22.視察の違和感①
レザは思ったことをただ言ったのかもしれない。
でも私が言えないからこそ、彼が代わりに言葉にしてくれたのだと感じた。
だってここでそれを言葉にしても彼に利益はない。
人の為にわざわざ腹を立てるのは、…強くて優しい人だからだ。
口が悪いのは単にその照れ隠しみたいなものなのかも…。
何も言えずにいる私に彼は構うことなく話し続ける。
「民すら忘れていない、誰の犠牲の上で成り立っている復興なのかを。じゃあなぜ貴族だけは簡単に忘れているんだ?自分達が王妃を人質として差し出すことを決めたくせに。はっ、忘れてはいないだろうな。ただアイツらは復興という名のもとに貴族のために身を粉にして働いた国王と側妃にすり寄っているだけだ」
レザの真っ直ぐすぎる言葉が胸に突き刺さる。
「そんなことはないわ。アンレイは民の為に税の免除を……」
それは違うと思いたかった。だから反論しようとしたけれど、その言葉は途中で途切れてしまう。
――…していなかった。
それは国王ではなく、隣国からの提案という名の命令で行われたものだ。
ではアンレイは何をしたのか。
いろいろ行っていたはず国の為に、民の為に……。
「復興自体は進んでいる。だがまずは貴族優先、ついでに民だ。いや正しくはおまけだな」
「……」
レザの言葉に反論できない。
この視察に同行して私もそうを考え始めていたから。
復興は偽りではないし、それはアンレイ達の政策があったからこそだ。
民の生活は元に戻りつつあって、確実に笑顔も戻ってきているの紛れもない事実。
でもそれ以上に感じたのは、敗戦後にも関わらず一部の貴族達がかなり潤っていたことだ。
この三年間でどうしてあそこまで…。
領民からの税が入ってこない状況のなか領主である貴族は財政難だったはずだ。
その穴をその貴族の才や努力で補っていたのかもしれない。
それは否定できない。
でも視察を通して『それにしても…』と拭いきれない違和感を覚えた。
政策自体は間違っていない、でもなにかが引っ掛かかっていた。
アンレイはこの視察で疑問に思っていないのだろうか。
宰相、側妃、そして有力貴族達は誰もが順調な復興を前にして満足そうな顔をしていた。
私は残念ながら隣国にいたので復興事業に関われなかった。
でもこの三ヶ月間この国の状況を正確に把握しようと努めてきた。
関われなかったけれど、これからは違う。
今後のために今までのことを知ろうとした。
だから王妃の権限を使って閲覧することが可能なものは確認し学んでいた。
そして知ったのは国王アンレイの努力と素晴らしい功績。
――完璧だった、机上では。
けれど視察に同行し見えてきたこともある。
私でさえも…。
それなのにアンレイ達が気づかないわけはない。
彼または彼らがこの違和感を黙認している、もしくはそうなるように仕向けたのだろうか。
ギリッ…。
まだ何も確定はしていない。
けれども自分の犠牲はなんの為だったのかと唇を噛みしめて空を仰いだ。