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Crazy Fairy Tales  作者: Leica
Side of Alice
9/9

追憶 「少女の光の記憶」

―シルヴィアおねえちゃーん!―


幼い子供の声がする。


―アリス!おはよう。―


それに答える優しい声。


―おねえちゃん!今日は何して遊ぶ?―

―そうね、読み聞かせでもしましょうか?―

―やったー!―


まだ無邪気だった少女。

あの頃は毎日が輝いていた。

ただ毎日が楽しかった。

それはまだ私が6歳のころだった。


‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐


―アリス、そろそろあなたも専属メイドを決めなさいね。―

―ねぇ、お母様。―

―何かしら?―

―専属メイドって誰でもいいのですよね?―

―えぇそうよ。―


お母様の声は決して優しい声ではなかった。


―あなたは12歳になったら別館の方に移しますから―


私はお母様から愛されてはいなかった。

当然だ、私はお母様の子ではなくお父様と不倫相手の間に生まれた子だからだ。

貴族だったがゆえに私はこの家に引き取られているが、お母様から見れば私のことなんて憎い存在にしか見えないはずだ。

それでも私はお母様が好きだった。

お母様は私に害を与えず普通の生活を与えてくれた。

憎まれる存在だった私にとっては十分すぎる生活だった。

お母様は私に優しくしているつもりはなかっただろうが私にとっては優しい母親だった。

私がどんな存在だったとしても10歳の私は普通の生活をしていた。


‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐


―ねぇお姉ちゃん。―

―どうしたの?アリス。―

―私の専属メイドになってくれない?―


私はお母様の「誰でもいい」という言葉を都合よく解釈しシルヴィアを専属メイドにしようとしていた。


―唐突にすごいことを言うのね―

―ごめんなさい...―

―いいのよアリス。少しびっくりしただけだから―


彼女のその言葉は嘘のようにしか聞こえなかった。

その時の彼女は笑顔は本当の笑顔には見えなかったからだ。


―お家で何かあったの?―


彼女は私の親が貴族であることは知っていた。

私が父親の不倫相手から生まれたことも。

だからこそ彼女はこの話の原因が私の家であることをすぐに理解してくれた。


―12歳になったら私別館に移されるんだって。その時本館のメイドをあまりこっちには送りたくないらしくて、私が選んだ少数のメイドだけで私の世話をするらしいの。

でも本館のメイドさんは私のことをよくは思ってないから、それで...―

―でもメイドさんかぁ。なったこともないしなぁ―

―ごめんなさい。やっぱりだめだよね―


私は諦めようと思っていた。

これ以上は彼女にただ迷惑をかけるだけだったから。

しかし彼女の答えは肯定的だった。


―いいわ、私がなってあげる。―

―え?本当にいいの?―

―それであなたを助けられるなら私が専属メイドになるわ。まぁうまくできるか分からないけど。―

―ありがとうお姉ちゃん!―


彼女は私にとって光だった。

私の先の暗い未来を照らしてくれる存在だった。

私は彼女のことが本当に好きだった。

彼女が姉のような存在から専属メイドに変わった日。

11歳のことだった。


‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐


その後シルヴィアはメイドになるうえでの教育をお母様から受けていた。

彼女の存在はお母様にとっても都合のいいものだった。

ゆえ教育は厳しいものではなく基礎からすべて教え込まれただけだったという。

そして一年がたち私が12歳になり別館へ移される頃。

彼女は立派なメイドになっていた。

私は彼女の主人になったがゆえにもう「お姉ちゃん」と呼ぶことはできなくなった。


―では行きましょうか、お嬢様。―

―うん、行こっか。―


そして私とシルヴィア、その他の屋敷の整備をするメイドは屋敷の別館へと向かった。

しばらくは主従関係というものには慣れなかったが15歳の時には主人とメイドという関係は完成していた。

その後は何もない日々を過ごしていたが17歳の時彼女を失った。

何よりも大切だった彼女は強盗に殺された。

私が狂いきってしまった原因だった。

私はどうすればいいか分からなかったがグリム曰く何もできなかったとのこと。

シルヴィアが死んだあの日から私に希望は残されていなかったのだ。

私はこの後なんてシルヴィアに謝ればいいのだろう。

彼女が死んだのは私が屋敷に呼んだからでもある。

そして私は自分が狂ったのを彼女のせいにしている。

本当は別の原因があったかもしれない。

なのに彼女のせいにした。

彼女のせいにしながら人殺しをした。

世界を壊そうとした。

彼女は許してくれないだろうな。

また彼女に叱られてしまう。

でもまたそんな何もなかった日々をあの世で過ごせるならそれもいいかもしれない。

死にゆく中、生きていたころの夢を見ながらそんなことを思っていた。

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