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Crazy Fairy Tales  作者: Leica
Side of Alice
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第五章「美しさを求めた少女の自惚れ」


一節「図書館の朝」


コンコンとドアをノックする音が聞こえる。

「アリス。もう朝だよ。朝食をとりたまえ。」

ドアの外からグリムの声がする。

「貴方は私の親か何かなのかしら?」

「作者という点では君の生みの親でもある。それならあながち間違いではないのではないかい?」

「確かにそうとも言えるわね。」

「さぁ、朝食は君のために持ってきてある。早く食べたまえ。」

「どうも。」

ドアを開け、グリムの持ってきた食事を受け取る。

パンにオムレツにソーセージにスープにサラダ。

いたって普通の朝食だ。

しかし、その中にも異質なものは見つかる。

「この紅茶...」

「気づいたかい?」

「気づかないはずがないでしょう。」

なぜならこの紅茶は毎朝シルヴィアが淹れてくれたものと同じ香りがする。

「どうしてこの紅茶を?」

「言っただろう?僕たちは君たちを観測していると。物語について僕たちが知らないことは無い。君が好きな紅茶の茶葉もその淹れ方もね。」

確かに再現としての出来は良い。

「それでも、再現というのは似せることしかできないものね。」

「なにか違う点でもあったかい?」

「あるわ。」

「何が違うんだい?」

一見何も変わらないように見えても決定的に違うもの。それは...

「お茶に気持ちがこもっていない。ただそれだけよ。でもそれはお茶を受け取る側にはすぐにわかるもの。」

「ほう、お茶に気持ちを込める、と」

「お茶は人の心を表すのよ。ただ淹れただけのお茶と、気持ちを込めて淹れたお茶。味や見た目は一緒でもその感じ方は変わってくる。その点彼女のお茶には程遠いわ。」

「なるほどねぇ。」

そんな話を進めながら朝食を済ませる。

「さて朝食も済んだことだし、私はもう行くわ。」

「おや、もう行ってしまうのかい?」

「ええ、昨日も言ったと思うけど私には理想がある。それを叶えるためにこんなところでゆっくりしている暇はないの。」

「そうかい。なら行くといい。くれぐれも旅の途中は気を付けて、ね。」

「ええ、そうするわ。それじゃあさようなら。」

そう言ってグリムをを残したまま部屋をでる。

廊下に出ると隣にも部屋があった。

調律師の部屋かと思ってドアに書いてある名前を見る。

書かれていた文字は...

「メイジー・ブランシェット...?」

この名前には憶えがある。

前にあった「赤ずきん」の名前だ。

ありえなくはない話かもしれないが流石に信じがたい。

あんな狂った子でも調律師になれるというのだろうか。

「いや...まさかあの子が...ね。」

何かの冗談だろうと思いながら。図書館の出口に向かい。外へ出る。

そしてまた森の中へ足を踏み入れていった。



二節「活気の失われた城下町」


図書館を離れてから数十分ぐらいたった時のこと。

私はとある物語の城下町にたどり着いていた。

しかしこの城下町の活気は失われており、人々は暗い顔をしている。

城下町に入る前、この町の近くに落ちていた腐りきった人間の死体見つけていたがそれと何か関係があるのだろうか。

もしそうならば流行病か何かだろうか。

しかし町の人々は病に苦しんでいそうな様子はない。

だとしたら何が?

考えていても何も思いつかない。

直接町の人に聞く方が早いか。

そう思い近くにいた老人に声をかける。

「あの私は旅のものですが、この町で何かあったのでしょうか?」

「姫様が、姫様が死んでしまったのだ。」

「姫様?」

「ああ、シンデレラ姫が死んでしまった。」

シンデレラ。

童話の主役だ。

もともとは灰被りと呼ばれていた少女だが、ある晩にかけられた魔法で舞踏会に行き王子に好意を寄せられたという。

ということはここはシンデレラの世界なのか。

しかし「主役」はもう死んでいる。

「どうして死んでしまったのですか?」

「殺されたのだ。」

殺された。

この世界の中の誰かに殺されたか、ほかの主役に殺されたかのどちらかだろう。

だがこの町の雰囲気からするにおそらく後者だろう。

だとすればこの世界に他にも「主役」が来ているということになる。

「優しい心を持った姫じゃったのにどうしてこんなことに。」

「あの、誰に殺されたかは分からないんですか?」

それが分かればここに来た「主役」が分かる。

こんなことをする「主役」だ。

おそらく私にとっても邪魔になるだろう。

だとすれば早めに消しても損はない。

「良ければ私が敵討ちに行ってきます。」

「おぉ!それは本当か!」

「はい、こんな町のことを思う姫を殺すような奴は許せません。ぜひ私が敵討ちに。」

そんなことを言うが本当はその犯人を私が殺したいだけ。

ただ町民と利害が一致しているなら問題はないだろう。

「姫を殺した少女は『白雪』と名乗っておった。」

「『白雪』ですね。」

白雪。おそらく白雪姫のことだろう。

「あの少女は触れた生き物を腐らせる毒を塗った弓を持っておった。おそらくあれを受ければ死ぬじゃろう。」

なるほど彼女の持つ武器は毒弓か。

武器の情報まで手に入るとはなかなかいい収穫だ。

「分かりました、気を付けます。」

「少女はむこうの方に歩いて行った。」

そう言って老人は私が来た方と反対側の森を指さす。

「向こうの森ですね。それでは行った来ます。」

「あぁ、気を付けるんじゃぞ。」

老人の言葉を聞き流しつつ森へ向かう。

さぁ殺しの時間だ。



三節「腐った自尊心と腐らせる毒」


「見つけたわ白雪姫。」

「あら?誰かしら?こんな醜い少女は知らないはずだけれど。」

「そうそれが今の貴方なのね。」

白雪姫。

自分の美しさを魔女に恨まれに毒リンゴよって殺された姫。

ただそれはのどに引っかかっていただけで衝撃によってリンゴが外れ生き返ったという。

「かつては自分の美しさを恨まれていたのに、今じゃその逆。自分よりうつくしいと言われている女を殺すことを理想としている。それじゃああなたを殺そうとしていた魔女と同じじゃないかしら?」

「何が言いたいのかしら?」

目を赤くしながらその少女は言う

「そうね、一言でいえば憐れで醜いということよ。」

「私が憐れ?醜いですって...?」

「ええ、そう言ったのよ。」

「許さない...そんなの...許さない!」

少女はさらに目を赤くして叫ぶ。

「私は世界で一番美しいの!それを醜いだなんて絶対に許さないわ!」

「もとより許されるつもりなんてないわ。貴女を殺しに来たんだから。」

「死ぬのは貴女の方よ!私を侮辱したことを後悔しなさい!」

そう言って少女は弓を構え矢を放つ。

とっさに避けて後ろを確認する。

矢の刺さった木はそこから腐食していく。

これが彼女の持つ弓の毒か。

「貴女もその毒で腐らせてあげる!」

少女はもう一度は弓を構える。

「できるものならやって見なさい。」

私も「狂気」を発動し剣を抜く。

「そんな弓一発も当たらずに貴女を殺してあげるわ!」

そうして彼女との距離を詰めようとする。

遠距離武器が相手だと距離があるとこちらが不利だ。

だが接近戦に持ち込んだ方がこちらが有利になる。

それを分かっているからか彼女もなるべく距離を保ちながら弓を放ってくる。

避けながらではあまり距離を縮めることはできない。

かといって無理に近づこうとすれば矢に当たる可能性がある。

「さっきから避けてばっかじゃない。攻撃するつもりはないの?」

向こうは煽ってくる。

「そっちだってまだ一発もかすりもしなさそうだけど当てる気はあるのかしら?」

こちらも煽り返す。

「言ってなさい。そっちが避けるのに体力を使っていればいずれ疲弊する。そうなれば貴女の動きは鈍り私の矢が当たる。このまま続けても貴女に勝ち目はないわよ。」

確かにその通りではある。

避けているだけではいずれ疲弊する。

だから急速に距離を詰める方法が必要だ。

「貴女に近づけなければ私は勝てない。でももし近づくことができたら?」

「私は貴女に向けて弓を撃ち続けているのよ。そんなことできるわけないでしょう?」

「それはどうかしらね。」

そう言いながら左手の剣を相手に向けて投げる。

白雪姫の注意は自然と剣へ集中する。

もう彼女の視界に私はいない。

「そんな剣を投げたところで私には当たら...。っ!?」

「もともと当てるつもりなんてないわ。貴女に近づければそれでいい。」

そう彼女の集中が私から離れたことにより私に矢は飛んでこない。

そうなれば接近することなど容易になる。

「そろそろ終わりにしましょう。あまり長いと疲れるのよ。」

そして彼女の足を深めに斬る。

彼女はもう動けない。

「どうかしら、私が考えた貴女の死に方。足を斬られ動けなくなり傷口から大量の血を流して失血死する。醜い貴女にお似合いな死にざまだと思うのだけれど。」

白雪姫は黙ったまま下を向いている。

「それじゃあ私は貴女が死ぬことを町に伝えてくるわ。」

そう言って歩き出した時だった。

「貴女も道ずれにする!」

そう言いながら彼女は矢を放つ。

矢はまっすぐこちらに飛んでくる。

だが、いまさらそんな矢に当たるわけがないだろう。

「気が変わったわ。」

私は歩みを止め白雪姫に近づく。

「今ここで傷だらけにしてあげるわ。そっちの方が醜いあなたにはお似合いね。」

そして彼女を何度も切りつける。

彼女が大量の血を流し動かなくなるまで。



四節「死亡報告」


白雪姫の返り血を浴びたまま町に戻る。

彼女の死体は置いてきたため彼女の死を証明するならこちらの方がいいだろう。

まぁ単に返り血を落とすのが面倒くさいというのもあるが。

「おぉ旅人さん戻られましたか。」

さっきの老人が声をかけてくる

「はい。敵討ちもしっかり果たしてきました。彼女の死体は森の中に置いてきましたが。」

「おい、みんな聞いてくれ。旅人が姫様の敵を討ってくださったぞ」

本当か?などと声を上げる町民。

だが私の返り血を見てすぐにそれを信じる。

たちまち町民は私を囲み繰り返し敵討ちの礼を述べてくる。

悪い気はしなかったが人の死を大勢の人が喜んでいる。

この状況は流石にいかがなものかと思った。

だがそれほどに白雪姫はこの町の人々いやこの国全体から恨まれていたのだろう。

「旅人さん。このことを王宮の方に伝えてきます。そうすれば今夜は相応のもてなしをしてもらえるはずです。今夜はゆっくりしていってください」

老人はそう言う。

だが私にゆっくりしている暇はない。

王宮のもてなしを受けるのも少々面倒だ。

それにこの世界でやることも終わった。

もう出て行ってもだろう。

「いえ、私も急いでいるのでお気持ちだけ受け取っておきます。」

「そうですか...」

老人は少し残念そうな顔をした。

「それでは旅人さんの目的が果たされたときにまた戻ってきたください。その時にまたもてなしをしてもらいましょう。」

「はい、お願いします。」

「では旅人さんお気をつけて。」

そうして町を後にする。

また新たな場所を目指して。

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