アイツは。
国王は不運だったと同情はする。あの男はこの状況で王になる器ではなかった。
確かにそんな王は珍しくないが、それだけでなく臣下にも恵まれなかった。真面目で性格が良いだけでは役には立たない。
主従共に一杯一杯だったのだろう。だから正しい選択が出来ずにズルズルと流されてしまったんだ。きっと心の中では都合のいいように言い訳でもしていたんだろうか。
まあ、どうでもいいがっ。
そしてせっかく大切な人をその手に取り戻したのに、そこでも間違えた。
――だから俺がここにいる。
ジュンリヤが幸せだったら、俺は彼女に声を掛けることはなかった。
運命は俺に味方してくれた。だからこのチャンスを無駄にはしない。
俺はそもそも愛する人にあんな思いは決してさせない。その言葉で、その態度で、俺の想いを伝える努力をする。
そんな些細なことを惜しんでいったいなんの意味があるというんだ。
――なにもない。
そんな簡単なことも分からないなんて、男として無能としか思えない。
「アンレイ国王は自ら最後のチャンスを手放したか。まあ想定内だから驚きはしないがな。これで私の良心も傷まずに済むから逆に有り難い」
「はっ、そもそも何があっても傷まないだろうがっ」
「確かにレザムの言う通りだな」
俺の言葉にうんうんと頷きながらランダは笑った。
俺達王族が守るべきは忠実な臣下と自国の民達だ。
他国への干渉も自国を守るための一環にすぎないし、ましてやこの国の烏合の衆に同情し心を痛めることすら惜しい。
そんな時間と労力があるのなら、自国の民がもっと豊かに生活できるよう働くのが王族の務めだ。
『王族は民の奴隷であれ』も俺達王族の流儀だ。
――…これも当たり前すぎる。
どうやら俺達の先祖は流儀を考えるのが面倒だったとしか思えない。
昔この流儀を考え直そうとした時があったらしい。
だが出た案が『王族は伴侶の下僕であれ』とかそればかりだったので、結局は当たり前から抜け出せないと諦めたと聞いている。
俺は先祖達とは違うと以前は思っていたが、……今は同じ言葉しか出てこない。
読んでいただき有り難うございます