ExtraChapter 04. Rest of the warriors(2/2)
兵士たちの休息、それは台風の目の如きひと時。Soyuz上層部では次々と侵攻先を決定させていく間スタッフたちには数日の休暇が必ず与えられる。Soyuzは社員に対する配慮がある企業だからである。ここが軍隊とは異なる点とも言えよう。
命の駆け引きを終えたガンテルとグルードの二人はしばしの休息につくことになった。
無人機ではない人間という生き物の性、どうしても戦うだけでは不満が生じてしまう。そのために少佐はいくらかの娯楽物の持ち込みを認めていた。
それに対し部屋が汚い割には細菌類に対し、無類の潔癖を博士が横やりを入れて全てガス滅菌したため届くのがやや遅れており今さらになって任天堂のトランプが届いたのである。
密室、娯楽に飢えた男たち、カネ、そしてトランプ。この4つが一度に揃ったとき賭けブラックジャックが始まるのである。
「カード切っておいてくれ、PAL」
「うむ」
暇していたグルードの親友でもあるアラブ系ナイス・ガイ、パルメドを寮室に拉致してくるとトランプの戦場が幕を開けた。
パルメドの手によって気持ちの良いほどに素早くカードが切られていくと3人の手札戦士にカードが2ずつ枚配られた。そしてグルードがガンテルに対しルールを語り始めたのである
「どうせだしルールを教えてやるよ。配られたこいつらが21に近くなれば強い、当然21は馬鹿みたいに強い。出たらブラックジャックっていうんだ。数ぐらい数えられるだろう。数が足りないならカードを引く。当然21になったらパァだ。掛け金は返らない。俺は景気よく5ドルからいく、手前からパッとやらねぇと始まらんさ」
説明を終えると手札を見ながらしわくちゃになった1ドル札が重なったものを中央に置く。シンプルなテーブルゲーム、ブラックジャック。カードを引くか、勝負に出るかの戦略さと持ち前の運がモノをいう。単純明快、そしてどこまでも奥が深いまさに沼。
ルールを大まか知れたのかガンテルは手札を見ながら軽口を飛ばした。
「そうでなくちゃな、俺のせいで部隊のカネというカネを巻き上げた実力。見せてやる」
「俺はまぁ、3ドル。」
パルメドはドル札を掛け金の集まった中央に投げた。それを見たガンテルは思わずこう口走る。
「紙のカネねぇ、生まれてこの方みたことねぇや。そういうのもあるんだろう。——待てよ、俺はどんな分賭けりゃいい。」
帝国では印刷技術の観点から紙幣は採用されていない。金属ではない貨幣はまず見たことのないガンテルにとっては少しばかり困惑の色を見せていると、グルードは迷わずフォローに入る。
「——まぁ…ジャガイモが5つくらい買えるカネくらい投げときゃいいさ。」
「そんだったら20G投げとくさ。当てつけにマリオネスからスリ取った残りだ」
硬貨が重しになり報酬は決まった。一人勝ちすればすべてこれが手元に行くことになる。8ドル20ゴールド、それなりのキックバック。誰が勝ち取るのであろうか。
グルードは納得のいかない顔をしながら山札からカードを引いた。
「そういえばガキのころ一番悪いことしたことって覚えてるか?」
「唐突になんだよ」
彼の唐突な発言に対しパルメドは煩わしいように答える。大概こう言ったとき陳腐な心理戦が仕掛けられるものである。そんな中ガンテルは顔色一つ変えずに手札を増やす。それでもなおPALは数字が遠いのか手札を一枚足しながら口走る
「俺がガキの頃かぁ。クラスの連中と結託して宿題を全部燃やしたら教室が燃えかけたことがある——やられた。21だ、クソッ」
何気なく引いたカードは13のキング。10として扱われるが12の手札にはあまりにも重すぎたのだ。諦めがついたのか彼はカードを表にして投げ捨てる。
「HAHA,計画的にカードを引かねぇからいけねぇんだ。準備ができてるなら[コール]っていいな。俺はコールだ。」
それに対してガンテルは耳を立てながら話に悪乗りしてゆく。
「俺が7か8の時…隣のヤツが飼ってたトリの首を跳ねてからバラして食ったことがある。昔っから俺はこんなんだったよ。生まれが猟師だからこれくらいできる。まぁ…こんなもんか」
勝負は17と15でガンテルが負けてしまう結果となった。それでもなお彼は顔を崩そうとしない、むしろ手際がつかめてきたようで口元がわずかに緩む始末である。
「勝ちはいただいていくぜ」
「なぁに、あったまってきた所よ。何も俺は最初から飛ばすわけねぇさ」
使ったカードを纏めておくと、再び手札がPALの手によって配られる。無機質な床に鎮座する山札、そして掛け金。第二ラウンドに突入したのである。男というものは真剣になればなるほど口数が少なくなってゆくもの。テーブル・カードゲームではなおさらで深層心理をいかに出さないかの戦いになる。
場に出ているカネは10ドルと30G。PALが少しばかり札を多く出した結果こうなった、これが負け続ければ悔しい上に懐に入り込む隙間風も馬鹿にならない。
「おぉ、割と引くねぇ。21になりゃ掛け金持ってけるぞ、さてはカードを引いたらおじゃんで引けねぇのか?そろそろ飛ばさねぇと盛り上がらねぇさ」
嫌らしいガンテルの言葉に顔をしかめたグルードが山札を引く。
「この野郎、ふざけやがって…お前部下に好かれない理由がよーくわかったぜ。クソッ。お前のせいで24だ畜生!」
無駄に強い舌論で巻かれたグルードはあえなく21を超過し、やけになりながら手札を床に叩きつつけた。男たちのブラックジャックは真剣故に絶望的に口が悪くなるのが定石である。
「コール」
ガンテルはそう言うと勝負に出たのだった。あえてPALに何も言及しなかったのは21を引いたことを引きずり、必然的に札を引くのをためらっているからである。
こうやって圧力を必要によって加圧したり分散させたりしてかけ引きを行う。
絶望的なまでに小賢しくカネにがめついガンテルが部下から風俗代を巻き上げるために鍛え上げた腕前である。
「…なぁ、お前。理想っての、あるのか。」
そんな中、カードを目の前にしたPALが唐突にガンテルに問う。
「マリオネスをぶち殺すためだ、この野郎俺を見殺しにしやがって…」
「そうじゃない。それとは別にあるのか」
真剣な声色に調子を狂わされたのか口を動かしながら彼はしばし考えるとこう答えた
「少なくともハリソンみたいな死んだ目した人間が無理やり働かされてる光景ってのは見てて気持ちの良いもんじゃあねぇ。俺ぁ17だ、あんたは?」
「14だよ。持ってきな」
ラウンドは3を迎えた。手札を別所に移すと掛け金を周りに寄せる。グルードは笑みを浮かべながら10ドルを出した。
「お前らがいい気になるのはそこまでだ、全部持って行ってやる」
PALは深く気にしなかったが、彼は焦っていたことは明白だった。心の中でガンテルは獲物がかかったかのような汚い笑みを浮かべる
「そういうなら仕方ねぇな。4ドル?と60G出してやる」
「——俺は5ドル。」
運命の火ぶたが切って落とされた。
勝負は序盤から中盤に移行しようとしていた。ここからは序盤で取られたカネ次第で誰が焦っているかを把握する戦いになってくる。そんな中ガンテルは悠然として手札を増やし続けていた。2から3。数字が大きければコールを宣言して勝負に打って出ることもできるだろう。
「コール」
始めに宣言したのはPALであった。久々の休暇で遊ぶブラックジャックともありようやく調子がつかめていた。
コールした以上、これ以上の足掻きはできない。残されたのは二人、熾烈な戦いが火ぶたを切った。
グルードは隠していたが焦りがにじみ出ていた。1回目はよかったが後々出した15ドルというものを取り戻さなければならない。その上今までの負けも同様である。
どのみちPALの引きは悪いだろう、ならば問題は目の前の悪趣味風俗野郎だ。
「よろしくねぇなぁ。」
彼は手札を3から4に増やしていた。表情を伺うと石ころを蹴飛ばしたかのように無常である。手練れだ、部下から金を全部巻き上げたことはおおよそ事実だろう。認めたくはないが。
そこでグルードはカードを引く。数字は20、ちょっとやそっとでは勝てない相手で勝ちは確定したと言っても良いだろう。ほんの少しだけ頬が上がるが、その優越も終わりを告げることになる。
「羽振りがわりぃったらありゃしねぇ」
ガンテルは5枚目のカードを引いたのである。だがブラックジャックは変に欲を出すと破滅するゲーム。彼眼差しは一瞬絶望するかのように曇った。ほとんどグルードの一人勝ちだろう。欲張りすぎたが故に負けたのだ。
「コール」
互いの手札が今戦う時がやってきた。
PALは18、まぁまぁである。だが20には絶対的に勝てない存在だったがガンテルは21を超えて破滅し、出された19ドルはまるごと頂いていける。そう思った時だった。
「言ったろ、俺は部下という部下から金を巻き上げて風俗常連だったって。——ブラックジャック。」
ヤツが出したのは21だったのである。グルードは頭を抱えながらカードを放り投げた。
「oh SHiiiiittt!!!!!!Fuck!!!!」
暴言が寮室に木霊した。20は勝ちやすい数字ではあるが無敵ではい。21という存在がある限り。
それからというもの、勝敗は揺らぐもののそれで得たドル札を全て持っていかれる展開が続く。グルードとPALが勝って得たスコアを全部ガンテルの一人勝ちで持っていくのだ。
ギャンブルにどっぷりつかった人間は怖いもので取り戻そうとすればするほどその沼に囚われるものである。いつの間にか時間は消灯時刻まで迫っており、ついには消される始末だった。
「おい、消灯時間だぞ。静かにせんか!ほかの連中は寝てるんだ」
消灯時間後の確認のため巡回していた冴島が、いつまでたってもバカ騒ぎをやめないグルードらのいる寮室の扉を開けると、闇で満たされた室内では酔っ払ったかのように気の大きくなった声が反響していた。
「暗くなったからと言っても俺は夜目が効くんだ、月明かりでも札が見える!お前らの給料からも全部まきあげてやるからな!」
「オイマジかよ…」
少佐は呆れながら扉を閉めたのだった。