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5.迷走するミツバチ、あるいはリーダーシップという迷宮

クラス委員のミツバチ君は、リーダーシップとは何かを知りたい。

それなのに、帰宅部のミズノ鉄平は協力してくれない。

あんな、一ノ瀬奈々美さんと、昼休みイチャイチャ話してばっかりなモテ男のくせに。


そんな、空回りするリーダーシップに振り回され

鉄平君がリーダーシップについてちょっとだけ学ぶお話。

責任とは、達成することである。

と、ミツバチは考えていた。


男である以上、人生には責任が伴う

責任というものは任された以上、負わねばならないし

達成せねばならん。


高校生のクラス委員なんてものは、特にいればそれで良いものなんだし

クラス委員だから何かやらないと罰則があるわけではない

しかもそうそう、間違うことがない。


そんな中でもミツバチは「何か目的」があってこういうシステムが存在し、

「何か達成」しなければいけないものだ。

と、考えていた。内申評価が変わるなどは意識していなかった。

まだ1年生の彼らにそれらは大きなポイントを占めない


クラスをまとめ上げる、とは何なのか、人を動かすとは何なのか

ミツバチは、自分で考え、答えを見つけ出そうとしていた。


ミツバチにとって、クラスの仲間は、

一緒に目的を達成してくれるパートナーだが、

ミツバチ自信が目的に向かってみんなをリードしなければいけない。

「クラス委員」というものが何なのか知る前に

彼はクラスのメンバーがどういう人間なのか

把握する必要がある、と、感じていた。


実際にこれはコミュニティを運営するという点では

非常に有効な手段である。

会社などの営利団体では、互いに「何ができるか」

「各人にどういうスキルが必要か」「何にそれぞれ重点をおいてこの仕事にかかわっているか」

それらはとても重要な要素だ。

「クラス委員」としての責任を果たすべく、ミツバチはまず

全員と二人きりになって「面談」を行うことにした。


ミツバチにとって大きな間違いは、所詮高校生なので

「組織に目的なんてない」と気が付くことだったが

責任を果たすべく、彼が考えたのは

クラスのメンバーの個性付けと分類だった。


人を知るには、話をすることが大切だ。

僕がリーダーなんだからみんな協力してくれるだろう。

そんな甘えが彼にはあったのだ。


ーーーー


鉄平は友達が少ないながらも、クラスをよく見ることを重視していた。

みんなと友達になれたらいいなと思っていたからだ。


ミツバチ君がクラスの数名と一人づつ、一対一で面談的なことを行っていたことを

「何をやっているんだろう」くらいに見ていた。

どうやらその順番が鉄平に回ってきたようである。


「ミズノ君ちょっといいかな?」クラス委員のミツバチが

そういって呼び止めて来たのは、昼休み、トイレから戻ろうかというあたりだった。


「ミズノ君ってどこから通ってるの?」質問されてきた

「えー旧桟橋町かなぁ」まあ答えてあげよう。

「ふーん・・・バス?」

「そうだよ」

「ここまで何分くらいで来るの?」

「50分くらいかな?バスの待ち時間とかも入れて」

「へー部活は?」

「やってないよ、帰宅部」

「得意な科目は?」

「現国と古文かな」

「兄弟はいる?」

「いるよ、妹が」

「ご両親は?」

「いるよ、共働きだよ」


「病気とかは?」

ん?このあたりで、やっと鉄平はおかしいなと思い始めた。

ミツバチ君、もしかしてこの人、そういう事みんなに聞いてまわってるのか?

「え、答えたくない」鉄平は拒否した

「なんで?」ミツバチ君が追いかけてくる

「なんで知りたいの?」鉄平も答えたくなくなっていた。

「クラス委員だからね」

「なんのために聞いてるの?」

「そりゃあクラスの目的を達成する責任が僕にはあるから」

「クラス委員は女子もいたじゃん?」

「あーキリリさんはいいんだ」

「いいって何が?」

「いいんだよ」

「何がだよ」鉄平は怒りが増して来た。

「何を怒ってるのさ」


「さっきから何かおかしなこと聞いてるなと思って。

そういう事はなんとなく、君には言いたくない」

「なんでさ」ミツバチ君食い下がる。

「クラス委員のために必要だとはとても思えない」

「なんでだよ、特にミズノ君は帰宅部なんだから、

ちょっと協力してくれても、時間はあるだろ?」

「協力するのはいいけど、変なことはもう聞いて来ないでくれ。

そんなことも知らないの?人のプライバシーはお互い尊重しようぜ

逆に、意味なく君んとこの家族構成聞かれたらいやだろ?」

「嫌じゃないよ、俺なら協力するよ」

「えーっ あのね、ミツバチ君はなんでそんな活動してるか知らないけど

世の中には、両親がなんやかんやで離婚してたり、家族を

事故や病気で失ってその悲しみが癒えないままがんばって学校に来たりする人もいるの」

「そういう事もあるかもね」

「そういう人にも同じように家族構成まで聞くわけ?それは本当にクラスのためなの?」

「僕にはクラスのメンバーを把握する責任があるんだ」

「そういう事なら、協力はお断りします」なんだか話が通じない。

「えーなんで」

「今まで誰も、そんなこと言ったりして来なかったの?」

「うん、正直に答えてくれた」

「2度としないでくれ!」

ミツバチ君に強く言い含め、鉄平は足早に自分の席に戻った。


ーーーー

鉄平にも、クラス委員が何をする仕事なのかはわからない。

とにかく、先生の授業のプリントを職員室から持ってくるとか

号令をかけるとか

何かあったら、教壇に立って司会をする。


くらいのもんじゃないか。


それで何でプライバシーまで話さなければいけないんだ?

イライラが止まらない。

もう、ミツバチ君とは口も聞きたくない。

鉄平はそう考えながら、帰路につく。


いつものように、ラジオを聴きながら。


ーーーー


・・・やはり中小企業様ですと特に多いのが、個性的なリーダーシップをとられている会社様ですね。

やはりワンマン社長が自分で即断即決!というのはビジネスのスピード感も違いますし

ダイナミックな経営が可能です」


なんか、元気な若手芸人みたいな声質の人が喋っている。


「しかし、多くの経営者の方は、リーダーシップというよりは

マネジメント、その管理運営の方に力を入れますし

マネジメントの状況を把握することがやはり、成果に直結します」


「目の前の仕事に集中しちゃいますからねぇ」男性があいづちを打っている


「そんな中、受け身になっている社長さん同士を引き合わせ

お互いの会社のイノベーションを図るというのが、私たちの仕事なんですね」



ーーーー


話の中身はよくわからんが

ミツバチ君は社長をやりたいのかねぇ?

怒って悪かったかな、と、ちょっと思う鉄平であった。


ーーーー


次の日、もう個人面談はあきらめたらしいミツバチ君は

昼休み一人でぼんやりしていた。

まあ、やる気をそいで悪かったな。


「ミツバチ君」

「あーミズノ君」


「昨日はちょっと言い過ぎて悪かったよ」

鉄平が謝るとミツバチ君も互いに謝る。

「いや、あの後俺もだいぶ反省させられた。

リーダーシップって何なのかわかんなくてさ」


鉄平がうかつにも

「まあ、あれとは別に何かあったら、協力するよ」


と答えた矢先何か気が付いたのか、ミツバチ君は元気になった。

「そうだ、この後、先生の所に行って、ミズノ君、

午後のプリントを持ってきてくれないかな」

「え?プリント?いいけど」


「僕にはデレゲーションという事が大切らしく」

「デレゲーションねぇ」なんのこっちゃ。ゆっくりやってくれと鉄平は思う。


ミツバチ君は、噛みしめるように説明を開始した。


「そう、ミズノ君は今から職員室に行って、

担任のニシムラ先生からプリントをもらって

この教室まで持ってきてほしい。

そんなに量のあるものじゃないはずだ。

必要なら職員室で台車を借りる事ができる」


フムフム


「そして、それが終わったら僕に報告してほしいんだ」


「え、いいけどその間ミツバチ君は何をするのさ?」


「ここで、君が、僕の望む結果を持ってきてくれるかどうかを待っている」


なんだコイツ・・・と鉄平は思うが、まあここで怒ってもね。


「じゃあ行ってくる」鉄平は教室を出た。


ーーーー

職員室のニシムラ先生はちょっと熱血


そんな先生に影響されて、ミツバチ君も熱血カラ回りなのかなぁと思う。


鉄平は職員室に行き、ニシムラ先生に

「プリントどれですか?ミツバチ君に言われて来ました」という。


「え?ミツバチが来いよ、あいつがクラス委員だろ?」ニシムラ先生が言う。


「デレゲーションなんだって言ってました」


「それでミズノは、そうですか、と、ここまで

プリントを取りに来たのか」先生ちょっとイラっとしてますね。


「ええ、まあ」


「その間ミツバチは何するって?」


「僕の報告待ちみたいです」


「アホか、デレゲーションってのは『権限移譲』っつって、

クラスメイトは上司部下じゃねえんだぞ、ミツバチ呼んで来い!」


うええ 怒鳴られた。


「はい!」


ニシムラに怒られたのもわけわからん

ミツバチ君に事の流れを報告し、できませんでしたと言う。


ミツバチ君は、ちょっと青ざめた感じで

早足で職員室まで行っていた。


あまり、協力するとか、言わなきゃよかったかな。

でも、「クラスは上司部下じゃねーんだぞ、」か

鉄平はちょっと先生が好きになったのだった。


怒られたらしいミツバチ君が

プリントを持って、教室に戻ってきた。

俺にできるのは、なんとなく

「プリント持ってきてくれてありがとうミツバチ君」

と、声をかけるだけだったが・・・


ミツバチ君は力なく笑っていただけだった。



ーーーー


後日、もう一人のクラス委員でもある

女子のキリリさんに話を聞いてみた。


「あーミツバチ、まあ、やる気あるみたいだし

私もそんなにクラス委員が何なのか知らないし、

『じゃあお願いね。』と言って何もやらない感じにしたんだよね」


なんと、キリリさんは清楚な見た目に反してヤンキーくさいことをいう。


「あのねえ、たぶんミツバチ君は、クラス委員を何か、別の会社社長かなにかと思ってるみたいなんだよね」


「えーウケるー」


「なので、キリリさん、もう少しこう、クラス委員一緒にやってあげてくれないかな?」

と、鉄平は下手に出ながらお願いしてみる。


「あーわかった、なんかミズノ君ごめんね。最近奈々美とも話してないでしょ?」


「え、なんで一ノ瀬さんがここで?」


「なんでもないよ、ごめんごめん」


ーーーー

こうして、ミツバチ君は真の(?)協力者を得て

真のクラス委員として、ちょっぴり羽ばたくのだった。



ーーーー

その後の昼休み、久しぶりに奈々美が僕の席に来て話をする。


「リーダーシップって、よくわかんないけど、

リーダーのシップなんでしょ?語源としては。

leader ship なんだから、船なんじゃないかな?

こう、艦隊みたいな編隊組んだ船団があるとして

鉄平君ならどこにリーダーがいると良いと思う?」


「リードする船か、そういうことなら先頭にいて

次はコッチー次はアッチーって行先を教えてくれるんじゃないか?」


「ミツバチ君は艦隊の艦長みたいに中央にいるつもりだったかもね?」奈々美が続けて問う


「そうかも」鉄平は答える。


「クラス委員て高校に必要なのかな?」


「わかんねーけど、まとめ役というなら

必要なんじゃないかな?今日は帰らないでとか

連絡されることもあるかも」


「私はクラス委員なんていらないものだと思うよ。

部活やってるキャプテンとはわけがちがうんだから、

目標も目的もあったもんじゃないっしょ」


「うーんミツバチ君も変なプレッシャーがあったみたいだもんね。

無いほうが良いという意見もわかる」


こうして、この日は奈々美理論に負け、昼休みが終わるのだった。


読んで下さってありがとうございました。


よろしければ高評価お願いいたします。

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