02.私は神の代理人。神罰の地上代行者
人肌に温められた極上の朝食を終えた後、さすがに心配なので俺はココアを探しに出かけるのだった。あいつは騙されやすい性格なので変な宗教に捕まっていないかとても不安だ。
お人好しが過ぎるせいで、騙されて何度も奴隷として売られている彼女を救った記憶が思い出された。せっかくのお母さん候補を逃がすわけにはいかない。
うん。中々見つからない。
「次の発作まで時間がねぇ。やばい、このままじゃあ社会的に死ぬ」
赤ん坊に必要な道具なんてそこらで買えるだろうと思うかもしれないが、必要なのはバブみだ。
げげ、そろそろやばくなってきた。
精神的な安心が無いとストレスで自我が崩壊する。正気を失い路上で糞尿を撒き散らす大人には絶対なりたくない。
「冒険中に出したら超人生活終わるナリ…!」
頭は既に少しおかしくなっている。
…!
「そうだ! 大声を出して、音をかき消すあああああああああああああああ!!!!」
便意の隙を突いて突如、空から剣の雨が降って来た。全身を貫かれる痛み。お陰で便意が飛んだ。便意が。
「……悪魔め……今日こそは殺してやる!」
そう言って登場したのがシスター服に身を包んだ銀髪の少女。右目は眼帯に覆われている彼女は────手品のように幾本もの剣を取り出し、曲芸のようにくるくると回していた。
「こういう時に狙われるのは最低の気分だ」
「遺言はそれだけか。天罰は五秒後。死ぬがよい」
「……ッ!」
狂気の一瞬。俺は魔法を唱えた!
「契約魔法───地獄門!」
大島の体を貫通するようにゆっくりと、地面から門が現れる。貫通した剣のみを外し、門の中に身体を隠す。
「貴様! その能力にそんな力が!?」
そろそろ発作が起きてしまう。最短で勝負を決める! この地獄門は連続召喚への起点。門で攻撃を防ぎつつ、次の攻撃魔法にも使えるのだ!
「契約魔法───魔神王!」
「しまったっ!」
召喚した門からドロドロの人型の魔神が姿を現す。既に周囲を泥で覆われており、回避は不可能。攻撃してきたシスターは、成す術も無く捕まった。
「くっ、殺せ!」
「あっけないな、イチゴちゃん」
「その名で呼ぶな!」
俺を襲う者の正体。それは悪魔殺しのエクソシスト──通称、死を呼ぶ赤い果実と呼ばれる幼い少女だ。悪魔を殺す為だけに教育されており、名前が無いのでイチゴちゃんと呼ぶことにしている。
「丁度いい。悪魔との契約を覚えているな?」
「くっ……またアレをやらされるのか!?」
こいつは諦めずに過去に何度もこの俺に挑んできている。人間じゃこの悪魔の体に敵いっこ無いのに。
「契約は絶対遵守。魂まで縛ってるからな」
殺意だって無効化できる。すこしだけおままごとにつきあってもらうぞ。
「ぐっ…仕方ない…」
用意周到に彼女は胸元のポケットから哺乳瓶を取り出した。
「ああ、そういえば常に持ち歩いてるんだったっけ」
「貴様の……せいだぞ!」
「負けるたびにしょーもない契約を増やしてるからな」
「横に……なれ!」
命令口調で膝枕されるのは初めての経験だ。
「あー……いいわ」
服の上からでもわかる柔らかい太ももの上に頭を乗せ、ミルクを飲ませてもらう。
「んぐ……んぐ……」
ゆっくりとミルクを流し込む。さっき食事をしたばかりだが、まだまだいけるな。
「な……なぜこのような辱めを……!」
「ママー!」
「なっ……なんだというのだ! 私に母親の真似事を……!」
そういう契約。逆らえませーん。
「この……うう……」
大草原の胸に顔を埋める。あったかいだけマシだな。
「……良い子、良い子……」
自分に身体より遥かに幼い掌に頭を撫でられる。
「……良かったぞ」
これでしばらくもつな。それにしても撫で方が上手だ。彼女も立派なお母さん候補だな。
「つ……次は覚えていろ……!」
ふるふると体を震わせ、イチゴちゃんは帰っていった。
「あっ、ココア探さねえと」
俺は昼の町を進むのだった。