第五十二話「選択は君次第だ」
「体力がさ、数値が飾りというか。回数制になっちゃってるんよな。防具作るべきだわ」
昼休み。榎木が唐突に発した言葉。
唐突なユアルの話題に脳の調整が間に合わない。
「なんだ? 意見か?」
「意見だろ」
そうか。
確かに防具の不在は俺も懸念していた。
石拾って木切ったら準最強装備の完成ってのはあまりにもゲームとして奥行きが無さすぎる。
「なんで急にユアルの話したん?」
倉本が真っ当な疑問を投げかけた。
そう、ソレだ。普通、人はユアルについて話さない。
「なんか山下がMOD作ったって聞いたから久々に起動したんだよ。MODの方はなんかダウンロードできなくなってたけど……」
モンスターMODのことか。悲しい事件だったぜ……。
俺は煮物をつつきながら軽く経緯を榎木に話してやることにした。
「俺の才能を恐れたカスどもに弾圧されたんだ。表現の自由の敗北だよ」
「はは」
乾いた笑いがひとつ。
わかるぜ。俺も表現の自由へ至るための壁の高さを思い知り、同じような笑いが漏れたもんだ。
「お前の激励、心に響いたぜ。さっそく防具を作ってみる」
「ごめん、どの部分が激励だった?」
「ご指導ご鞭撻、ほんま感謝」
「ダメだこいつ虚無から無限に声援を汲み上げてくる」
俺は弾圧に負けない!
ウオオオオオオオ!
「家帰った途端にやる気ないなったな」
VR機器を横に置いたまま床に寝そべる。
課題もあるしなぁ。
明日やればいいんじゃねぇか?
課題少なめの日にぐっと集中してやった方が良いと思う。
やっぱ他のタスクがあるとさ、雑念が混じるって言うか。
「はあ……」
あーダメダメ。こういう言い訳を脳内に並べ出したらダメなんだよ。
一旦手つけてみよう。一旦な。
俺は無理やり身体を起こしてツールを起動した。
「材質よな。2種類くらいは欲しい。最初は木の皮で作る感じにして……」
石材は無理があるか?
鉄も存在はしてるが精錬的な作業がまだ未実装なため存在しているだけだ。
はよ作れや。
そうなると……あー、アレがあったな。
2種類目はソレにしよう。
「ってことは着色で結構楽できるじゃん」
2度目にしてコツを掴んだかもしれない。
俺は黙々と作業を続ける。
1週間もあれば倉本の方の作業込みで良い感じのができるはずだ。
【MODの動作に関する報告及び質問総合スレ】
451:森マン
新規MODを追加しました!
【防具MOD】
3Dモデルはクソ監督が担当してます!
まだ2種類だけですが、随時追加予定です!
452:炭鉱マン
なんか最近見たなこの構成の文章
453:名無しの開拓者
ものづくりハマってるクソ監督くんかわいい
454:監督
もうしばらく触らんけどね
455:水マン
えっなんで
456:名無しの開拓者
うそ……モンスターMODの件で詰めすぎた?
457:PVPマン
詰めるだろアレは
反省しろや
458:監督
俺はさ、お前たちを罵倒するためにここにやってきたんだ
あまりにMODを作ることに傾倒すると、その本質を見失ってしまう
459:PVPマン
見失ってくれよ頼むから
460:くろりん
別にそんなつもりで呼んでない……
461:名無しの開拓者
草
462:デスゲームマン
そんなつもりじゃないらしいですが
463:監督
人に言われたからって意見を変えるのか?
俺がそう信じている限り、俺の役割は変わらない
どんなに止められても、本名を開示されても、電撃を受けても
俺は罵倒をやめない
これが俺の“存在証明”だから
464:名無しの開拓者
か、かっけぇ……
465:PVPマン
いや鯖主に言われたら意見変えろや
466:デスゲームマン
本名開示させられたみたいな空気やめてくれません?
貴方が勝手にやっただけですよね?
467:くろりん
そこまで誇りをもってやっておったのか……?
468:名無しの開拓者
折れないでくろりん
こいつそれっぽい応答を無限に生み出すAIみたいなもんだから
469:監督
あと誰もMODの感想言ってくれんしな
470:炭鉱マン
やっぱ拗ねてんじゃねーか
471:名無しの開拓者
ん、主題きたね
472:水マン
ごめん……
473:デスゲームマン
お披露目会って名目で強制体験が丸いですよやっぱ
474:PVPマン
言われてみればその手口多かったな
自覚してやってたのかよ
475:炭鉱マン
まぁ……防具MODで流石に悪さはできんか……
初手警戒は良くなかったか確かに
476:名無しの開拓者
ほなやって感想投げますか
477:くろりん
真っ先に注意できんかったわしの落ち度もあるの……
すまん、監督
許してやってくれ
478:監督
ああ、許すぜ
天罰を受けてくれたらな
で、天罰配信の日程なんだが
リアタイしやすい土日だと助かるな
何なら手足押さえるアシスタント役も全然やれるぜ!
479:名無しの開拓者
クソ監督の“存在証明”キターーーーーー!
480:PVPマン
ラノベのタイトルみたいなのやめろ
481:炭鉱マン
木製防具の見た目良さげで褒めようと思ったらとんでもない話題になってた
482:デスゲームマン
2種類目の防具の素材って新規ドロップですかね?
資材溜め込んだクラフト用のワールドで色々試したんですが出てこなくて……
あ、あと天罰配信の件、了解しました
483:くろりん
えっ
484:監督
くろりんさん
俺も苦しい
でも、ここでアンタを許したらこいつらはエアプでぎゃあぎゃあ騒いでも何のお咎めも無かった集団になっちまう
そういった行いがどんな結末を招くのか
それを強く示すことが必要なんだ
484:くろりん
それは……そうじゃの……?
485:名無しの開拓者
くろりん絶対そんなことないって
騙されないで
逃げて
486:炭鉱マン
あのすいません流石に老人が電撃うけて悶絶する姿は見たくないというか
仮にその人が老害だったとしても流石に罪悪感が勝るというか、普通に俺らの遊び場整備してくれてるくろりんが電撃ってのはなんかもう心臓が嫌な感じにバクバクするというか
487:名無しの開拓者
普通に俺らが雷撃じゃダメか……?
488:PVPマン
マジでそれ
くろりんは流石に死んじゃうって
489:森マン
気持ちわかるけどさー
代表者とはいえくろりんはさー
490:炭鉱マン
それな
天罰は俺らで負担するからくろりんは勘弁してやれや
491:くろりん
お、お前たち……
492:監督
お前らがそう言うのを、待っていました——
493:名無しの開拓者
お?
494:名無しの開拓者
お前の苦労を、ずっと見ていたぞ——
495:グローバルマン
ゴールデン・ディレクターね
496:炭鉱マン
お前、人の心が……?
497:監督
お前たちに思いやりの心があることはわかりました
その心があるのなら、次からMODを試しもせずぎゃあぎゃあと騒ぐなんて事はしないはず
くろりんへの天罰は止めましょう
思いやりの心を見せてくれたお前たち全員に、感謝を
そして
俺のワールドへの、招待を
498:名無しの開拓者
本 当 に よ く も や っ て く れ た な ?
499:PVPマン
終わった————
500:炭鉱マン
お前、人の心が……
501:デスゲームマン
人の罪悪感につけ込むその手腕、お見事です
502:名無しの開拓者
やられた、最悪すぎ
503:監督
デスゲームマンにも当然、感謝を伝えたい
ワールドに来てください
森マンはいろいろ手伝ってくれたので流石に申し訳ない
ワールドに来ないでください
504:PVPマン
自分で喋ってて矛盾があることに気付かん?
505:森マン
耐え〜
くろりん、一緒に見学行こ
506:くろりん
えぇ……?
507:監督
範囲攻撃だからやめた方が良いよ
508:炭鉱マン
語るに落ちてんじゃねーか
509:PVPマン
範囲攻撃食らわす気じゃねーか
510:監督
ごちゃごちゃうるせぇな
はやく俺の感謝の気持ち受け取りにこいや
殺すぞ
511:名無しの開拓者
お気持ちヤクザ
512:デスゲームマン
やれやれ、初めから気付くべきでした
クソ監督が本当に攻撃したい相手はくろりんなのか、それともぎゃあぎゃあ騒いだ当の本人達なのか——
さて、いざ禊
513:炭鉱マン
禊ソムリエきめぇマジで
最悪だわ
ゲボ吐いても問題ないように風呂場から全裸でVRダイブするから待ってろ
514:PVPマン
お前のがキモいわ
515:くろりん
これは……一件落着なのか……?
516:監督
ええ! 大団円ですよ!
くろりんと、己の命と、天秤にかけてくろりんを守った! これは美徳の勝利です!
あとそこの名無しの君!
匿名だろうが逃がさないぞ! 来なければ来る気になるまで個人攻撃するからよろしく!
517:水マン
抜かりないなぁほんと……
518:名無しの開拓者
既にギミック仕込んだワールド用意してる辺り、この“絵”を最初から描く気だったってワケなんだよね