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Crazy Fairy Tales  作者: Leica
Side of Alice
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第一章「全てを失った少女の新たな旅」

一節「知覚」


目が覚めると私はここにいた。

いつもの寝室のはずなのに何かが違う。

しかしこの部屋からは何の違和感も感じない。

だとすれば違うのは私自身だろうか。もしくはこの世界が。

分からない。何が変わったのか、何が変わってしまったのか。

そんなことを考えていたらドアの外から声がした。

「アリスお嬢様、朝食の準備ができました。」

「分かったわ。すぐに行く。」

私はこの世界に違和感を抱きながら部屋を後にした。


「お嬢様あまり顔色がよろしくないようですが。」

朝食の途中、不意にそんな言葉をかけられる。

さっきのことで悩みすぎていただろうか。

「そうかしら。私はいつも通りだけれど。」

「いえ、何か悩み事をされている様に見えます。」

さすがは私専属のメイド、何もかもお見通しだ

「ねぇシルヴィア...」

話そうとした言葉は続かない。本当にこの事を言ってもいいのだろうか?

「いや、やっぱり何でもないわ。」

私は何故だか話すべきではないと感じた。

「そうですか...」

少し困ったような顔をしてからシルヴィアは続ける。

「私で良ければいつでも相談に乗りますよ。」

「そう、ありがとう。」

そんな会話をしつつ朝食を済ます。

「部屋に戻って続きを考えよう。」

小さくそう呟いて私は部屋に戻ることにした。


部屋に戻りもう一度考える。

この場所に違和感は無い。

しかし私の中の違和感は消えない。

私は知らないうちに何かを失ったのだろうか?

だとすれば何を?

私が気づかない内に持っていて、今失ったもの。

それは何だろうか?

考えても何も思いつかない。

そういえばシルヴィアはいつも通りな様子で何の違和感も感じていそうになかった。

環境の変化に敏感な彼女が何も感じていない?

だとすれば変化は私の中だけにある。

他の誰もが持っていなくて、私だけが持っていたもの。

長い思考の末私の中に一つの答えが浮かんだ。

「そう。そういうことだったのね。」

この世界は作られた「物語」の一つ。

そして今日、私は「主役」という役職を失った。



二節「狂気と理想の発現」


答えにたどり着いた直後のこと。

「きゃあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

私の耳に届いたのはシルヴィアの悲鳴だった。

「急いで彼女のところへ!」

声の聞こえた方へ走る。

そしてたどり着いた場所で見たものは。

「――っ!?」

血だらけになった彼女の姿だった。

「シルヴィア!」

彼女のもとへ駆け寄る。

「シルヴィア!しっかりしてシルヴィア!」

「...お嬢...様...?」

「そうよ!あなたの主人のアリスよ!お願いだから目を開けて!」

目を瞑ったままシルヴィアは小さな声で言った。

「お...嬢様...逃げ...て...」

その直後背後から声がした。

「お前で最後だ!」

知らない男の声が近づいてくる。私の体は動かない。

「何だ怖くて動けないのかぁ?」

「...さない」

「あん?」

「許さない!!絶対に!!」

その瞬間私の中で何かが生じた。

体の中で何かが燃えるような、そんな感覚だった。

「な、なんだ!?」

「殺す!!お前は絶対に殺す!!」

そう言って立ち上がった私の目は赤く染まり、両手には時計の針の様な剣を握っていた。


やがて気づくと目の前には男の死体があり私は全身に返り血を浴びていた。

その後私は屋敷の中を見て回った。

しかしあるのは死体だけ。生き残っているものは誰一人居なかった。

私は自分以外の全てを失った。

屋敷の住人も専属メイドのシルヴィアも自分にあったはずの役職でさえも。

代わりに私は力を手に入れた。

自分の理想を叶えるために十分な力を。

そして私は思った。「この世界の全てを私の思うがままにしよう」と。

そうすればもう何も失わないと思ったから。

こうして私は「全ての世界を不思議の国へ変えること」を理想にした。



三節「失われた境界線を越え新たな場所へ」


どうやら私が「主役」という役職を失ったのには理由があったらしい。

それは物語の境界線が消えたこと。その原因までは分からないが私が主役だった物語とは違う物語が繋がっている。

これは私にとって不幸であり好都合であった。

まず不幸という観点では世界の規模が広がったこと。これにより私が世界の全てを手に入れるための時間が長くなってしまった。

一言でいえば面倒なことが増えたと言えるだろう。

だが、世界の種類が増えたという点では好都合だろう。なぜなら私の作る不思議の国で起こせる事象が増えるからだ。

広い世界で、私の望むことのほとんどが起こせ、支配者である私は何も失わない。

これ以上に素晴らしいことがあるだろうか。

こんな素晴らしい世界を作ろうと思わない方がおかしい。

しかしそんな世界を何も手に入るはずがない。

この世界を手に入れるには全世界を回り邪魔なものを消さなければならない。

少々面倒ではあるが私の不思議の国を作るには仕方のないことだ。

私はひとまずこの物語から出てみることにした。

「主役」であれば許されないことだが、今の私は「主役」ではない。

小さな殻を破り新たな場所へ。自分の理想を胸に私は「不思議の国のアリス」を出て行った。

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