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第七話「PVを作ろう! part1」


「人が増えない」


 昼休み、いつものゲーマー仲間……倉本、相田、榎木ら三人と席を囲んで飯を食っていると、倉本が唐突にそんな事を呟いた。

 数秒待って、他のゲーマーどもが何の反応も示さないのを見て俺が代表して口を開く。


「何が?」


「やっぱ公式のPVが酷いせいだと思うんだよね」


 こいつ人の話聞かねぇなマジで。

 俺が呆れて弁当を貪る作業に戻ったのを見てか、相田が代わりに口を開いた。


「なんのPVだよ」


「ユアル」


「ユアルってなんだ。てめぇの彼女か?」


「そのネタ二度目だよ」


 相田がぐむむと唸り黙る。

 そしてスマホからポコポコと入力音を出しつつ何やら検索し始めた。


「いやマナーモードにしろや」


 俺のツッコミに相田はふふんと笑ってから言った。


「自慢じゃねぇがラインの友達は家族とお前らしかいねぇから授業中に鳴る心配はない」


 ほんとに自慢じゃねぇ。


「相田がスマホをマナーモードにしない理由に一同驚愕! あまりの友人の少なさに涙が止まらない……」


「流れるようなようつべクソ動画構文やめろ」


「低評価:986件」


「なんでそこそこ炎上してんだよ」


 そうやって榎木と漫談してる内にユアルの公式PVとやらを見つけたらしく、もぞもぞとカバンからイヤホンを取り出し装着する。


「うお!? 急にすげぇ音圧……ソ連国歌かな?」


 とりあえず相田の反応でユアルはPV含めてガバガバらしい事は分かった。


「……」

 

 しばらくしてPVを見終わったらしい相田がイヤホンを外し、軽く息を吐いたあとに言った。


「クッソつまんなそう」


「だろ?」


 なぜ倉本がドヤ顔なのかがよく分からない。

 ただまぁPVからしてつまんなそうなら新規プレイヤーが増えないのは納得だ。

 そもそも俺としては別に増えなくていいだろというスタンスだし、いかにクソPVだろうと構わないんだが……

 どうやら倉本は違うらしく唇をとがらせ言葉を続けた。


「だから俺らがもっと面白そうなPVを作った方が良いと思うんだよな」


「ん? そういう言い方するって事は面白いのか? このゲーム」


「いやクッソつまんないよ」


 倉本の返答に狐につままれたような表情を浮かべる相田。

 うん。お前の気持ちは分かるよ。


「倉本、PVを面白そうにしてもゲームは面白くならないんだぞ?」


「知ってるよ。でもPVで面白くなりそうっていう希望を見せてからあの虚無ゲーをやらせることに意味があるんだって」


「詐欺じゃねぇか」


「チョウチンアンコウかな」


 相田と榎木に立て続けにディスられ涙目になった倉本が俺の方に向き直る。


「山っち~! 山っちなら分かるっしょ?」


 俺は口の中の米を咀嚼しゆっくりと飲み込んで口の中を空にしてから、言った。


「全然分からん」


「えぇー……そこを何とか、こう、さ」


 そこを何とかってなんだよ。


「今度ジュース一本おごるよ」


「しょうがねぇな」


 ちょっと待ってろ。

 俺はどうすればコイツの言いたい事を言語化できるか考えた。


「ちょろすぎ」


 俺が考え込んでいる隙に榎木がポツリと呟き相田と倉本がこくこくと頷く。なんだてめぇら。


「俺はちょろくねぇ。あー、っと、つまりだな、倉本はこう言いたいわけだ。ユアルの被害者をもっと増やしたい」


「やっぱチョウチンアンコウじゃん」


「山っち、もうちょい良い感じの言い回しで……」


 はあ?


「……虚無に抗う強靭な精神を持つ戦士を探すべくより多くの民草を選別にかける、とか」


「急にかっこいい感じにするの俺の厨二心が疼くからやめろ」


「お前ってやっぱ詐欺師向いてるよな」


 向いてねぇ。風評被害はやめろ。


「で、そうやって選別して見出した戦士をどうしたいんだよ」


 明らかに俺の方を向いて質問してきた相田だが、答えるのが面倒な俺は倉本に「てめぇが答えろ」という意味を込めた視線を送った。


「……あー、えっとね。俺らMOD製作班の仲間に加わってもらう」


「虚無に抗うってそういう事か」


 相田はようやく合点がいったというような表情を浮かべ、食い終わった弁当をもそもそと片付け始めた。


「あ、ちょっと待って。話はこっからでさ。相田と榎木なりの面白そうなPVってのを教えて欲しいんだよね」


 相田と榎木がほぼ同時に首を傾げる。


「うーん……」


「俺はかわいいキャラがいれば無条件にテンション上がる」


 榎木のそれはユアルじゃ無理だろう。

 ……いや無理ではないか。見た目だけは可愛い人がいる。いる、が……


「くろりんをPVに起用すればいけるかな」


「いやお前それはマジで詐欺だ。まずい」


 中身おっさんだぞ。


「え? 何? 可愛いキャラ出るの?」


 食いつくな榎木。


「いるよ」


「おい待てばか。ゲーム中に登場するわけじゃねぇよ。MOD製作班の一人だ」


「えー……じゃあいいや」


 じゃあいいのか。

 榎木はマジで興味をなくしたらしく、ささっと弁当を片付けて机の横のフックに吊るすと、ラノベを開いて読み始めた。


「じゃあ相田は?」


「あー……やっぱ壮大な感じと意味深なナレーションはテンション上がるかな」


「クソゲーにありがちじゃないかそれ」


「そうなんだけどさ。やっぱ厨二心揺さぶるのは強いって」


 なるほど。

 ちらりと横目で倉本を見ると、ふんふんと感心した様子で頷いていた。


「でも意味深なナレーションかぁ。文面とか考えられる人いたかな」


「横にいるだろ」


 倉本がそう相田に言われ、俺に期待の目を向けてくる。


「勘弁してくれ。何を言っても景品表示法違反になりそうで怖い」


「そこを何とか」


 無理だろ。

 だって虚無だぞ虚無。


「ジュース一本追加!」


「……」


 ふむ。


「貴方は、真の“零”を目撃する――」


「ちょっろ。てかこいつ虚無ゲーの言い換え上手すぎだろ」


「やっぱ詐欺師向いてるんすねぇ」


 ぶっとばすぞてめぇら。特に榎木。


「よし、じゃあ文面は山っち担当で!」


「……分かった」


 俺が渋々頷くと、倉本が満足そうな笑みを浮かべた。

 楽しそうで何よりだ。


「あ、そろそろ時間じゃね」


「せやな」


「ほんとだ。じゃあ山っち、授業中にでも文面考えといて!」


「はいはい」


 そんな言葉を交わしつつ各々の席へと戻る。


 さて、あの虚無ゲーの紹介文か。なかなかの難題だな……



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