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第八話「PVを作ろう! part2」


「帰宅したしユアルすっか……」


 あれから授業中、下校中、とずっとユアルの紹介文を考えていたがいまいちしっくりくるのが思いつかなかった。

 あの虚無がインスピレーションを刺激できるとは思えないが、他のユアルプレイヤーとの会話なら刺激になるかもしれない。


 俺はそんな事を考えながら、VRマシンを起動し、ユアルのマルチプレイを開始した。





「……草原か」


 おそらく森MODは初期のものしか入っていないのだろう。

 俺はあの凶悪な敵モンスターである緑男を拝まずに済んだことに安堵しつつ、少し離れた場所にできている人だかりの方へ向かった。


「王手」


 ドドン! とどこからともなく和太鼓の音が響く。

 見れば、くろりんと眼鏡をかけた鋭い目の黒髪の男が将棋盤を挟んで睨みあっていた。

 どうやらこの人だかりの目的は二人の対局の観戦らしい。


「ぐ、むむむ……」


 くろりんの人形のような美少女フェイスが苦悶に歪む。


「……まいりました」


 そしてペコリと頭を下げた。


 わぁあああー! という歓声と共に、芯の通った低音の声で「勝者、しょうぎマン!」。


 ……将棋マンさん!?


「いやー、はっはっは。自信あったんじゃがの! あっさり負けてしまったわい!」


「いえいえ。くろりんさんもなかなかのものでしたよ」


 先ほどの鋭い顔つきから一転、ほがらかな笑みを浮かべた将棋マン。

 二人はお互いに握手っぽいなんかヌルヌルした動作をした後に、席を立った。


「おや、新人さん」


 将棋マンが俺に気付きニコリと笑いかけてきた。


「あれ、俺のこと知ってるんですか」


「勿論。ここでは普通のアバターの人は目立つからね」


 普通とはいったい……

 そんな哲学的問いが脳裏をよぎったが、気にするだけ無駄なのだろう。


「将棋MOD、どうかな。今回のアップデートは結構自信あるんだけど」


 ふむ。

 どう、と言われれば全体的に高評価と言わざるを得ない。

 王手をかけた時や試合開始、終了の演出も良いし。

 AIとの対局をする際、対面にいる白マネキンの顔がカシャカシャと音を立てて切り替わり「上級」とか豪快な筆のタッチの字が浮かび上がる演出も普通にワクワクさせられる。

 あと負けたときにAIが一瞬悩む素振りを見せ、悔しげに頭を下げるあの動作もなかなか良い。かなり気分良くなれる。


 最初こそ俺はスマホアプリで出せや派だったが、アレはVR空間でやってこその演出のニクさだった。

 つまり、何が言いたいかというと――


「普通にVRゲームで出しませんかアレ」


 と、まぁそういうことになる。


「あはは。確かにそうかもね」


 将棋マンが曖昧に笑う。

 そうかも、ってかそうだろ。

 俺はもっと熱心に説得すべきか悩んだが、くろりんに肩をポンとされ思考を中止した。


「どうしました?」


「いや、新人君。君こそ用事があったんじゃないのかの?」


 おお。

 俺は素直に驚いた。

 伊達に歳を食っているわけではないらしい。


「実はそうなんですよ。今日、森マンと話しまして。ユアルの非公式PVを作らないかって話なんですけど」


「ああ……公式のやつは酷いからのぅ」


 その公式の酷いやつを見てなおこれをプレイしたという認識はあるのだろうか。

 

「ふむ。良いかもしれぬ。あまりに人が増えないと製作者達も萎えてしまうかもしれぬし」


 俺の新人君なんてあだ名が成り立つぐらいだ。よっぽど人が増えてないのだろう。


「で、いざ作るとなるとなかなかアイディアが湧かなくて、皆の意見が欲しいんです」


「ふむ」


 俺の言葉に、くろりん含むこの場に集まっていた数人が黙り込む。

 

 やがて何か思いついたのかポツポツと手があがりはじめた。えっ、挙手制?


「じゃあ、くろりんさん」


「わしがPVに出るのはどうじゃ。これは自慢なんじゃがわしは世界一可愛い」


「そうですか。他の方どうぞ。じゃあそこの……」


「なんでじゃ!?」


 俺はくろりんの意見を早急に却下し、他の挙手している人の中から唇が通常の八倍くらいのでかさのやつをあてた。


「滝MOD作ってそれ撮影するだけで映え方がかなり違うと思うんだよね」


 唇のでかさに対して意見がまともすぎる。

 

「……うーん。そうですね。水があるだけで映えるのは分かります。ただ、そうなると水MODみたいなのを誰かに作ってもらうしかなくなるんですよね」


 製作者にアホが多いので忘れがちだがMOD製作はそれなりにめんどくさい。補助ツールはいくらでもあるが、決して安くはないし……


「じゃあ俺やってみようか」


 まともな男性アバターが挙手しつつそう発言する。


「本当ですか」


「おう。ツールをセールで買っただけで使ったことなくてな。いじってみたいとは思ってた」


 ちょっと不安だ。

 不安、だが……


「じゃあお願いします」


「おうよ、任せとけ」


 そうなるとコイツは今日から水マンか。

 水マンはニカッと笑うと、さっそく作ってくると言ってログアウトしていった。


 その後、他の挙手をしていた人達にも意見をきいたが、大した差異もなく、あまり参考になるものはなかった。

 頑なにPVに自分を出そうとしてくるくろりんをあしらいつつ考える。


 水MODありきで考えるにしても要素が足りない。

 もう一つぐらい何か欲しいもんだが……

 クソッ、くろりんを出すしかねぇのか。


「ずいぶん悩んでるみたいだね」


「将棋マンさん……」


「僕が思うに、素直にくろりんさんを出しちゃった方が楽なんじゃないかな」


 ふむ。

 その言葉にしばらく考え込んでいた俺だったが、やがてある案が頭に浮かんだ。


「将棋マンさん。PV出てみませんか」


「えっ」


「背後に異形アバター集団を従える感じで」


「えっ」


「いやなかなか良いルックスしてますよ将棋マンさん。黒幕面って言うんですかね」


「えっ……?」


 締めにもってくるのにちょうどいいかもしれない。

 くろりんを出して期待させておきつつ、実は中身おっさんでした、というのはあまりに可哀想だが、将棋マンさんならそんな悲劇は起こらない。

 それに加えて、緑男の一件からして、敵モンスターに身内のアバターを使うことに忌避感がないどころか楽しんでるまでありそうだから、今後も身内のアバターをそのまま採用した敵モンスターは出るに違いないだろう。

 ならばあの異形どもをPVに敵モンスターっぽい感じで出しても詐欺にはならない。

 はい完璧。PV詐欺警察もにっこり。

 

「黒幕面って……僕近所でも優しい顔で有名なんだけど……」


「将棋マンさん!!! お願いしますッッッ!!!」


 俺がそう叫んで深く頭を下げる。

 将棋マンのうろたえる様が後頭部ごしに伝わってくる。

 了承するまで頭を上げないぞ俺は。


「いや、まぁ、うん……別に良いけど……」


 よっしゃ。俺はスッと頭を上げて将棋マンさんにニコリと笑った。

 

「言質取りましたよ! じゃ!」


「え、いややっぱちょっと待っ」


 俺は将棋マンさん黒幕風PVの構想を練るべくユアルからログアウトした。


 さて、忙しくなるな!


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― 新着の感想 ―
[一言] クソゲー感がいいですね。
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