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9.寺生まれのTさんに学ぶドローンの時代

高校生の鉄平はラジオが好きで友達が少ない。

お昼休みに話をしてくれる奈々美ちゃんくらいのものだ。


しかし、寺生まれのタッタ君は、なんとIT強者だった。

パソコン教えてほしいなぁ

タッタは寺生まれだ。

寺に産まれたので、いろいろな人に可愛がられつつ厳しく育てられた。


寺に生まれたからといって、お堂のような仏様の前で寝て起きるという生活ではなかったが、長男だったため、将来は寺を継ぐことを望まれていた。


諸行は無常なので、仏陀の教えも変化してゆくものである。

タッタの父は本格的に仏道を教えることはしなかった。

ただお経に書かれていることが真実であるとタッタに教えた。


ブッダの教えの日本語訳を一生懸命唱えた。

そしてきっとこういう意味かなと毎日父と読経した。

真面目な方だと思う。


幸い、兄弟にも恵まれていたので、最悪の場合は弟が継げばよい。

様々な「お寺の子」がこの日本中にいる。

中にはなり手がおらず潰れそうなお寺も相変わらずあるらしい。


タッタはそんな中、俺は自分で自由に進路を決めて見せる!

と幼い頃から考えていた。



しかし世の中インターネットの世界である。

近所に住むいとこの兄さんに、タッタはネットワークの事を教えてもらってそこで衝撃を受ける。


それは「OSI参照モデル」だった。

「OSI参照モデル」は、データのやりとりを細かく分類し


・物理層

・データリンク層

・ネットワーク層

・トランスポート層

・セッション層

・プレゼンテーション層

・アプリケーション層


この7つに分けて動作しているという。


いとこは

「こういうのは一度覚えたら、もうテストでしか使わないけどな」


と言っていたが

他にも色々教えてもらった中で、これが最も印象深いものだった。




仏様は、様々な心の起こりを細分化し、それに名前をつけ答えを出した。

物事には五蘊ごうんと呼ばれる要素がある


色(物質、色彩、光)

受(印象など受けとる)

想(知覚や表層にあらわれるもの)

行(意思、そして行うこと)

識(心、魂)


そして十如是じゅうにょぜがそれらをつなげる

相・性・体・力・作・因・縁・果・報 この9つの要素が

うまーくつながりあったとき、「本末究竟等」(ほんまつくうきょうとう)な状態になる。


インターネットの世界も、仏様が世界を見出したと同様に、世界を細かく分類して、それぞれを正しく動かす方法が作られているようだ。


物事のあらゆるものに名前をつけ、発見しては理解する。

仏様の教えは、ざっくりと人間の基本を教えているものだと、なんとなくタッタは思っていたが。

インターネットの世界ではそれがどうやら現実として、約束事「プロトコル」として動作しているらしい。


それが、タッタには嬉しくてたまらなかった。

中学生のタッタは、インターネットの世界、コンピュータの世界を、仏教の世界と重ねあわせ、衝撃を受けた。


俺はこの感動をどこにぶつければ良いのだろう。

いとこが、これを今俺に教えてくれたのも仏様のお導きに違いない!


と、タッタは思うが、そのことを父や誰かに話しても

「ほーそうか、さすがは仏様や、なんでもご存じやねぇ」

くらいしか返してくれない。


もしかしたら、今この世界で俺が一番仏教してんじゃねーのか!と、とても調子に乗っていた。

毎日の読経にも熱が入るし、内容も理解しようという意欲が増した。


仏様の考え方をもとに、修行しながらコンピュータの勉強をすれば、きっと、アンドロイド(人造人間)が作れる!アンドロイド(人造人間)作りたい!


彼に大きな目的が出来たのだ。

ま、ダメなら寺継げばいいし。

そう思い、夏休みはいとこのところで、いとこの仕事を手伝いつつ、基本的なプログラミングができるようになったのだった。


ーーーー


寺生まれであることを、学校ではもともと隠していたが

そのことがあってから、逆に誇れるようになった。出家してないが毎日頭も剃った。


「寺生まれのTさん」としてふざけて除霊を頼まれることもあったが、

落ち着いて、慌てることも怒ることもなく付き合ってあげた。

そらで覚えているお経をひとつ唱えてあげてそういう時のための鈴をリーンと鳴らす。

そして、みんなに

「仏教には十如是という考え方があります。心の起こりはまず「相」からはじまるので、心を落ち着けて云々・・・」

十如是の話を説明してあげると、ははーさすがはTさん!となぜか納得し

一目置かれるようになった。


実際に除霊ができているかなんてわからないが、みんなの心が落ち着いたならば何よりである。

俺は人造人間システム開発に戻らせてもらう。


ーーーー


鉄平にとっては、お坊様が普段なにやっているか、もちろんわかってない。

席替えのあと、前の席になったので気楽に話をしてみる。

「タッタってさあ、将来お坊さんになるの?」

「いや、俺はプログラマーになる」

「へー、プログラマーは良いの?」

「いいよ、鉄平みたいに、友達作りたい!って悩むことないし、スキルがあれば、どこでだって稼げるらしいよ」

「え、まじか。どんな感じ?」


「どんな感じと言っても・・・このスキル持ってまーす。といえばいろんな会社で雇ってもらえるし、どんな世界でも居場所ができるんだよ。友達が欲しいって、お前は居場所が欲しいってだけなんだろ?」

「まあ、友達がなんなのかまでは考えてなかったけど、そういう見方もあるかもしれん」

「情けないなあ、自分が何を考えてるかくらい、しっかりしないと」

「プログラマーになりたいってことは、情報部なの?」

「いや、情報部はやめといた。先生のスキル以上のものは手に入らない気がしたので」

「すげーな、俺は先生を超えた!って聞こえるぞ」

「先生の知識は超えてると思う、というか行きたいジャンルが違うんだと思う」

「へープログラマーにも色々ジャンルがあるの?」


タッタは嬉しそうに、俺に動画を見せてくれた。

「これ、俺が組んだんだよ」

それは、小型のPCにオモチャの足がついている。そのオモチャが

色々と右に左に動きまわる姿だった。

「センサーがいくつかついていて、光の方に進む。そして何かにぶつかったら方向転換する、そういう仕組みにしてる」

「自分で作ったの?」

「まあね」

「俺もやってみたい!」

「ええ、すぐには無理だよ」

「じゃあ何を勉強したらできるようになる?俺もプログラマーを目指すなら、タッタのやりたい事を手伝えるかもしれないじゃん。教えてくれよ!」


パソコンの先生方は、素人にそう言われて、教えることができるだろうか?

なんでお前は、俺が自力でここまで勉強したのに、それをホイホイと気軽に教えろと言うのか。

俺がお前のために環境を整えて、プログラミングの勉強をさせて、

インプットアウトプットの練習をさせて、実際に動作するまで教えたとして、

目標もないくせにできるわけないだろう。こいつがMSDNを読めるようになるまで付き合えるか。

付きあるわけがない。そう思う。


そしてタッタは仏の心を学んでいたので怒ってはいけないと思いながら対応した。


「フー・・・ちょっと見せなければよかったと後悔してる」

「もしかして怒っちゃった?ごめん」

「こういうのは、基礎が重要なんだよ。俺も基礎の本から勉強したから、明日持ってきてあげる」

「本当?ありがとう」


ーーーー


昼休み、奈々美が言う

「友達とは何か、という点で、すでに鉄平君は友達をたくさん持っているともいえるわね」

「そりゃあ、クラスメイトはみんな友達という意見もあるもんね」

タッタ君と楽し気に話していたことを見ていたんだろう。


奈々美に聞いてみた。

「プログラミングスキルがあったら、どんな会社にでも行くことができるらしいよ。

どんな場所でも居場所を作ることができる。ってタッタが言ってた」

「へー、そんなら私もプログラミング勉強したいなー」

「プログラミングスキルがあれば、いろんな人と友達になれるというわけだなー」

鉄平たちは少し勘違いしていたが、そういうスタートでも良いかもしれない。


ーーーー


帰りにいつものように、ラジオを聴きながら歩く。

台湾、韓国、中国にITという点で日本は大きく後れをとっています。

ということか。


ーーーー

現代世界で戦争になると、兵士というものはほとんど出ません。

ドローンがその兵士の代わりになって戦います。

だから、オリンピックなどで、たくさんのドローンを使ってイベントを盛り上げたり

ドローン制御がしっかりできているアトラクションを見せたりするのは、他国に

「我が国はこういう戦力をちゃんと準備できる技術力があるんですよ」

というアピールをするかっこうになるのです。


近隣諸国と日本はいつも非常に厳しい状況ですが、日本が実際に戦争になることはありません。

まず、あるならば、台湾海峡の可能性はありますが・・・


それに日本が巻き込まれることがあったとしても、第二次世界大戦時代のように

国民全員が駆り出されるということもありません。

なぜなら、国民全員駆り出したところでなんの役にも立たない。

人を一人雇うよりもドローンを1台作った方が断然兵力になりますので

国民総右に倣えという状況にはなりません。


たまに質問されるのですが、徴兵制や、兵役などが日本でも行われるか

そういうことを心配なさる方は多いのですが、ありえないと断言してよいと思います。


軍事力を高めるためには人を伸ばすより技術を伸ばす必要が急務。

なのでですね、遅れているIT技術を何としても日本は高めたい。

高い技術力を保持して、維持して、海外に隠して、有事の際にはサイバー攻撃に対してセキュリティを保ち、反撃のためにドローン技術をどの国よりも高めて行かなければならないのです。


ーーーー


やべえな

プログラマーって色々あるじゃん。

会社で、必要なプログラミングだけじゃないんだ。

ドローン作って制御したり、サイバーセキュリティ高めたり。一人でできるわけじゃないから、どれかの目標が必要なんだろうなー


明日タッタに相談してみよっと。

そんな風にして家に帰ったのだった。


ーーーー


「よう鉄平」

「タッタ、昨日はなんか怒らせてごめんね」

「いやあ、俺も修行が足りなくて」

「ん?いえいえ」

「言ってた本、これが基礎になるよ」

「うおーありがとう。昨日ラジオで軍事力の話とITやってたから、ちょうど勉強したいなーと思ってたんだよね」

「え?軍事力?」

「そう、ドローンがこれからの世界主戦力になるんだってさ」

「へー、鉄平ドローンやりたいの?」

「うーん少し」


タッタは何か考えていた。軍事力か、忘れていた。その可能性に。


奈々美がやってくる。

「鉄平君、昨日の話、なんかすごいね、もうゲームみたいなんだね、戦争って」

「やーゲームってわけじゃないんじゃないかねー」


タッタが聞いてくる

「あれ?奈々美さんもそういうの好きなの?プログラマー志向?」

「うん、わたしは昨日志望したばっかだから、私も一緒に何か本借りて良い?」

「いいとも。その本なら僕はもう読んだので」


タッタは、もう誰かに相談したかった。ドローンと戦争のことを。

「でも、なんか俺んち来ない?もっと詳しく見せてあげる」


「え、いいの?行きたい!」鉄平が答えたら奈々美もうなづいている。


ーーーー

タッタ君の家は、なんと山の中腹にあった。

お寺だからしょうがないとはいえるが、石段が長い。


タッタと俺はサクサク登って行くが、奈々美はヒイヒイ言っている。

しょうがない、後ろから押してやろう。

「あ、ありがとう」


そんな姿を、タッタ君はのんびり見下ろして待っていた。

お堂の横手にタッタ君の家はあった。

わりと立派なオウチですね。

おじゃましまーす。


「まーアンタ今日はお友達?よろしくねー、ゆっくりしていってね」

お母さまにご挨拶された。

「お邪魔いたします、こちらこそよろしくお願いいたします」


三人で、タッタの部屋に行くと、パソコンが2台と、ディスプレイも3枚と、なにやらごちゃごちゃおもちゃが入っている布団入れというか、押し入れ収納ケースが部屋の四隅に積みあがっている。

「どこでも座っていいよ」


さっそくタッタ君は、自分の作業の成果を見せてくれた。

小さなパソコンはラズベリーパイというらしい、その周りにしっかりと固定された四足歩行の足がついている。


タッタは、このラズベリーパイの中に色々なプログラミングをしている。

そして、センサーがここについてるのでロボットが動くようになるのだ。


管理用のコンソールとやらも見せてくれた。

真っ黒な画面に直接英語を入力するらしい。

鉄平には見てもわけがわからない。


タッタは、自分が考えていることを話してくれた。

今こいつは4足歩行だけど、センサーがついてて光の方に向かったりできる。


がんばってカメラと顔認証機能を入れて、認識した人の方に向かったら、

赤ちゃんがハイハイしているのと考え方は同じといえる。



そこからタッタは、仏様の考え方と同時にインターネットの世界を話し、中学時代に自分が感動した事、そしてこれから俺は人造人間が作りたいんだと思ってるということ。

そして、今悩んだことを二人に話した。


鉄平はとても深い、そして未来が大きく広がったような気分で感動していた。

この同級生は、素晴らしい夢を持っていて、しっかり勉強しているのか。

奈々美も見ればとても感動している様子。


「なんでもっとこの素晴らしい話をみんなにしないの?」

と、このセリフも怒られるかなぁと思いながら聴いてみた。

すると、タッタ君が打ち明けてくれる。


「俺がこれからがんばってコイツが人間と同じになったとしても、兵士として戦場に行かされるなら、俺はもう開発をやめた方がいいかもしれない」

そんな事を言い出した。


俺は少し考えて答えた。

「兵士として産まれたなら大量生産されて戦場に行くかもね」

俺はその、タッタの熱意に押されたが、俺がこいつを守るとまでは言えない気がした。


奈々美が言う

「人間を作ろうとするからいけないんだよ、まずキティちゃんを作ったほうが良い」

「キティちゃんを?」ナナメ上な意見だが、怒られない?ハラハラ。


「そう。軍事転用されたら連れていかれるけど、軍事転用されない精神を持っていたら、アンドロイドになっても大丈夫でしょ」

「キティちゃんはコラボ能力がスゲーから、自衛隊ともコラボ楽勝なんじゃないの」

と、言ってみたが。スルーされた。


なんとタッタ君はそんな事思いつきもしなかったようで。

「奈々美ちゃんすごいねー、確かに、それはなんか、俺のハードルも下がる。

しかも4足歩行のキャラにしてくれるなら、もしかしたら高校にいるうちにある程度完成するかもしれない」


「まじかよ、人間作るんじゃないのかよ」鉄平は驚く。

しかし、プログラミングを教えてもらえるならタッタ君に習いたいなー


長い話をして、時計は19時を越えそうだ。

鉄平たちは新しいムズカシイ本を1冊借りて、おいとますることにした。


ーーーー


タッタ君は、自分の夢をこんなに一生懸命話をしたのは何度かあったが、こんなに、途中で笑わずに、一生懸命聞いてくれた友達は初めてだった。

二人の事が好きになっていた。また遊びに来ないかなーと思う。


ーーーー


帰り道、奈々美は言う。

「本当に、完成したら、ウチにも一台欲しいなー」

「いや、お前自分でもつくるんだろ、ちゃんと手伝っていかないと」

「そうだねー」

「愛情かけて育てた子が戦争に行くって嫌だろうなあ」

「そうだねー、第二次世界大戦中のお母さんとか、もう一緒に逃げたかっただろうね」

奈々美はなぜかゼロ戦に思いを馳せているようだ。


鉄平が話をする。

「ドローンが代わりに戦争に行くから人間は行かなくていい!っていうのに、だいぶ救われたというか、ホっとしてた矢先に、タッタ君からああいう話を聞いて、ドローンを愛してる人もいるかもしれないなーと思ってしまったよ」


「そりゃあ、作者はなんであれ、みんな作品を愛してるんじゃないのかな?」

奈々美は答えるが、その声を聴いているうちに、

俺が次に本当に言いたいのは何だったのか忘れてしまった。


「戦争のために、武器作る人なんだから、それでその都度心を痛めたりはしないか」


余計な心配はするまい。

俺たちは、俺たちのできる範囲で日本のIT技術を高める助けをしよう。

そう思うのだった。


読んでいただきありがとうございました。


次はもっと気楽なお友達だったらいいね。

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