休みの日の過ごし方 【月夜譚No.153】
バイクの車体に、夕陽の赤が反射している。波の音が鼓膜に響き、頬を掠める風は潮の匂いに満ちていた。
一日の最後、穏やかな時間だ。彼はヘルメットを小脇に抱えて、沈みゆく太陽を眺めた。
凡そ一ヵ月振りの休日は、海岸線沿いの道をバイクで直走るだけで終わってしまった。自分がしたくてそうしたのだから悔いはないが、なんとなく勿体ないような気がする。だが、潮風を感じながらただ走るのは、心地が良かった。
砂浜と道路の境に設置されたベンチに腰掛け、先ほど自動販売機で買った缶コーヒーを開ける。一口飲んで、その苦さに眉を顰めた。
つい惰性で買ってしまったそれは、普段から仕事中に飲んでいるものだ。休みの日に仕事のことは思い出したくないのだが、買ってしまった手前飲まないわけにもいかず、口にしたらやはり仕事を想起させてしまった。
彼は溜め息を吐いて、打ち寄せる波間に視線を戻す。せめて、視界だけは日常から遠ざけよう。
缶コーヒーの中身は、あと半分。残り少ない休日をどう過ごそうか、彼はぼんやりと考えた。