ディオの背中
【ユーリン】
何なんですかあの人、いきなり見え透いた嘘を言ってきて今度は私の手までつかんできてファーストタッチがとられたじゃないですか。もう最悪です、今度ジャックさんに言ってやりましょう。そもそもここはジャイアントゴーレムが湧くダンジョンの中でも弱い方ですし、レッドアイならともかく亜種なんてありえません。
「さて、狩りますか」
重そうで重くない扉を開けて一応警戒しながら中をのぞいてみました。けれど、やっぱり何もいません。
「やっぱり、嘘だったんですね。後でおさわり料金請求しときましょう」
と油断したことを私は深く後悔しました。
「GURRRRRRRRROOOOOOOOOOO」
地面が揺れるほどの雄たけびが聞こえた次の瞬間その化け物は目の前にいました。恐怖と絶望で顔は引きつり、思わず悲鳴を上げてしまいました。
「きゃーッ」
この悲鳴が幸か不幸か私の運命を大きく変えたことはまだ誰も知りません。
「大丈夫ですか、そこのお嬢さん?私が助太刀しよう」
黒いマントに特徴的な仮面、まさかこの方は……。
「あ、あなたは……黒の勇者ディオ!」
「ははは、如何にも。私がディオで間違いない」
驚きが隠せません。目の前にディオさんがいることも驚きですが、それよりも彼がこちらを見ながら本来なら視界に入っていないところからの攻撃を防いでいるからです。もう一つ驚いている点があるのですが……。とにかく、彼がここまですごいとは思っていませんでした。彼を仲間にすれば、きっと夢がかなうはずです。
「すまない、お嬢さん。君にも戦ってもらいたいのだが」
「す、すみません」
「いや、いいんだ。君の実力が見たいんだ。仲間を探しているのだろう?」
「わかりました。私と共に戦ってください」
「あいわかった」
目の前の敵は強大ですが二人なら……。彼が敵を引き付けている間に私はダメージを与えていきます。しかし、相手のHPはなかなか減りません。それだけでなくジャイアントゴーレムは巨大な腕で床を殴ってきます。
「君、交代をしよう。少し危険だ」
これは戦力外通告ということでしょうか。私はなおも攻撃を続けようとしますが少しずつ自分のHPが減ってきていることに気づきディオさんと交代しました。彼は無慈悲な方なのでしょうか。私が鬼気迫る顔で斬りつづけ、倒れなかった敵を涼しげな顔をして一撃で沈めました。
「おいしいところをもらってしまってすまない」
「イ、イヤイインデスヨ」
「そ、そうか」
しかし私は立場を逆転させる方法を知っています。
「急に探偵のようなポーズをしてどうしたんだい?」
「あなた、ディオンさんですよね?」
きまった、私の勝利です。