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3 依存と自覚

 

 ――ピコン



 昼休みに教室で友人の旭剛あさひつよしと昼ご飯を食べているとスマホにメッセージが届いた。


「なんだ、彼女か?」


「違うって」


 俺はそう言って送られてきたメッセージにさっと返信した。


 幼馴染から『来週の週末泊りに行ってもいい?』ときたので『いいよ』と返した。


 サラは今でも定期的に俺の家に遊びに来るし、泊っていくこともザラだ。


 一時期親の都合で引っ越して離れ離れになったことはあるけど小学5年のときに俺は再び東京に戻ってきた。


 それ以降、再びサラとの行き来は再開した。


 思春期と言われる年齢になったが俺たちの距離感は変わらず、サラは度々うちに遊びに来ては泊っていった。


 サラからは頼まれる度にぎゅっと抱きしめるということを続けていたが、あるとき「流石にそろそろ

……」と言い掛けたとき、サラが烈火のごとく怒って幼い頃の約束を持ち出されたため、その後もなし崩し的にそういうことは続いている。


 しかし、やはりこの年齢ということもあるけどサラも今や世間から注目を集める大女優だ。


 正直そろそろこういうことは止めないといけないと思ってはいる。


 しかし、その一方でこの関係を止めたくないという気持ちもある。


 いつもサラは幼馴染で妹の様なものだから別にいいだろうという結論になり、この関係は続いていた。


 そして直ぐにその日はやってきた。


「こんにちは~」


「あっ、紗良ちゃん、いらっしゃい」


 妹の優が玄関のチャイムがなった瞬間出迎え、俺は優に続いてサラを出迎えた。


「久しぶり、今日はどうした?」


 サラがうちに泊まりにくることは珍しいことではない。


 大きな舞台や撮影日の前日が多いがそれ以外にも今やっている役作りがうまくいかないから練習に付き合って欲しいというものまで様々だ。


「今日は役作りかな?」


「ふ~ん、最近では珍しいな」


 当初こそ役作りで試行錯誤をしていたことの多いサラだったが、ここ最近は自分の役のストックが増えたのかそう言ったことは少なくなっていた。


 ただ、女優業が忙しくなり会う頻度が下がってもただ会いに来るということも少なくなかった。


 サラ曰く『慎ちゃんパワーの補充』らしいが芸能界ではそういった冗談が流行っているんだろうか?


 3人で一緒に夕ご飯を食べて、順番に風呂に入った。


「では後は若い二人に任せて。ああ、そうそう。私もいるんだからいきなりおっぱじめるのだけは止めてよね」


 そんな冗談を「はいはい」と流しつつ優に見送られてサラと一緒に俺の部屋に入った。


 もう何年も繰り返しているルーティーンなので今さら緊張することもない。


「今日は役作りだったよな。台本は?」


「ああ、コレコレ」


 本当はダメなのかもしれないが、役作りというか練習相手になるために台本のコピーを借りて俺が相手役を演じている。台本のコピーはきちんとサラに返すし、その中身を外部に漏らさないことだけは徹底しているつもりだ。


 俺はパラパラと台本のコピーに目を通す。


「……主役じゃないか」


「まあね。どう? すごいでしょ?」


「ああ、すごいすごい」


 そう言って俺はサラの頭をくしゃっと撫でた。


 いつの頃からかサラは褒めるだけじゃなくて頭を撫でることまで要求するようになった。


 これをしないと機嫌が悪くなる。


 俺から直接パワーを貰えるとかどうだとか言うが本当のところはよくわからない。


「それで今回の役なんだけど……」


「うん」


「キスシーンがあるんだ……」


「……」


「……」


「ああ、そうなんだ……」


 たっぷり時間を掛けてその意味を理解する。


 そうだよな。


 もうサラも大人といえば大人と扱われる年齢なわけだし元々実際の年齢よりも年上の役もこれまでこなしていた。そうなればこういう役が来るのも仕方がないだろう。


「でも『フリ』なんだろ? だったら……」


「慎ちゃんはわかってるでしょ? 私がやるお芝居はお芝居ではあるけど本気なの」


 それはつまり……、本当にキスをするってことか?


 紗良の相手役は俺も知っているイケメン俳優だった。


 何かモヤモヤした。


 俺の胸にドス黒い何かに覆われる。


「私、キスは初めてなの。だから初めてのキスはやっぱりちゃんとしておきたいなって」


「サラは好きな人はいないのか?」


「バカっ、それ、本気で言ってるの?」


 はっきりとそう言われて鈍い俺でも確信が持てた。


 大女優になった今でも幼馴染であるとはいえこうして異性である俺のところへ泊りにくるだなんて普通あり得ない。


 妹みたいなもんだから、家族ぐるみの付き合いだったから、幼馴染だから、そんな都合のいい言い訳でその可能性は俺の中で自然と排除していた。


 だから俺もサラのことはあくまでも妹みたいな幼馴染としか考えないようにしていた。


 サラと俺とでは住む世界が文字通り違う。


 月とスッポンという言葉がピタリと当てはまる。


 平凡な俺がそんなサラのことを好きになっても後がつらいだけだ。


 そう思って考えないようにしていた。


 しかし、ダメだ。


 サラが俺ではない誰かとキスをする。


 俺ではない誰かと付き合う。


 俺ではない誰かと結婚してそして……


 耐えられない。


 そう考えただけで世界が終わったような錯覚に陥る。


 終わらないのであれば世界は俺が終わらせてやる。


 そう思うほどに。


 認めるしかない。


 俺はサラのことが好きなんだと。

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 本作と本作の関連作品である「田舎に住む年下幼馴染♀に婚約者ができたらしい」とのクロスオーバー作品(続編)です。  リンクを張って飛びやすくしました。  

幼馴染たちの協奏曲(コンチェルト)~続・後日談
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