第三章「お菓子売りの魔女狩り兄妹」
一節「お菓子の家」
メイジ―と別れてから30分程たったがまだ森以外見えない。
他の世界に入った感覚はあったがこんなにも何もないことがあるのだろうか。
空も暗くなってきているのでそろそろ村でも町でもいいからたどり着きたいところだ。
まぁこんな森の中じゃあるとも思えないが。
しかし野宿をするにも食料がない。
先に食べ物を探そうか。
野宿をする場所を探すのはそれからにしよう。
視覚、嗅覚に集中して食べ物を探す。
木の実でも動物でもいい。何か食べ物はないだろうか。
そうしてしばらく歩くと甘い香りがしてきた。
お菓子のようなそんな匂い。
村でもあるのかもしれないと思い匂いのする方へ歩く。
しかし見たものは...
「これは...いったい...」
お菓子でできた家だった。
普通に考えれば変だがこの世界にはそういうものがあるのかもしれない。
話に聞いた不思議の国にも変なものがあったと聞いた。
それに今の状況から考えても好都合だ。
食料と休憩場所の二つが同時に手に入った。
これなら今夜は乗り切れるだろう。
しかし警戒なしに近づくのはまずいか。
これほど変なものだ。「主役」が関係していてはおかしくはないだろう。
家に近づき中を確認する。
中に人は見当たらない。
万が一外から見えない位置に敵がいたことも考えて戦う覚悟だけはしておこう。
そして中に入る。
誰もいない。
ひとまず安心できる場所は手に入れた。
今日はここで夜を明かすとしよう。
それにしてもこの家の素材のお菓子は食べれるのだろうか。
ぱっと見は普通のお菓子のようにも見えるが本当に食べても大丈夫なのか?
しかし私に帰るところがあるわけでもない。
餓死するよりはこのお菓子のせいで死んだ方がいいか。
そう思いながら壁になっていたクッキーを口にする。
甘くておいしい。
体にも異常はない。
これなら大丈夫だろう。
空腹を感じなくなるまでお菓子を食べて今日はもう寝るとしよう。
それからしばらくお菓子を食べその後家の床に横になり眠りについた。
二節「お菓子売りの兄妹の噂」
ふと目が覚める。
もう朝か。
窓から差し込む光が眩しい。
ひとまず体を起こし周りを確認する。
特に異常はない。
そろそろ外に出て村でも探すとしよう。
早くこの世界の情報を手に入れたいところだ。
家を出てまた森を歩き始める。
早く村に着くといいのだが。
しばらく歩くと森の中に道を見つけた。
その道に沿って歩いていくと村を見つけた。
ようやくこれで情報を手に入れられる。
この世界のことについて。「主役」と思われる人物についてなどを聞いて回りたいところだが。
そんなことを考えつつ村人の話に耳を傾ける。
「そろそろお菓子売りの兄妹が戻ってくるらしいぞ。」
「本当に?あの子たちは旅に出ているんじゃなかったの?」
「何やらこの村に用事を思い出したんだとよ。」
「そう。それならまたあの子たちのお菓子が食べれるのね。」
旅に出ているお菓子売りの兄妹。
昨日泊まったお菓子の家のこともある。
「主役」である可能性もあるだろう。
一応詳しく聞いておこう。
「あの、すみません。」
「ん?どうしたお嬢ちゃん。この辺では見ない顔だが。」
「私はアリスといいます。今は旅の途中なのですが、お菓子売りの兄妹について知りたいんです。教えていただけないでしょうか?」
「ヘンゼルとグレーテルについてかい?いいよ教えてあげよう。二人は森の木こりのところの子供たちで今は旅に出ているんだ。何やらこの世界の魔女を全員殺すとか言ってたが。」
魔女を殺す、か。
なかなか恐ろしいことをいう兄妹だ。
「なにか魔女に恨みでもあるんでしょうか?」
「ああ。二人は昔お菓子の家で魔女に襲われたことがあってね。もう同じような被害を出さないためにも全世界の魔女を探しているんだと。」
ますます「主役」の疑いが深まる。
というよりその兄妹が「主役」とみて間違いないだろう。
「まぁ言っていることは怖いが心優しい兄妹だ。帰ってきたときはお菓子を買うといいだろう。」
「そうします。教えていただきありがとうございました。」
さて、情報は手に入った。
もし敵対された場合に村の中で騒動を起こす気にはならないので村に帰って来る前に接触するとしよう。
そう思いながら村を出た。
三節「魔女狩りの兄妹」
再び森に入り今度は兄妹を探す。
出来れば敵対したくはないが実際にどうなるかは分かったものじゃない。
そう思っていた時だった。
「おい。お前ここで何をしている。」
後ろから声がする。
「もしかしてあなたたちが噂の魔女狩りかしら?」
「質問に答えろ。ここで何をしている。」
全く敵意はもう少し隠してほしい。
「そうね、簡単に言えば貴方達を探していた、と言った所かしら」
「僕たちを?」
「貴方達は『元主役』なのでしょう?」
「それがどうした?」
「私も同じだから貴方達に用があったの。」
「お兄様、魔女の言うことなんて聞いてても意味が無いわ」
「そうだねグレーテル。早くこの魔女を狩ってしまおう。」
私が魔女?面白いことを言う。
「私は魔女でもなんでもないのだけれど。」
「どこがだ。多くの人の不幸の上に成り立つ幸福を得ようとしている者のどこが魔女じゃないんだ!」
なるほど。そういうことか。
「そう。それがあなたたちの理想なのね。なら仕方がない。」
私の理想を叶えるためにこの兄妹は邪魔だ。それならば。
「私の求める不思議の国に貴方達は必要なかったみたい。だからここで死んでもらうわ。」
「望むところだ!」
お互いに「狂気」を発動する。
さぁさっさと片付けてしまおう。
「行くぞ!」
ヘンゼルは大きなナイフの形をした大剣を、グレーテルは大きなフォークの形をした槍を持ってこちらに向かってくる
こちらも時計の針の双剣を出して応戦する。
「死ねぇ!」
ヘンゼルが大きく剣を振りかざしてくる。
とっさに防ぐが流石に剣の大きさが違い過ぎる。
正面から受け止めるの少し厳しいか。
態勢を崩したところにグレーテルが攻撃してくる。
何とか避けれてはいるがこのままでは攻撃ができない。
「どうした攻撃してこないのか?」
向こうには煽る余裕まであるらしい。
しかし、攻撃ができていないのは事実だ。
しかも相手が二人である以上下手片方に攻撃すればもう片方に殺される。
隙を見て仕掛けるしかなさそうだ。
「来ないならどんどん行かせてもらうぞ!」
次の攻撃が来る。
今度は受け止めることは考えずに避けることだけに専念する。
ヘンゼルの攻撃を避ければすぐにグレーテルの攻撃が来る。
グレーテルは私がヘンゼルの攻撃を回避した先を読んで攻撃してくる。
避けることは容易ではないがタイミングはさっきの攻撃と一緒な気がする。
ならば。
「どうしたのかしら全く当たらないけれど。」
「うるさい!」
ヘンゼルを挑発する。
むきになったヘンゼルはすぐさま攻撃してくる。
しかしそれはグレーテルとの連携を崩すきっかけとなる。
ヘンゼルの攻撃を避けグレーテルの方を確認する。
やはりグレーテルは遅れている。
「そこっ!」
グレーテルの攻撃をよけつつ胸部をめがけて短針を投げる。
「かはっ...」
投げた剣はグレーテルの心臓を突き刺し行動不能にする。
「グレーテルっ!」
「あら、よそ見してていいのかしら?」
「っ!?」
動揺したヘンゼルの背後から胸部をめがけて剣を突き立てる。
「ぐっ...!」
ヘンゼルはその場に倒れ伏す。
「残念だけどあなたの負けよ。さようなら。」
大量の血を流し兄妹は動かなくなる。
これで邪魔者は排除した。
四節「戦いの後」
ヘンゼルとグレーテルを殺した。
返り血も浴びたことだしもう村には戻れないだろうからこのまま次の世界に向かうとしよう。
ただ服は洗いたい。
川でも探して服を洗ってから行くとしよう
そう思い森の奥に歩き出す
あまり時間もたたないうちに川は見つかった。
周りに人もいなさそうだし服も洗ってしまおう。
長いこと風呂にも入っていないから軽く水浴びもしておこうか。
そう思いながら川へ入る。
しばらく洗濯と水浴びをした後焚火を作って体と服を乾かす。
さて今回のことをまとめようか。
私の予想通り敵対する「主役」もいるということは確認できた。
そして「狂気」があれば他の「主役」にも対抗できることも確認できた。
しかし今回が上手くいっただけであって次も上手くいくとは限らないだろう。
相手に対して最善の策を瞬時に考え実行する。
この能力が次も必要になるだろう。
とりあえず今は体を休めて明日に備えよう。
そんなことを考えながら眠りにつく。
また明日から歩きだすとしよう。