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SOYUZ ARCHIVES - 整理番号:S-22-975 - EXTRA  作者: Soyuz archives 製作チーム
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ExtraChapter 03. Rest of the warriors(1/2)

タイトル【戦士たちの休息】

マリオネスたちの確保に成功し、事実上部隊の司令官を喪失した形で帝国軍との戦闘は終結を迎えた。書面上や報告書ではそう書かれることだろう。だが現実問題としてまだまだ仕事は残っていた。兵士の帰投である。勝利したからと言ってでかでかとWINの文字が表示され、暗転しておしまいではない。

 森林城塞戦で活躍した歩兵を満載にしたBTR80らの機械化歩兵部隊はその場にとどまる必要性がないため、さっさと引き上げることになったのだが内部ではまるで部活を終えた学生のようにぐったりとしたスタッフたちが完全武装してただでさえ小さい座席に押し込まれていた。火力差によって余裕に見えても矢が頭を貫通し脳にまで達すれば当然死ぬわけではあるし、命のやり取りをしていることには変わりない。


 重傷者がいたため捕虜搬送用の輸送ヘリで運んだのは良いとして、歩兵スタッフは地獄のような帰り道があることを忘れてはならない。BTR80は戦場へのリムジン的な存在ではあるが実際は屋根が付いた軽トラックの荷台に押し込まれているのと乗り心地は大差ないのだ。


 そんなこともあって帰りの車内は静間に帰っていた。本部拠点までは時間がかかるため憂鬱さは加速する。まるでテスト当日の学生たちを詰め込んだスクールバスのように。

BTRの片割れに居たガンテルは彼らとは違い、苛立ちを募らせていた。あれだけ自分をこき使った挙句いざ追い詰められるとなると残存する兵士を囮にして尻尾を巻いて逃げ出したのである。

前の襲撃の際にも同じことをされて心底腹が立つことでもあったが潰せた人間はお友達ごっこのジューレンくらいなものであり、本丸であるマリオネスを殺せないことに一番憤りを感じていたのだ。そんな彼にあの時の黒人兵士グルードが場を和らげるようにこう言った。


「そんな顔すんなよ、俺ら勝ったんだからよ。」


それに対してガンテルはため息を吐きながらほぼ床同然の背もたれに寄り掛かると


「そりゃあそうかァ。マリオネスを殺せなかったのは一生後悔するったらありゃしねぇが、とりあえず憎さ100倍しかねぇクソみたいな部下と同僚をぶち殺せたから良いか。

殺し切れてるか自信はねぇけど」


この男ガンテルは元いた部隊の人間を殺傷しても何ら罪悪感にかられることはないのだ。

口ばかり達者なロクデナシ等彼にとっては部下以前に人間ではないザコ同然だからである。



 HQから撤退許可が下りると、ひどい揺れを疲労が散々溜まり案山子のように動かない兵士を揺さぶり始めた。だがガンテルとグルードの二人だけは盛り上がっていた。

人間、目先のことを考えていると疲労というものを感じないものである。

 

「お前、なんでここなんかに来たんだよ。俺の素性なんてどのみちうわさで広がってんだろ?俺は詳しいんだ」


ガンテルはグルードに対してこう問う。違う世界の人間はどうやって兵士になっているのか、単純な疑問であった。それ以上に聞きたい質問といえば常に肌に対して色でも塗ってるのかどうかだったが、このようなことを聞くと洒落にならないこともあり封じ込めておいたのだ。


「ずいぶん前だな、シエラレオネで12か13くらいで兵士になってた。戦争が終わってどうも行き場がなくってな。外から訳の分からん奴らが少年兵から普通のガキにするんだっていってついていったこともあるが、どうにもこうにも上手くいかなくってな。

そうしてたどり着いたのがSoyuzってことだ。いろいろ飛び地で戦ったりもしたが、まさか俺も異次元ってやつに来るなんてイカれてる、人生何があるかわかったもんじゃねぇな。」


残酷な現実にたいしてガンテルはあまりピンときていなかった。帝国では16で成人するし、前の戦争でも少年兵が登用されることもザラだったからだ。するとグルードはある質問をしたのだった。


「お前っていつから兵士になってたんだ?」


その質問にガンテルは口角を一方に寄せた。まさかそんな質問が来るとは思っていなかったからだ。


「俺もそんくらいだな。15年も前だから…16のときか。俺はもともと山んなかで猟師をやっててな、ハンターだった。戦争は楽しかったねぇ、時折死にかけるが木に登ってバカなペガサスナイトを叩き落したり…戦争が終わってからうちの国ってトップが変わったんだ。だいたい4年前くらいか、あんまり俺はおつむが良くねぇもんで定かじゃあないからな。そん時軍人やめようかなぁなんて思ったもんよ、だけどよくよく考えたらこのままの方が有利なんじゃねぇかなと思ってダラダラ続けてたら——

 この始末だ。やってられねぇよ」


その言葉にグルードはムッとしたが、そんなこともあるのだと思ってそれ以上追及しないでおいた。戦争とは本来血なまぐさい地獄そのものである、それが楽しいとは頭のネジが吹き飛んでいることは間違いない。


「そういえばよ、今夜うちんとこ来るか?お前とは何かシンパシーってのが合いそうだからな。ちょっとした賭けブラックジャックだよ。札遊び。パァーッとやろうぜ、こんな時にシケてちゃいけねぇよ。なぁガンテルよぉ!」


乗りに乗ったのかグルードは思わぬ提案を彼にしたのだった。どのみちこの拠点に来てからというもの、娯楽というものが全くと言っていいほどない。この世界にはカジノも何もないからだ。


「全く最高だなソレ!賭け事なんてあのどうしようもない女に使えそうなものを全部没収されて以来してねぇな…だが俺は部隊全員から金を巻き上げた男よ、なめるんじゃねぇよ。いかさまの名人に下手なイカサマなんて通じると思うんじゃねぇよ」


その釣り針に遠慮なくガンテルは食らいつくと、話はとんとん拍子に進んでいった。同じような波長をもつ人間というものは自ずと惹かれあうものである。規律の厳しいマリオネスの隊から解き放たれたパンドラそのものと、娯楽が足りないグルード。まさに悪魔合体とも言えるほどの馬が合った。


 そんな学生めいた二人だけのバカ騒ぎは終わりを見せることになる。

BTRは本部拠点に到着し、ゼリーを溢したようにスタッフたちは外へと出てゆく。誰もかれもが疲れ果てているのだ。

喋る気力を失った彼らを待ち受けていたのは風呂であった。入浴とは魂の洗濯というもので寝ることすら億劫に思うほど疲弊しきったスタッフたちに睡眠する気力をわずかながら与えてくれる。

 ベルトコンベアで運ばれる製品のように脱衣所に向けて兵士は吸い込まれていく中にガンテルとグルードは混ざる。


 「そういえば風呂ってのはどこでも流儀ってのがあるもんだがよぉ、そこらへんどうなってんだい」


ガンテルは思わずそう聞いた。あのどうしようもない乳なし女が決めた気まぐれの礼儀なんぞはどうでも良かったが、男同士では話が違うからである。


 「俺だってそんな知ってるわけじゃあねぇさ。あのサエジマ仕込みなんでな。突貫で教え込まれたから期待すんなよ」


グルードはそう言うと風呂の入り方を指南し始めたのだった。

いざ脱衣所から奥の共同浴場に入ると、安っぽい青タイルで満ちていた。まだコーキング材も新しく、それもより一層チープさを引き立てていた。


「お前らんとこって無駄に色鮮やかだよな、もう少しこう、遠慮ってのができねぇのかよ」


あまりの色彩にガンテルは苦言をつける。木と石、そしてコールタールの防火塗装に慣れ切った彼からしてみればこのパステルカラーまぶしいここは違和感の塊でしかないのである。そのことにグルードはこう返した。


「深く考えすぎんなよ、頭痛くなるぞ。」



「それもあるな、魔具なんてどうやってできてるか俺知らねぇしな。俺の味噌っかすみたいな頭で何しようが使えりゃいい。だろ?」


互いに深く考えないまま風呂支度を済ますべく青タイル場に足を運ぶ。両者共に体は傷だらけであり到底まともではない過去があったことを表していた。

次元が違えども壮絶な過去だけは変えることだけはできない。何もかもが手遅れなのである。 


グルードがかけ湯をするように教えると恐ろしいほど横着したガンテルは頭から湯をかぶる。狂行に見えたが、誰もが疲れ果てていたため誰も気にするほどの余裕等ない。

 そのまま体を洗うと言うことを伝えると向こうの世界でも石鹸があるのだろうか慣れた手つきで泡を塗りたくり、手さぐりに蛇口を操作すると冷や水であろうが構わず洗い流した。この帝国は湯を使える程贅沢な設備などはなく、これが当たり前なのだから。

あらかた汚れを落とし終わると無言で浴槽に体を押し沈めた。男という生き物は至福の時、言葉というものが邪魔になることがある。二人にはそれが訪れていたのである。




 「湯につかるとか贅沢にもほどがあるだろ、カネ、最高!」


風呂から出てきたガンテルはまるで生き返ったかのような顔であった。ほんの僅かの休息を最大限に生かす。特に環境の悪い兵舎等ではこのスキルが試されることが多い。

現に他の兵士も話ができる程には気力が回復しており、今回の戦闘を振り返るようなことやくだらない話が飛び交う。その一方グルードはスキンヘッドの頭を無造作に拭きながら着替えを探していた。


「大体勤務なんてこんなくらいしか気休めになりゃしねぇ。あるだけマシってもんだ」


彼は恨み言を吐きながら洗濯されたシャツを身に纏う。一瞬ではあったがその体がまるで鋭利な刃物で切り付けられたようなモノが少なからずあった。


「大体おたくらのとこって賭け事に使えそうなあらゆるモノを持ち込んでも雷落とされたり燃やされたりしないからそこんとこはいいよな、あのアマ何もしてない時でも燃やしてくるから回避癖がついちまったぞったく…」


髪を適当にふき取るとグルードに嫌味の混じった一言を投げかける。マリオネスの居た部隊はほとんどガンテルのせいで兵士のカネというカネが全て巻き上げられており賭博は禁止されていた。自業自得とはいえ砦に居る皆が鬱憤を募らせており、人間関係もほとんど彼のせいで収拾不能な程悪化していたのである。

そんな嫌味ったらしいガンテルの言葉に対しグルードは気楽に返す。


「代わりに少佐のげんこつが飛んでくるさ。」




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