表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
18/25

マリーア・パルマーロ

 令嬢はパタパタと私の前に走り寄る。

「あの、私、トンマーゾ様とお付き合いさせてもらっています、マリーア・パルマーロと申します。あの、トンマーゾ様から話を聞いて、是非一言お礼を言いたいと思って待っていたんです」


彼女の驚きの行動に、周囲が水を打ったように静まった。仮にも王族の次に位の高い公爵家の令嬢に対して、いきなりの名前呼び。しかも許されてもいないのに勝手にしゃべり出す。おまけに内容は、こんな往来の場で言うべきではない内容。誰もが私と彼女を、そして隣にいるアダルベルト殿下を凝視していた。


「あの、パルマーロ様でしたかしら?あなたと私は初対面ですわよね」

「あ、はい。そうですね、初めましてですね」

にっこり微笑んでいる。そう言う事ではないのだが。


「ええっと、何故いきなり私を名前で呼んでいらっしゃるのかしら?」

「え?ああ、トンマーゾ様がいつもあなたの事をサーラって呼んでいるので」

……子爵というのは、こういうものなのか?私がおかしいのか?ちょっと理解が追い付かない。


「君さ。貴族の常識は知っているのかい?」

理解が追い付かない私に代わって、アダルベルト殿下が彼女に聞いた。

「常識、ですか?」

「そう。ここは学園だから、あんまりうるさくは言わないよ。でもね、初対面なのだし王族に次ぐ、高位の貴族令嬢に対しての礼儀はわきまえないと」


「礼儀?」

「そうだよ。周りを見てわからない?君がとんでもなく無礼を働いているって」

彼女がキョロキョロと周囲を見る。皆、眉間にしわを寄せたような顔で彼女を見ている。


「何がダメなんです?私、ちゃんと挨拶したし。ただお礼を言いたくて来ただけなのに」

この方は貴族のマナーを全く知らないようだ。


「あのね」

尚も言い募ろうとする殿下の腕にそっと触れる。

「サーラ?」

「もういいですわ。話が進みませんし」

「君がそう言うなら……」

不服そうに口を尖らせる殿下に思わず笑ってしまった。


視線を彼女に戻すと、彼女は私を見てはいなかった。殿下を熱っぽい目で見ていた。それを無視して話しかける。

「それで?お礼とはなんでしょうか?」


「え?ああ。トンマーゾ様から聞きました。グリマルディ公爵家で養女にしてくれるって」

トンマーゾはまだ確定していない話を、この方に話したようだ。余計な期待をさせて可哀想に。


「そのお話でしたら、父上に預けましたわ」

「わぁ、では私はグリマルディ公爵令嬢になれるのですね」

ペリドットの瞳をキラキラさせている。


「そうなると、私が公爵令嬢になったら、アダルベルト様とも結婚出来るって事ですか?」

「公爵令嬢ならば、家格的にはなんの問題もありませんわね」

私の腰を抱いていた殿下の手の力が強まった。


殿下を見れば、声を出さずに『こらっ』と言われる。

「わぁ、そうなんだ。アダルベルト様、聞きました?私たち結婚出来るんですよ」

「へぇ、私は絶対にお断りだけれどね」

物凄い笑顔で断っている。


「あれれ、もしかして照れちゃってます?可愛い」

もの凄い嫌な顔になった殿下。


「いつから私は公爵令嬢になるんですか?」

本当になれると思っている?もしそうならば、ある意味大物だ。


「それは私ではなく、いずれ父の方から話があると思いますよ」

これ以上は面倒なのでそれだけ言って、とっととこの場を去る事にした。一緒に歩き出した殿下がクックと笑う。


「彼女、もの凄い図太い神経を持っているようだね。私にシフトチェンジしようとしていたのも含めて」

「殿下ったら、すごいお顔になっていましたよ」


「そりゃなるでしょ。それにしてもサーラったら意地悪だなあ。あれは本当に公爵家の人間になれると信じているよ」

「私はお父様に預けたと言っただけです」


「数日間の甘い夢だね」

殿下の言葉に、二人でほくそ笑んでしまった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ