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お父様と殿下

「昨日は大変だった」

学園へ向かう馬車の中、私は溜息を吐く。


殿下と共に帰った私を迎えてくれたのは、いつもより早く帰ってきていたお父様だった。

私が中に入った瞬間、エルコレと二人でたくさん花びらをまいてお祝いしてくれた。ところが横で、殿下が私をエスコートしている事に気付いた途端、すっかり不機嫌になってしまったのだ。


「何故、殿下が一緒なんです?」

「おや?夫人には了承を取っていたのだけれど?」

「は?」

「だって、病み上がりのサーラを一人にするのは危険じゃないか。だから今日は、授業以外の時間はずっと傍で守っていたんだ」


殿下の言葉を聞いたお父様が、ぐりんと首だけ動かし私を見る。コクコクと、首を縦に振って肯定した私を見て、ちょっとウルウルしていた。

「よりによって、腹黒殿下に見初められるとは……今まで隠してきたのが水の泡」

「やっぱり、私に隠していたんだね」


ずっとレディとして完璧になるまでは王家主催のお茶会には参加出来ないと言われていたけれど。そういう事だったのか。


「それはそうでしょう。見た目も頭も強さもパーフェクトな、腹が真っ黒の王子なんて……ウチの可愛い娘はやりたくない」

「褒めて落とすんだね」

「あのクソ息子がもう少しまともだったら、こんな事にはならなかったのに」

「私は大いに感謝しているよ」

なんだかあのお父様が押されている。国王様にもガンガン叱りつけるという、あのお父様が。


「あの、お父様。私と殿下は何もないですよ。私はまだそういう気持ちにはなれませんし」

途端にお父様の表情が明るくなった。

「そうだよな。私のサーラがこんな腹黒を選ぶわけがないんだ」

これで少しは落ち着くかと思っていたのに、殿下が爆弾を落とした。


「影の存在、話しちゃった」

「はい?」

今度はぐりんと殿下を見る。

「だって。婚約解消の話をどこで知ったのかって聞かれたからつい」

物凄く可愛らしく言っている殿下。内容は鬼のようですが。


「この……腹黒めぇ!!」

屋敷中に響くほど、お父様の絶叫が響き渡った。



「ふふ、でも楽しかった」

思い出して笑っていると、学園に到着した。


「あ、グリマルディ嬢、おはよう」

「おはようございます」

「サーラ嬢だ。おはようございます」

「おはようございます」


一体どうしたというのか。朝からやけに声を掛けられる。その理由は教室で知る事になる。

「サーラ様。マグラーニ様と婚約解消なさったのですって?良かったわ。いつまでお尻の軽い子爵令嬢と付き合っているような方などと、婚約し続けるのかと心配していたんです」


「その話、どこで?」

「どこでも何も。学園中で噂になっておりますわ。おかげで殿方たちの目が血走っていますわよ」

「血走る?」

「そうです。だって美しくて貴族令嬢の鑑と言われているサーラ様が、婚約者探しをまた始めるだろうってなったら、男たちがほって置くわけないですわ」


興奮気味に語る友人。どうやら昨日の一件であっという間に話が広がったようだ。




◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


「どういう事だ?」

父上にいきなりそう聞かれた。母上もキョトンとしている。

「どういう事って?」


「サーラと婚約解消したそうじゃないか」

低い威圧的な声色で言われる。

「今日は仕事どころじゃなかったよ。色々な貴族連中から、婚約を解消の話は本当かと聞かれてな。こちらとしては寝耳に水だったのでな。驚いてしまったよ」


「あなた、一体何を言っているのです?サーラと婚約解消なんて聞いてないわ」

母上が何を冗談をと笑うが、僕の表情を見て笑うのを止めた。


「で、どういう事だ?」

言うなら今なのだろう。ずっと切り出せなかった彼女の事を話す。

「本当に好きな人に出会ったのです」

「ほお」


「彼女も私が一番好きだって言ってくれて。だから僕はサーラに婚約解消をお願いしたんです。でも手続きは何もしていません」

「手続きは何もしていない?それはそうだろう。私は何も知らなかったのだからな。相手の令嬢の家格が低く、私が反対するかもしれないからと、社交界デビューが終わるまでは婚約者のままでいて欲しい、なんて図々しい願いをサーラに突き付けていた事も知らなかったからな」


「なんで……?」

「ああ、アダルベルト殿下が直々に教えてくれたよ。それを聞いたグリマルディ公爵はカンカンだったがな。帯剣している時だったら、間違いなく私は殺されていただろうな」


ゾクリと、背筋が凍った気がした。国王の側近であるサーラの父上は、護衛騎士でもある。騎士団の連中よりも数段強いと、誰もが口をそろえて称賛するほどの実力者だ。


「ああ、心配するな。アイツの怒りはこれで収まったから」

そう言って父上は一枚の紙を僕に見せた。


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