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Crazy Fairy Tales  作者: Leica
Side of Alice
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第四章「管理者の集う大図書館」

一節「物語の外の建物」


ヘンゼルとグレーテルを殺した世界を出てからしばらく歩いていた時のこと。

まだ新しい世界に入っていないのにも関わらず、遠くに見えている。

基本的に世界と世界の境界では遠くを見ようとすれば霧がかっていて何も見えないはずだが、今はくっきりと遠くに大きな建物が見えている。

もしかしたら他の世界に入ってるのかもしれないがそんな感覚は一切なかったためおそらくないだろう。

だとすればあの建物は一体何なのだろうか。

この世界には物語以外に何かほかの何かがあるのだろうか。

だとすればそれは一体何なのか。

考えれば考えるほど分からなくなる。

しかし物語の中にない建物なのであればこの世界についてや物語についてなど、現在謎であることについて知ることができるかもしれない。

その可能性があるのであれば寄ってみても良いかもしれない。

まだ距離はあるが次の目的地はあそこにするとしよう。

そして歩みを進める。

そうして一時間ほどたった頃。

ようやく建物にたどり着く。

遠くで見ても大きいと感じたが間近で見ると余計に大きく感じる。

私の住んでいた屋敷の十倍、いやそれ以上かもしれない。

私の屋敷もそれほど小さくはなくむしろ大きいくらいだった。

しかしこの建物はそんな屋敷も比べ物にならないほど大きい。

中に何があるのか全く見当もつかないままだが、何故だかこの世界については知れる気がした。

少しの期待と不安を抱えながらその建物の戸を開ける。

中に入って見たものは大量の本だった。

どうやらここは図書館のようだ。

それに中には職員らしき人もいた。

何を記した本があるのか、それを知るためにも聞いておいた方がいいだろう。

そうして職員に話しかけようとした時だった。

「アリス・リデル様ですね。お待ちしておりました。」

その言葉を聞いて私は困惑する。

どうして私の名前を知っている?

私を待っていた?

訳が分からない。

以前にここに来たこともないはず。

それなのになぜ私を知っているのか。

この建物は私が思っていたよりもずっと謎めいたものものだった。

「こちらへどうぞ。」

私が疑問を解消しようとしたところで職員が言葉を続ける。

私は困惑したまま職員についていくことしかできなかった。



二節「アリス・リデルの部屋」


「こちらです。」

職員についていくと一つの部屋に案内された。

扉には「アリス・リデル」と書かれている。

どうやらここは私の部屋らしい。

来たこともないのに部屋まである。

もう私には理解ができない。

中に入ると少し広めの部屋が私を迎える。

ベッド、デスク、ティーセット、大量の本が入った本棚などのほかに生活する上で最低限必要なものはそろっているようだった。

「ごゆっくりどうぞ。」

職員にそう言われる。

「あの。」

流石に私の中の疑問を解消してから落ち着きたい。

そう思い職員に声をかける。

「どうかしましたか?」

「聞きたいことがあるのですが。」

「はい、何なりと。」

「ここは一体どんな場所なんですか?どうして私のことを知っているのですか?どうして私の部屋まで用意されているのですか?」

職員が少しの間黙る。

一度に疑問をぶつけすぎたかもしれない。

しかし職員は口を開いた。

「申し訳ありませんが私からお話しできることはありません。後ほどグリム様がいらっしゃる予定なのでその時にもう一度質問してみてくださいませ。では、ごゆっくり。」

そう言って職員は出て行ってしまう。

何も聞けないままか。

しかしグリムという名前。

どこかで聞いたことあるような、懐かしいような気がする。

まぁ気のせいだろう。

それよりこの部屋の本でも読んでみよう。

何か役に立つことが載っているかもしれない。

そう思い本棚を眺める。

いろいろな本があるようだが一体何の本なのだろうと思っていると一冊の本に目が止まる。

「不思議の国のアリス...」

私の物語だ。

その横にも「赤ずきん」や「ヘンゼルとグレーテル」と知っている名前がある。

おそらくここにある本は童話などの物語だろう。

だとすれば他にある「白雪姫」や「人魚姫」なども物語でありこの世界にも存在しているのだろう。

事前に敵の情報を得られるのであればいいに越したことは無い。

読んでおく価値はあるだろう。

そう思いながらいくつかの本を手に取り読み始める。

参考になることがあればいいが。



三節「作者であり管理者であり観測者」


しばらく本を読んでいた時、急にドアの開く音と知らない男の声がした。

「やぁ、読書の方は順調かい?」

「グリム。ようやく来たのね。」

「おや?僕のことを待っていたのかい?」

「えぇ、待っていたわ。あなたに聞きたいことが山ほどあるのよ。」

「ほう、なんだい?」

「ここは一体何なのか、なぜ私を知っているのか、なぜ私の部屋まであるのか。その三つよ。」

自分の疑問を単刀直入に伝える。

「いきなり三つも聞くのかい?全く困った子だ。」

「答えなさい、グリム。」

「まぁそう焦らなくてもいいじゃやないか。」

「私にも焦る理由があるのよ。早くして。」

「全く...じゃあまず一つ目のここが何かだね。ここは管理者の大図書館。物語の管理、観測を行っているんだ。主に僕たち作者が観測をして異常があれば調律師に世界の均衡を保ってもらっている。」

「なら私を知っていたのは私の物語の作者が貴方で観測をしていたからということ?」

「そういうことになるね。」

なるほど作者か。

おそらくなつかしさの原因はそれだろう。

「今ので二つ目についての回答もできただろうから。三つ目に行こう。三つ目のなぜ君の部屋があるかだがそれは君がここに来ることが分かっていたからさ。」

「来ることが分かっていても部屋まで作る必要はないんじゃないかしら。」

「いや、必要だ。」

「それはなぜ?」

「それは君に調律師としての素質があるからさ。」

調律師?私が?

「まず、調律師について説明しておこう。調律師はその名の通り物語の調律を行う者のことを指す。」

「物語の調律?」

「そうだ。詳しく言うなら物語の進行が用意されている話から大きくそれた場合や物語自体が崩壊し始めたときにそれを直すことだ。」

「でもどうして私にその調律師の素質があるのかしら?」

「それは君が『元主役』でありこの世界の『終焉』を起こす原因になりかねないからだ。」

「終焉?」

「まだ君は知らなくていいことだ。」

そんなに隠す必要があるのならきっとそれほどに大きなことなのだろう。

それに「終焉」というくらいだ。この世界を破滅に追い込むようなことなのだろう。

私がそんなものを引き起こす原因になりかねないという。

自覚は無いが注意はしておくべきか。

「それでどうだい?調律師になる気はないかい?」

グリムが私に問う。

しかし私にはやるべきことがある。

「悪いけれど断るわ。私の理想を叶えるために調律師として働いてる暇は無いの。」

「そうか。残念だ。だが気が変わったら声をかけてくれ。その時は歓迎しよう。」

「多分そんなことは無いと思うけれどそんな暇があるなら待ってればいいわ。」

「じゃあ待っているとしよう。それじゃあ僕にもそろそろ仕事があるから失礼するとしよう。またね、アリス。」

そういってグリムは部屋の外に出て行った。

私も読書に戻るとしよう。



四節「揺るがない決意」


そろそろ夜だ寝るとしよう。

いろいろな話を読んで他の「主役」についても知ることができた。

それにしても調律師か。

今は図書館でそれらしき人は見なかったがグリムの説明からするに「元主役」が調律師になっているのだろう。

だとすればこの先に会う機会もあるのだろうか。

グリムの口ぶりからするに私の邪魔をすることは無いだろうからおそらく敵対はしないだろう。

ならば関係ない。

私は私の理想のために旅をする。

それがもし「終焉」を招くことになったとしてもすべて消えるのであれば関係ない。

私の努力も無駄にはなるが私が生きていないのであれば私の不思議の国もこの世界には必要ないだろう。

それならば私からすれば旅の途中で死ぬ事と結果的には大差ない。

正直に言えば周りのことなんてどうでもいい。

私は私の理想さえ叶えばそれでいい。

私が何も失わない世界さえ作れればそれでいいのだ。

その過程で他の全員が死んでしまっても私にとっては気になることでもない。

ならば調律師になる必要もないだろう。

明日からまた旅の続きをするとしよう。

そのためにも今はしっかり寝ておくとしよう。

そうしてベッドの中で静かに目を閉じた。

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