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こんな馬鹿げた戦略あってたまるか!!

 毛食賊襲撃より数時間、キャロット城城壁内部。


「いんやーたまげたなー、唐突にゴブリン共が襲ってくるなんてよぉ」

「んだんだー家も建て直さにゃならねーなー

、愚ーサーは金出してくんねーだろうし・・・ん?ありゃ愚ーサーじゃねぇか?」


 俺は呑気に酒を呑みながらこちらに手を振る村人を軽く睨む。

 あの燃え盛る街を見て、そしてその住民達の為に心を痛めた俺のピュアハートを返して欲しい。 

 

「アーサー王、これはどういう事だろうか?」

「どういうって言われてもね・・・多分ウチの軍師様なら知ってるんじゃないか?」


 俺は城壁の上で何やら空を見上げているアズリエルさんに近づく。


「おかえ り?」

「・・・ただいま」


 アズリエルさんは一瞬だけ俺に視界を移動させると、またすぐ空を見上げてしまう。

 何を見ているのかよく見てみると、アズリエルさんのペットの鶏達・・・?

 騒ぎに便乗して逃げ出した訳ではないのか?

 よくよく見るとエンゲージリングで囲まれているが・・・今はそんな事は後回しだ。


「これはどういう事だ?」

「アーサー外出 ゴブリン 攻めて来た」


 なるほど、俺達がクエストに出発した後、ゴブリンの集団がキャロットを攻めて来た。

 それにいち早く気づいたアズリエルさんが村人の避難誘導を行い、籠城戦をしていると。

 もう本当、流石アズリエルさんとしか言いようがないな。


 苦笑しながら様子を見ていると、アズリエルさんが目をキラキラ?させる。


「みつけ た」


 アズリエルさんはそうチャットを流しながら俺にエンゲージ、俺の視界にターゲットマーカーが移る。


 あれは・・・!?

 真っ暗闇のせいでターゲットをとれても一瞬何もない風に見えたが、俺の暗闇慣れした引きこもりアイは目標を捉える。


「あの軍旗は・・・のぶにゃが軍!?」


 救援に来てくれたのか!

 アズリエルさんのおかげで被害は最小限に抑えられているものの、キャロット兵は士気ゲージがだだ下がり。

 正直今すぐにでも駆けつけて欲しい物だが・・・様子がおかしい。


「何だ?あいつら何であの場所を動かないんだ?」


 のぶにゃが軍の異様な雰囲気に首を傾げる中、アズリエルさんが空中に向かって手をかざす。


「同盟条件 のぶにゃが は 他国からの侵略からキャロットをまも る だよね?」

「え?あ、ああ、もし破ればのぶにゃがは他国との外交に大きな支障をきたす事になるだろうな」

「他国 モンスターは 含まれない」


 俺はアズリエルさんのチャットに目を見開く。


 あのチャットをめんどくさがるアズリエルさんがこんな長文を?

 ああ・・・今までの俺の苦労が報われたような・・・って今はそっちに驚いてる場合じゃない!


「んな屁理屈通ってたまるかぁ!?どちらにせよのぶにゃがの信頼は地に墜ちるだろ!?」

「証明の方法が ない」


 ・・・そういう事か!

 ここにいるのは俺達キャロット陣営とのぶにゃが陣営のみ、第三者がこの戦の内容を知る術は無い。 

 しかもモンスターに城が落とされるのはゲームの仕様、キャロットがモンスターに落とされたという知らせは公式サイトに載るが、そこにのぶにゃが軍がいたという知らせは告知されない。  

 そしてモンスターに落とされた領地は無人地帯となり・・・


「のぶにゃがは同盟条件を破る事無く俺達の城を奪える・・・と?」

「そう」


 なんつー腹黒、流石の俺も心底ひくわー。


「だがそういう事なら話が速いな、今ここでのぶにゃが軍のスクショをとれば奴らは言い逃れ出来ないぞ」

「だめ」


 意気揚々とスクリーンショットを構える俺をアズリエルさんがチャットで止める。


「その場合 のぶにゃがは ピンチを助けた英雄」

「・・・もしスクリーンショットを撮られた場合は、陥落寸前の俺達に救援として現れると?」

「そう 周りの国から一目お かれ のぶにゃがに不満を持ってる民たち は」

「のぶにゃがが英雄となる事で、一時的にのぶにゃがに対しての不満が薄まる」

「そう」


 なるほどなるほど、つまり整理すると。


 ①このまま毛食賊との戦闘に負け、無人になった城をのぶにゃがに明け渡す、兵の浪費無く簡単に領地拡大のぶにゃがうまー。

 ②のぶにゃがが助けに入り、のぶにゃがは周囲から絶大な信用を得る。のぶにゃがうまー。


「ハメられたぁぁぁぁぁぁっ!」


 じゃ何か?今回のぶにゃがが俺に同盟を結びに来たのって全部俺をダシに使おうとしただけ!?

 うぐおおおおお!?ふぐおおおおお!?


 頭を抱えて地面を転げ回っていると、アズリエルさんが振り上げていた手から炎玉を射出する。


「なっとく いかない だから てつだっ て?」


 炎玉に照らされ、アズリエルさんの表情と手に持っている物があらわになる。

 一見するといつもの無表情、しかし何か恐ろしい空気を纏ったその表情と、その手の上で震動するバリカンを見て俺はガクガク頷くしかなかった。


       ◇


「にゃはははは!アーサーっち見事にみゃーの手のひらの上で踊ってくれたにゃ~」 

「流石は姫様、この猫柴田感服しました」

「うむうむもっと褒めるが良いにゃ!特別にみゃーのういろうを食べる事を許可するにゃ」


 キャロットから少し離れた真っ暗な森林の中、2百の兵士に囲まれたのぶにゃがと猫柴田が笑い合う。

 アズにゃんを見たときは何か見透かされたような気になって少し焦ったけどにゃ?蓋を開けてみれば大したこと無かったにゃ。

 

「この調子ですとあと数分もすればこの地が我が軍の物になるでしょうな」

「にゃっはっは!しかしここまで順調すぎるとかえって嫌にゃ予感がしてきたにゃ~」


 そう、順調に行き過ぎている、相手が何もアクションを動かさないだけでなく、まるでみゃー達がこう動くように仕向けられているようにゃ・・・


 のぶにゃがが思考を巡らせる中、陣幕の中にドタドタと兵士が転がりこんでくる。


「でで伝令!我が領地にて集団一揆発生!暴動民の数はおおよそ1万は軽く超えているとの事!」


 どうやら悪い予感は当たったようだにゃ・・・!


 のぶにゃがが険しい顔を浮かべる中、猫柴田がチャットを荒げる。


「何故今になってそんな暴動が起きたのだ!」

「そ、それが、我が領地にも偶然大量の毛食賊が現れ・・・」


 偶然?このタイミングで?そんにゃ事あるわけがないにゃ。


「だが我が軍は強者揃い、その毛食はすぐ討伐出来たのであろう?」

「っは!しかし民衆より毛食が襲ってきたのに姫は他国に行っていると騒ぎが拡大していき・・・」

「大規模な一揆が巻き起こったというわけにゃ?」

「っは!」


 にゃるほど、元々不満が限界に近かったエンドであれば、少し小細工をすれば一揆にゃんて簡単に引き起こせそうだにゃ。


「にゃるほど、アーサーっちはみゃー達が良いとこ取りするのは気に入らないみたいだにゃ」

「・・・どうなされる?ゴブリンと言えど相手は毛食、対峙すれば一揆の鎮圧に間に合いませんぞ?」

「どうするかだって?そんにゃのさっさと引き返すにゃ」


 元より今回は様子見、モチロン隙だらけなら領地は貰うつもりではあったけど・・・にゃ?

 

 問題はどうやってエンドに毛食賊を仕向けたかって所だがにゃ・・・まぁその辺は帰ってからじっくり確認させてもらうにゃ!


 軍を反転し、からから笑っていたのぶにゃがは、ここに来て違和感に気が付く。

 毛食賊を城の外で各個撃破していたキャロットが、いつの間にか森林でも戦闘を開始しているのだ。 

 

「籠城戦から作戦を変えて来たにゃ?けどそんにゃ事をすればすぐに陥落・・・」


 する、と思ったのぶにゃがは、いつのまにか不自然に左右で繰り広げられている戦いにハッ息を呑む。


「にゃ!?みんにゃふせるにゃ!」


 のぶにゃがのチャットに一斉に軍団が伏せ、その上を大量の矢が通り過ぎる。

 

「ひ、姫!何が起きたのであろうか!?きゃつらは同盟中故我等に攻撃は出来ない筈」 

「・・・」


 同盟期間中は領主の許可無く攻撃対象には出来ない。

 そう、攻撃対象に出来ない、それはつまり・・・


「皆!流れ弾に気を付けるにゃ!」


 毛食をターゲットにした矢が偶然当たってしまう事は充分あり得る。


「アーサーっちの策にしては少し賢い方法をとってるにゃ・・・これはアズにゃんが動いてるにゃ」

「ほう?流石はのぶにゃが様曰く何か恐ろしい物を持った娘!鉄砲隊、キャロット軍後方のゴブリン共に鉛玉をぶつけてやれぇい!」


 猫柴田の一声と共に爆裂音が響き、毛食賊がバタバタ倒れていく。


「がっはっは!これぞ弓兵の上位互換たる銃兵の実力、攻撃力もさることながら命中力も格段に上じゃ」


 上機嫌に解説する猫柴田に、のぶにゃがは小さく呟く。

 そう、命中力がたかい・・・それは


「・・・誤射の可能性が低くなるにゃ、まずは毛食の少ない右翼を狙うにゃ」


 相手の弓兵はみゃー達の背後の毛食を狙っているにゃ、なら片方の毛食を討伐し終えれば攻撃対象がなくなる、後はさっさと退避すれば野戦にシフトしたキャロットは毛食の数に押されて勝手に自滅・・・にゃにゃ?


 しかしのぶにゃがは、やたらと数の多い毛食賊を引き攣れた左翼の軍の指揮官を見て驚愕に目を見開く。

 

「目標の完遂を確認!全軍、抜頭(ばっとう)!」

「あれは・・・アーサーっち!?」


 のぶにゃがが驚愕する中、キャロット軍が兜をフードを脱ぎだす。


「にゃ・・・にゃにを?こんな戦場で兜を脱ぐなんて死にに・・・」


 しかし次に視界に映る光景、キャロット軍の・・・アーサーのつるっぱげ頭部を見て、のぶにゃがはアズリエルの策に思い至る。


「ぜぜぜ全軍撤退にゃ!急いで戦線を離脱するにゃ!」

「姫様!?ここまで来て一体何を!?」

  

 のぶにゃがの唐突な変化にかつねこが驚く中、のぶにゃが軍から悲鳴が巻き上がる。

 悲鳴の中心には矢が兜に当たり、兜が外れたのぶにゃが兵の頭にしゃぶりつくバーサーク状態の毛食賊。 


「奴らの目的は最初からこれにゃ!みゃー達の兵に毛食賊を押し付けるきにゃ!」

「そ、そんな馬鹿な!?きゃつらはこうなる事を予想していたとでも言うのですか!?」

「そうにゃ!しかも見るにゃ、敵軍から上がっている合図の炎玉、あれがハゲ頭に反射してこの辺り一帯をプチライト状態にしてるにゃ!」


 毛食賊は本来であれば髪を見ないと発狂しない。

それ故の夜フィールドの戦、それ故の小規模軍隊。

発狂さえしなければ、割とレベルの高いのぶにゃが兵ならどうとでも出来るのが毛食族。


本来であればこんな夜戦フィールドでのぶにゃが軍の髪等確認のしようがないのだが・・・

 それを可能にしたのがハゲ頭軍団の頂上の光(トップリュミエール)、しかもハゲ故に毛食賊にターゲットされる事も無い。


 みゃー達がアーサーっちに対面してたった数日でここまで準備をしたにゃ!?とんでもにゃい化け物にゃ!

 

のぶにゃがは今になって相手が同格の存在であると認識を改める。


「だけどみゃーがいる限りのぶにゃが軍に敗走の二文字は無いにゃ!」


 のぶにゃがは細かい指示を出し、崩れた陣形を即座に立て直す。

 のぶにゃがは卑怯を専売特許としているが、それでも広大な領地を誇るエンドを恐るべきスピードでまとめた天才、のぶにゃがさえ、のぶにゃがさえいれば、このようなピンチはピンチにすらなりえない。


『そう のぶにゃがさえ いれ ば だからこそ チェック』


 徐々に混乱が収まるのぶにゃが軍の中心で、のぶにゃがは新たに現れたシステムログに首を傾げる。


【同盟国キャロットにて防衛戦が開始されました】

【自軍がキャロット軍の救援エリアに入りました】


「にゃ、にゃ?こんな乱戦中にキャロットに攻城戦を挑む馬鹿はだれにゃ!?これじゃあみゃー達が撤退できにゃ・・・い?」

 

 困惑するのぶにゃがの正面、切り株をベンチに見立て、白いタイツの男が服の前をはだけさせている。

 それは以前キャロットにのぶにゃがが進軍してきた時、「あなたは男なのに女のキャラを使用している、つまり我が同士なのですね?やりましょう」と、訳の分からない事を言ってきたのぶにゃがのトラウマ。


「やらないか?」

「ぎにゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?」


 ランランロットの出現に、のぶにゃがは完全に冷静さを失う。


「お、落ち着かれよ姫!話によれば奴は今ケツ・ホルグを持っていないただの雑魚ですぞ!」

「っは!そ、そうだったにゃ!今なら大した脅威には」


(ランランロットがモザイクのかかった剣を良い男顔で取り出す)


「ぎにゃああああああああああああああ!」

「ひ、姫様!?おちつ、落ち着かれよ!?」 


 しかしかつねこの声はのぶにゃがには届かない。

 このままでは取返しのつかない事になる。


「姫様、ごめん!」


【柴田かつねこが エンド領から 脱退しました】


 そんなシステムログと共に、のぶにゃがの腹にかつねこの猫パンチが吸い込まれる。


「ぎにゃ・・・ふ・・・」


 かつねこは崩れ落ちるのぶにゃがを支えると、近くのエンド兵を呼び寄せる。

 

「すまないがのぶにゃが様を無事ピーチ山城まで届けてくれ」

「し、柴田殿!?」


 困惑する兵士を背中に、かつねこは長槍を取り出す。

 このゲームでは同じギルドのメンバーを攻撃出来ない・・・だから一時的にエンド領から脱退したが・・・姫様、申し訳ありませぬ。


「ああ、本来であれば無防備な姫様にイタズラをするチャンスだというのに・・・」

「し、柴田殿・・・!」


 かつねこは、まぁ今回は諦めるかと、兵士達に振り返る。


「ここはわしが食い止める、ぬしらは毛食の包囲網を避けながら撤退せよ」

「し、柴田殿・・・」


 感動する兵士を背中に、かつねこは前方から迫って来る白タイツの変態に対峙する。


「私はのぶにゃがと男と男のぶつけ合いをする・・・そこをどいて頂きましょう」

「断る、のぶにゃが様を追いかけたくばワシを倒して行くが良い」


 先程の喧騒が嘘のように静まり返る中、かつねこが分身しながら槍を、横に縦に薙ぎ払う。

 しかし飼猫無双とまで言われた猫柴田の槍は、ランランのモザイク剣によって簡単に止められる。

 否、よくよく見れば、かつねこの全身に白い何かが纏わりつき動きを封じている。


「ただの剣ではないと思ったが・・・」

「接着剣アロンアルファ、その剣筋は男と男の繋がりのごとし、剣先から溢れる白い液体には相手の動きを止める効果がある」

「なるほどのう!じゃがこの程度で飼猫乱舞を止められると思うでないぞ!」


 猫柴田はギリギリと体を動し、槍を振り回して白い液体を振り払うと、ランランに向けてお尻を叩きだす。


「ほれほれどうした?お主は♂の尻を掘るのが好きなのだろう?」


 ランランは興味も無さそうに猫柴田に視線を向ける。


「私にもホモとしての矜持があるのでね、女は決して掘らない・・・そんな私の騎士としての誇りを侮辱した罪は万死に値します」


 ランランが今までにない程の殺気を噴出させる。


「なーに、ワシは常に命がけよ」


 続いて猫柴田からも殺猫が噴出する。


「アーサー王が忠臣、円卓第一席ランランロット」

「織田家家老、柴田かつねこ」

「「いざ尋常に参る!」」

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