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SOYUZ ARCHIVES - 整理番号:S-22-975 - EXTRA  作者: Soyuz archives 製作チーム
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ExtraChapter 02. Highness Visits “Объект”

タイトル【殿下の視察】

国家を取り返すという依頼を受けたSoyuzに必要なのは人員、それと兵器である。

戦車、航空機、機関銃と様々な物品を納入し終わり確認を行っていた。

 あまりの数から補給スタッフであるジョンが業務にあたる始末で、あまりの多さに日は傾き始めている頃合いだった。


「ウォルマートのスープ缶みてぇにありやがるぜ、クソッ」


首を回しながらボールペンを何度もノックしながら博物館の展示品と見まがうような装甲兵器群の数が合うかカウンター片手に歩いていた。何分トヨタの車とは勝手が違うため巨大な格納庫を行ったり来たりを繰り返さねばならない。数え間違えを防ぐためにカウンターを持っていたが、疲労はたまっていく一方だ。

 ツングースカの数合わせも終わった頃、ジョンは記入用紙とカウンターを照らし合わせボールペンで記しを入れた。すると肩を落とし、首を一周させてからため息まじりに独り言をつぶやく。


「さぁて、続いてはBTRねぇ。まだこのかみっぺらの半分もいってねぇ。」


改めて用紙を見るとうだるような空欄が目に入る。この空欄を一つ一つクロスワードパズルのように埋めていかなければならない上、正確に数を数えなければならない。苦痛故にジョンの目はより一層濁りはじめていた。


「失礼。その用紙を拝見してもかまいませんか」


「HAM!!?」


数えることに集中していたジョンは思わず声を上げた。急いで後ろを向くとやたらに上品な少女とその付き人が背後に立っていたのである。

ディーラーショップのように装甲兵器の立ち並ぶ中ではひどく目立つ。まるでさぼっている作業員を見に来る上官のように。


「あー…仕事は…しているところで、一拍休憩を取ろうと思って。コーヒーブレイクみたいなもんです。ええ、気にしないで」


思わず言い訳を口走ってしまったが、その言葉にソフィア皇女とその従者エイジはそのことが理解できず困惑していた。

気になって要件を聞いてみると、これら異界の軍隊が使う兵器群に興味があり来ているのだそうである。どうも兵器マニアやそう言った類ではなく、技術等に関心があるらしい。いずれにしても機械油を多少かぶったところで止められそうにはないため、ジョンは気分転換を兼ねてこの時だけ学芸員になることになった。


「こいつはBTR80。銃弾だのから守りながら兵士を纏めて詰め込んで運べる。それだけじゃねぇ、河とかぐっちゃぐちゃな泥地だろうが走って新鮮な完全武装兵士を届けられる。エンジンは260馬力2600回転出せる。路盤が良けりゃあ時速100も夢じゃあねぇな。馬なんかよりもはるかに速い。

しかもこいつ自体、銃弾を弾ける上に歩兵が持ってるのとはけた違いな威力の機銃を乗っけてる。ちょうど上の方にある串を差したパンみたいなのだ。」


彼は記録用紙を片手にチェック・ボックスに入れながらカタログスペックを見て話しているかのようにすらすらと説明を言ってのけた。ジョンもこんな体たらくではあるが整備士であり、運ばれる兵士や運転手よりも車両のことを知っている。


「確かに戦地では輸送中に兵士が損耗することがあるため余裕を持たせて派遣すると聞いた覚えがあります。そう考えると無駄に手間を取らせずに運べるというのは大きな強み。それでいて馬よりも早く運べるだけではなく、時には盾にもなる存在というのは大変興味深いです。馬車は基本的に守らねばならないものですから、その必要がなく援護できそうですものね。

それ以上に貨車が馬を使わずに走れるのは驚きました、ぜひ中身がどうなっているか分解したいものです。特段、どのような構造なのは兎も角どんな意図をもって作られているのかなど知りたいものです。」


皇女殿下は水を得た魚のように話し出したのである。思わずそのことにジョンは困惑した。今どきの脳みそが抜けたような女どもは味のないガムを噛んでいるかのような反応を取るものだが、彼女は違った。どのように構造が活用されているかを知りたがっているのだ。思わずジョンに火が付いた。脇に居る側近が眠そうにしていたがそんなことは関係ない。


「そこまでたぁ驚いたな。あんた最高だよ、馬なしでこいつが走る種明かしをしてやろう。」


彼は思わずBTR側面にある足場を器用に上ると、手慣れた様子でエンジン蓋を開けると、彼女もその後に続いた。


「殿下、おやめください」


エイジが必死にソフィアを止めようとしたが技術の粋の塊を見たくてたまらない知識欲の暴走機関車と化した彼女には何もかもが手遅れだった。


「こいつが馬260頭分の力を生む力の源さ。こいつから生み出された回転エネルギーがややっこしい歯車を通じて分配されんのさ。」


ジョンの高らかな解説音声を無視してその様子を殿下は覗き込んだ。その様子は魔力を使ったものとは明らかに違うものである。その異質さと、あることに気が付いた。


「この部品の周りにはある程度余裕をもった空間があるのが少し気がかりです。私の見たものはみっちり詰まっていましたもの。そこのところはどうなってるか——」


すると今まで食らいつかれていた側が牙を剥く。技術屋の灯はガソリンが詰まったがガロン缶をぶちまけたように大炎上、爆発を遂げる。


「よくそれを聞いてくれたな。このエンジンは霧状になった軽油に圧力をかけて爆発させる。その押し上げる力をこの4輪タイヤに注ぎ込むんだ。だがクソッタレな熱が出るもんでみっちりと詰めるとそいつが伝わっちまう。だから余裕を持たせる方がいいってもんだ。こんだけサイズがあればこいつの心臓が爆発しても、代わりの得体の知れないエンジンとか新しいのとかをねじ込める上に交換も楽だ。ちょっとぐらい、いや雑に扱っても壊れないヤツさ。」


「確かに余裕を持たせることにそのような意味があるとは。今までになかった発想です。いたずらに詰め過ぎてもいけないとは、なかなかに奥が深いものです。

燃やすだけでこれだけの力に変えられるとなると、冷やすのもなかなかでしょう。あまりに熱すると部品が溶けかねませんものね。近くに突起物があるようですね。これは穴が開いているようで…何かを取り入れるところでしょうか。おおよそこれが空気を取り入れる構造となっているようで。」


二人の人間が話し合う内容は下劣な内容でも卑猥なものでもなく、テクノロジーを知るものと求める関係がまるで歯車のようにかみ合うと、談義は花が咲き続けていた。




一しきりBTRを見終わると、次の車両を見たがっていたので仕事の傍ら機銃について説明することした。どうも馬車を一発でガラクタに変えたものの正体を見たいとのことである。


「あの塔に乗ってる串みたいなのは機関銃ってんだ。まぁ、一応知ってるだろうが知らんだろうが言っとくと弾丸をばらまくことができる。だいたいこれでマフィアだの反社会的テロリストだのを排除できるということだな。」


淡々と説明しながらチェックシートに印をつけていく。途中でボールペンのインクがろくに出ないことも重なり少しばかり苛立っていたが、今までの莫大な砂漠を歩くような虚無感に駆られて作業するよりは幾分かマシである。


「銃という存在は知っていますが、おいそれと発射することはできないはずです。それができるのなら、相当な打撃力を生みますし、ある程度の敵なら追い返すことも出来る筈です。——無論、どうなっているか分解の後にスケッチをしたいものですが。」


聞き捨てならない言葉に思わずジョンは反応しながら解説を続ける。


「やめてくれ、俺はそっちまで詳しい人間じゃあない。戻せなくなる。生憎俺は目覚まし時計でも戻せなくなるくらい不器用だ。銃とかああいうのを撃つとかすると反動が出るだろう、その力をうまく使って機械同士を動かして次の弾を持ってこさせるんだ。なかなか良くできてやがる。大本が100年も前に考えられてんだからすげぇよなぁ。30年生きてるだけでも俺はもうついていけなくなってきてる、時代ってそんなもんだよ。

さて、馬車を木の残骸にしたのは此奴かい?」


大まかにBTRの数を数え終わると、続いては新しい戦闘車両が二人を出迎えた。

今までとは打って変わり、力強い100mm砲を備えつぶされたガムのように車高の低いT-55であった。


「ええ、これだと…思います」


「エンジン回りはだいたい同じだが…こいつは中身と考え方が変わってる。まぁ見ればわかるがな」


最早暴走機関車はジョンになったのだろうかと思いたいほどに彼は過熱していた。


かくしてT-55の見学会がはじめられた。ミリタリー・マニアにはたまらないものだが奇しくも二人はその毛はない技術屋と暴走機関車の二人である。


ジョンが車体に設けられた操縦席ハッチを開けると、皇族とは思えぬアクロバティックさで中を覗き込む。その様に付き人のエイジは止めることを諦め、皇女がしてはならぬ格好になる様を見て居ながら、止めることはなかった。一度火をつけたら最後、地獄の門となってしまう人間なのは間違いないのだろう。


「ええ、この中身はものすごく中身が詰まっていて…ええと、この桿があるということは…おおよそここで制御するのでしょうか。人を乗せる事を前提にしていないようですね、取捨選択の結果なら何を取ることにしたのでしょうか」


最早その様はどうしようもないものだった。まるで壁の孔にすっぽりとハマり出られなくなる一歩手前になりながら、その声色は純粋素朴に知識を追い求めているのだから。


「そこまで突っ込んでみるものじゃあないぞ、壁に突き刺したニシンになりかかってる。

こいつは装甲に出来る限り割り振ってるんだ。それとこの銃をバカでかくした砲で敵を撃つんだ。もう此奴は旧式だが道路でちょっかいをかけてくる車はいないし、その気になればガラクタにできる。砲も面白いぞ、こっちに来てみてくれ」


ある程度操縦席を見終わると、ジョンの声に反応したのか無言で砲を覗き込む。


「溝がありますね、一体どのような意味が?」


「こいつは発射された弾を回す役割がある、それでまっすぐ飛ぶんだと。らせん階段の手すりに転がるモン落としたことあるだろ?あれが超高速で行われてるんだと。物理のテストが17点な俺にはちっともわからんが。そういえば反動の話をしたと思うが…先っぽについてる怪しい物体は反動のもとになる爆風を逃がして反動を減らすんだ。」


「確かに攻撃力と防御力に重んじられるとそうなるのも納得です。特に反動を抑え込む構造に関しては大変に興味深いと思います。この特殊な足回りというのでしょうか、今まで見たことのない形状をしていますが、これに関してはどのような作用をするのでしょう」


「ああそれは無限軌道といって——」


学芸員と知識欲の塊と化した学生の話はまだまだ続きそうである…。


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