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第五十六話「ほのぼのゲー路線を目指そう! part2」

 

 古今東西、人の心を安らかにする物ってのは決まってるんですわ。

 花。

 桜なんか良いんじゃないかと思ったんだけど、せっかくVRなんだからもっとこう……VRでしかあり得ないような花にしたいよな。


「桜に心を踊らせることもなく、ただ花粉に怨嗟を募らせるだけになったお前らに、植物との関わりを与えてやる」


 いつもとは逆。俺が壇上に立ち、虚無に入り浸るカスどもに高説を垂らしてやっている。

 返ってきた言葉はいずれも拾う価値のないものだったが、1つだけ聞き逃さないものがあった。


「別に花粉症じゃないけど」


 そうですか。


「いずれ花粉症MOD作ってあげるから待っててね。では、俺と森マンで作った……花を愛でるMODのお披露目会といくぜ!」

 

「誰かの失言のせいで邪悪の顕現が予約されなかった? 今」


 邪悪……? 不平等なこの世界を均す、崇高な行いなんですけど?


「このMODではいくつかの種子、そしてそれを成長させると生まれる花が実装される。まずはその辺のフィールドをうろついて種子を拾ってみよう!」


 おー、だのあー、だの呻き声を漏らしながら異形どもが散開していく。

 中にはくろりんの姿もあった。


 楽しんで欲しいなぁ。


「ヒ〜ヒッヒッヒ! 花を愛でるっヒ〜!」


 魔女みたいに垂れた長鼻のアバターは既に楽しんでそうだ。

 あんま語尾までヒッヒッヒな魔女いねぇだろ。


「なぁ、種ってこれ?」


 しばらく壇上で腕組みをして待っていると、見覚えのある髭面が馴れ馴れしく話しかけてきた。

 炭鉱マンだ。


「そうですが」


「地面に配置したら放置でいいの?」


「君は花に水をやらないタイプの人間なんだね。そうなんだ」


 炭鉱マンがぶつくさ言いながら水場へ向かう。

 そして、ユアルに水を汲む機能がないことに気付いて即座に戻ってくる。


「血、か? でもPVPができない状態でどうやって」


 野蛮なやつばっかで嫌になっちゃうね。


「しょうがねぇな。まず種子を置くだろ?」


 俺は炭鉱マンの隣に立ち、指導をしてやることにした。

 周りも植物の育て方が分からなかったのか、聞き耳をたてている様子だ。


 種子を配置する。

 そうすると土にスイッチが出てくるので押す。


「今の何? あまりにも人工物すぎる物が見えたんだけど」


「感謝の言葉を述べなさい」


「????」

 

 毎日感謝の言葉をかける。それが何よりの栄養なんですよ。


「感謝の言葉を述べなさい」


 炭鉱マンがうんざりしたような表情を浮かべた。


「あぁ、そういうね。えーっと、ありがとうありがとうありがとう」


「足りんなぁ、もっと」


 炭鉱マンが舌打ちをする。

 品のない男だ。


「ありがとうありがとうありがとうありがとうありがとうありがとうありがとうありがとうありがとうありがとうありが……っておわぁあああっ!!?」


 赤黒い茎がメキメキと伸びていく。

 やがて人のサイズまで成長した植物は、中心に人面を据えた花を咲かせた。

 

「アリガトウアリガトウアリガトウアリガトウアリガトウアリガトウアリガトウアリガトウアリガトウアリガトウアリガ……ッテオワァ‼︎」


「何何何何きもいきもいきもいきもい」


「ナニナニナニナニキモイキモイキモイキモイ」


 周囲を見渡せば、皆同じ花を咲かせている。

 排出率1番高いからな。残念賞だね。


「砂漠の呪詛師feat.Flowerちゃんです」


「何の何?」


 お、砂漠の呪詛師feat.Flowerがオウム返しをやめたな。

 そろそろか。来るぜ、花粉散布の時間だ。


「シュポッ」


 赤黒い煙が放出。

 周囲に蔓延する。



「クッッッッッッッッッサ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」


 残念賞なので香りもそれ相応だ。

 頑張ってガチャを繰り返してフローラルの香りの花を引き当てよう!


 俺はそっとログアウトした。



【ほのぼの系MOD品評スレ】



15:炭鉱マン


 品評対象:花を愛でるMOD

 

 しねしねしねしねしねしねしねしねしねしねしね


16:監督


 砂漠の呪詛師feat.Flower「シネシネシネシネシネシネシネシネシネシネ!w」

 

17:デスゲームマン


 この人煽りの引き出し何段あるんですか?


18:名無しの開拓者


 てかそんな名前だったんだ、あの公害


19:PVPマン


 感覚が五つあることに気付きやがったなこのVRテロリスト


20:監督


 いずれは第六感も破壊したい


21:名無しの開拓者


 もう破壊したいって言っちゃってるしな


22:くろりん


 監督、分かっていると思うが加害はレギュレーション違反じゃ


23:監督


 は?

 別に一定確率で良い感じの花も全然生まれるんですけど?

 お前らのガチャ運がゴミなのが悪いんですけど?


24:デスゲームマン


 あれそんなシステムだったんですか

 誰か他の花見ました?


25:名無しの開拓者


 俺割と臭い平気だから居座ってたけど全部同じ花だった


26:炭鉱マン


 どんなイカれた確率にしてんだテメー殺すぞ



 

27:森マン


 こめん普通に設定ミスってあれ排出率100%


28:監督


 へー

 らしいっす


29:名無しの開拓者


 シネシネシネシネシネシネシネシネシネシネ!!!!!!!!!!


30:炭鉱マン


 ほんまに殺したすぎて殺汁出てきた


31:名無しの開拓者


 きも




32:くろりん


 ……まぁ、情状酌量の余地もなしじゃな

 失格


33:監督

 

 カァーーーーーーーッッッッ!!!!!(涙)(涙)(涙)

 >>32


34:PVPマン


 おい


35:名無しの開拓者


 悲鳴パロ界隈きた!


36:炭鉱マン


 こいつあのクソ花に顔突っ込んだまんま天罰流さね?


37:監督


 カァーーーーーーーッッッッ!!!!!(嫌)(嫌)(嫌)

 >>36


38:名無しの開拓者


 ちいカァーーーーーーーッッッわだ


39:監督


 すげぇ、よくわかったなお前

 名を名乗れ


40:PVPマン


 本名ハラスメントやめなさいよ……





「皆様、椅子は受け取られましたでしょうか。ではわたくしの着席MODお披露目会を始めます」


 壇上の椅子野郎がお辞儀っぽい動作をする。

 当然、俺の目の前には椅子があった。

 何の変哲もない、学校でよく見る木製の椅子。


「あの椅子野郎って学生なんかな」


「話しかけんな死の花売り」


 髭面の男、炭鉱マンくんにつれない態度を取られてしまった。

 もう数十分も昔の出来事だろうが。水に流せよ。

 てかそのあだ名なに? そういう物騒な言葉を吐くから花もくっさくなるんじゃないの?


「あっあーーーーーッ!!!! ま、待ってください。着席は一斉にお願いしま、ァ!」


 壇上で椅子がガタガタしている。

 特に従う義理もないので俺はさっきから椅子に座っていた。

 VRとはいえ立ちっぱなしは何となく疲労した気分になるんだ。


「ハァ……ハァ……いいですか、まず椅子とは、何か……」


 なんか壇上で椅子がネチャネチャした語りを始めている。

 なんだかなぁ。俺は壇上に登った。


「ごめん、このままだとほのぼのMOD失格だけどどうする?」


「誰かこの狼藉者を壇上から追い出してくれませんか」


 異形どもに身体を掴まれ無理やり降ろされた。

 ふざけんな、ちょっと圧迫面接かまそうとしただけだろうが。


「着席。椅子と密着する形。それを愛するあまり——私はこうなってしまいました」


 椅子野郎が壇上でうだうだを語りを続けている。

 夏井先生がいたら全文バツつけて私は手遅れです、で伝わります!とキレているところだ。


「ほのぼのとは何か。それは、周囲の人と心を通わすこと」


 おっ、まともか?


「そのために皆様の前に椅子を用意したのです。そう、私と感覚を同期させた椅子を——」


 おっ、ダメそうか?


「私が引き伸ばされ、貴方達と心の芯で、通じ合う。これがほのぼの」


 特殊な性欲だろ。

 ほののだろ。


「ではそろそろ、ほのぼのタイムです。さぁ、椅子に座って。貴方を見せて——」


 なるほどね。

 俺は椅子に花を愛でるMODの種子を植え、ログアウトした。


【ほのぼの系MOD品評スレ】



42:名無しの開拓者


 品評対象:花を愛でるMOD


 想像を絶する苦痛 星5


43:炭鉱マン


 お前みたいな異常者が未だに名無しで通そうとしている事実に寒気がする

 

44:PVPマン


 この世のものとは思えない絶叫が聞こえて本当の本当に怖かった


45:デスゲームマン


 逆デスゲームって感じでした


46:名無しの開拓者


 逆デスゲーム(ゲームマスターが参加者全員から想像を絶する苦痛を受け、殺害される)


47:名無しの開拓者


 何が星5だよ

 あと椅子MODの批評を誰かやれよ


48:くろりん


 せんでいい

 失格じゃ


49:名無しの開拓者


 そ ら そ う よ


50:監督


 ほほw


51:炭鉱マン


 まぁこのクソボケ狼藉者に関しては、花を愛でるMOD入れっぱっていう隙を見せたこっちが悪いとしてもだな

 まずMODお披露目会で自分の特殊な欲求を満たそうとしないで欲しくてだな


52:名無しの開拓者


 クソ監督が諦められてる……


53:名無しの開拓者


 失格という結果は受け止めましょう


 しかし、私は皆さんと心を繋いだ

 その事実は、この背もたれに大切にしまっています


54:PVPマン


 お前が心繋いだの俺らじゃなくて砂漠の呪詛師feat.Flowerだろ


55:PVPマン


 あと背もたれにしまうとこなんか存在しねぇから


56:監督


 この名無し擬態型異常者を仕留め損なったのは本当に遺憾です


 そんじゃ次のほのぼのMOD披露会行こうや


57:炭鉱マン


 これあと何個あんの? 体力もたないんだけど

 無難に暴力にしとかん?

 やっぱ暴力が1番平和だわ


58:くろりん


 ダメじゃ

 次、ゆくぞ


 【ワールドへの招待リンク】

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― 新着の感想 ―
本当にあなたの書く掲示板は面白いな!
どいつもこいつもほのぼのする気が毛頭ないの民度出てる
クソ監が悪いのは言うまでもないけど、森マンが設定ミスってるだけなのでこれは情状酌量の余地が……あっても良い気はしなくもない。
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