お礼のクッキー
3日ぶりの学園。教室に入るとすぐに、友人たちから熱烈な歓迎を受けた。クラスメイトの方々も心配してくれていたようで、学園に来て良かったと思った。私はたくさん作っていたクッキーをお詫びと称して、クラスメイトに配った。その場ですぐに食べてくれた皆に美味しいと言ってもらえて本当に嬉しかった。
そして、殿下はというと……本当に授業が終わる度にクラスまでわざわざ足を運んでくれた。周りからはどういう事だと質問攻めにされたけれど、それすらも楽しかった。
「食堂じゃなくてカフェに行こうか」
お昼休み。迎えに来てくれた殿下に提案されカフェに向かった。スプレンドーレ学園には食堂とカフェがあり、カフェの方にはフレンチトーストやサンドイッチなどの軽食がメインで、それに加えてケーキなどのスイーツも充実しているので人気があった。
「殿下はお腹、満たされますか?」
「はは、どれだけ大食漢だと思われているのかな?」
「だって、男の人って凄く食べるでしょ」
トンマーゾが凄い量を食べていたのを思い出して言うと、殿下は苦笑いの表情になる。
「残念ながら私は普通の食欲だよ。だからカフェでも大丈夫」
「殿下……普通の食欲っておっしゃっていませんでしたか?」
いざ、カフェに入るとテーブルにはサンドイッチにクロワッサン。パンケーキまで並べられていた。
「そうだよ。これが普通さ」
「ふ、ふふふ。嫌だ、もう」
思わず笑ってしまった私の頬をサラッと撫でた殿下は、優しい笑顔を向けていた。
「良かった。ちゃんと笑えるようになったね」
「はい。殿下のおかげです。殿下が苦しみを受け止めてくださったから」
「そっか、よかった……よし、食べよう。クッキーを食べる時間がなくなってしまう」
「時間、たくさん余りましたね」
あっという間に平らげてしまった殿下を見て、私は声をあげて笑ってしまった。
「美味い!!」
クッキーを頬張った殿下の声が響いた。周囲の人に注目されてしまう。
「サーラ。本当に君が作ったの?すっごい美味しいよ、これ」
「普通のクッキーですよ。何も特別な事はしておりません」
「いーや。これは普通のクッキーではないね。城のより、街で売られている物より断然美味しいよ」
殿下の手は止まらず、あっという間に食べきってしまっていた。
「うう、大切に食べるつもりだったのに。止まらなかった」
悔しそうに言う殿下が可笑しくてまた笑ってしまう。
「ふふふ。そんなに美味しく食べてもらえて嬉しいです。良かったらまたお作りします」
「ホント?」
「はい、我が家は母が良く作ってくれるので、自然と私も覚えたのです。お菓子限定ですけれど」
「じゃあ、また何か作ってくれる?」
「はい、喜んで」
「やった」
小さくガッツポーズをするアダルベルト殿下。どうやら殿下は甘いものがお好きのようだ。次はパイでも焼いてみようか。
クッキーを堪能した殿下が立ち上がる。
「さて、まだ時間もあるし中庭にでも行かないか?」
てっきりこれで終わりだと思っていたから驚いてしまった。でも嬉しい。
「はい、そうですね」
殿下に差し出された手を取る。
周囲の視線が気になるが、殿下に恥をかかせてはいけないと、姿勢よく歩き出した。
ところが、少し歩いたところで私の足は止まってしまう。金縛りにでもあったかのように身体が硬直してしまったのだ。
「……トンマーゾ」
5,6人の友人らしき令息方と共に、向こうからトンマーゾが歩いて来たのだった。