Ex-Chapter57. 不可解な異次元生命体【ペガサス】
——ショーユ・バイオテック
異世界に拠点を置くことになったSoyuz提携の研究所だが、爆破やドンパチをしない分
とても地味に見える。
工期を可能な限り削りながら建てた豆腐建築ということも拍車をかけているだろう。
そんな折、休憩所でメンゲレがあるスタッフにこう漏らしたことが発端だった。
「ゾルターンで良く頻出する天馬だが……不可解な生き物だとは思わんか?」
ロンドンやラムジャーを許さない市民の会、はたまたゾルターン軍が運用していた航空戦力であるところのペガサス。
動力飛行など夢のまた夢、そんな時代に偵察や輸送。さらに空対空戦や所によっては空爆や空挺降下を可能とした存在である。
「確かに、あんな都合のいいファンタジー生物なんて自然にはちょっと生まれないですよ」
答えを返す研究スタッフの意見も言うまでもない。
生物は進化をするうえで常に適応や最適化が為されていく。
鳥はより軽くなるように、骨が中空化。
馬は平地を走るために爪が蹄に進化したように。
特異なものであれば地中を掘って進むために手が大きくなったモグラなどがあげられるが、地上生活を行うために必要な視覚が退化してしまっている。
だがしかし。
このペガサスという生き物は飛ぶには余りにも重すぎて、だからといって空を行動範囲にする理由がない。
この手の不必要なものは淘汰と共に退化、消滅し跡形も残らなくなるのが世の常。
消えていない方がおかしいのだ。
「文献によるとかなりこの生き物は「そのまま」登場している。ガビジャバンとかいうかびたパンっぽい国と戦争する以前」
「ダース山で化石発掘調査をしたときにも出てきたんだって?5万年前の地層ですら現代とまっったく変わらない姿で。竜は多少進化していたらしいが。」
メタセコイアしかり、化石から現代に再発見された例があるにせよ、5万年の間にこれだけ大きな生物が進化も退化もしていないというのが妙だ。
本来不必要で退化している筈の翼がそのままで。
まだまだ不可思議なところがあると言う。
「そもそも言い出しっぺは真木君だ。何を思ったが食った時に脂の味が明らかに馬のそれではないとか。
トンチキかと思っていたが、一応分子生物学的観点から調べてみたら……」
「従来の馬的な生物と染色体数が決定的に違う。染色体数が少ないどころか、あまりにも多すぎる。つまり……」
「あのペガサスという生き物は馬に見せかけた全く違う生物である可能性がある、ということですか」
「そういうことになる。私も真木君が発見しては食ってる新生物の論文を書かなければいけないのは重々承知だと思う。
あの天馬というよくわからないトンチキ生物を調査してはくれまいか」
かくして、珍妙な怪生物ペガサスの調査が始められたのだった……
———————————————
□
——ナルベルン自治区
そもそもペガサスは恐竜でもなんでもない現存する生物なので、個体が多い自治区に向かうことに。
不幸にもメンゲレに絡まれた一般スタッフ ギルキンに担当が押し付けられてしまった。
かなりナチス度の高い博士も暇そうで案外暇で、かなり暇じゃなかったりするので仕方がない。
ナルベルンに到着すると、古代文献の解読を主にしている考古学者チレイグと共に実物を前にして資料の精査が始められた。
「そもそも、飛竜とコイツは取り扱いそのものが決定的に違う……とある。実際その通りだ。選抜するときには先祖返りしていないかをチェックしないといけない」
チレイグ曰く、ペガサスなる生命体は一定の確率で先祖返りをするらしい。
巷を騒がせた「優勢・劣性遺伝」という概念がある以上、本質はエンドウ豆やこのよくわからない生命体も同じなのだろう。
「……ん?馬なのに爪が3本…ある?」
「それが先祖返りの特徴だ」
馬にも、そもそも草食動物として最適化された生き物としてはあり得ない特徴。
形質が出ているのだ。
一旦退化すると当たり前だが、その形質は失われて戻ることはない。
メンゲレの言う通り
ペガサスなる生物は馬でも、鳥でもない本当によく分からない生物にカテゴライズされるだろう。
「あと、こんな記載があった」
「ペガサスが交配などで数を揃えられなくなった場合は【合成】すること」
ではこのペガサスなる生物は何なのか。
・メタセコイア
よく並木になっているアレ。
実は化石植物として発見されていたが、なんと中国に行ったら生きている実物が発掘されたという珍妙な経緯を持つ。