第四十五話「ボス戦をしよう! part2」
相田との喧嘩から数日後。
学校での様子といえば、VRMMOの話題を出すたびに若干俺にジト目を向けてくる以上の禍根は残っておらず、実質和解したようなものではあった。あったが……。
こういう喉に刺さった魚の小骨は抜いておいた方が良い。
俺は正式な和解の機会を求めていた。
その準備のために今、俺はとあるワールドに入ろうとしている。
「なんで複数のアプリへのアクセス許可を求めてくるんだ?」
ボスMODがそこそこ形になったらしいデスゲームマンからの招待だ。
既にろくでもなさそうな雰囲気があるが、まぁいい。
俺は全てを受け入れ、ワールドへ入った。
視界が開ける。
景色はいつも通り。墜落した宇宙船に、草原と……奥に森。
先に入っていたらしい炭鉱マンに手招きされ宇宙船内へ入った。
「テストプレイへようこそ。哀れな実験体ども」
墜落宇宙船内にて、顔の皮膚感が異様に厚い男――デスゲームマンは高らかに宣言した。
こいつ見るたびアバター違ぇな。
哀れな実験体その1である俺はインベントリから入り口で拾った斧を取り出しデスゲームマンをキルした後、その2である炭鉱マンに話しかけた。
「ボス追加するMODつっても、どのレベルまで試作されてんだろうな。正直ダンジョンとセット感あるけど」
「人を殺した手で俺に触れるんじゃねぇ」
肩に回した腕がぬるりとした動作で振り払われる。悲しいぜ。
そんなやり取りをしている内に、デスゲームマンがリスポーンした。
「……? どうした、早く説明を始めろよ」
「説明して欲しいのはこっちなんですけどね」
何をだよ。こっちは実験体になる気満々で来てんだ。さっさと始めてくれ。
俺はそんな意を込めてデスゲームマンの足を踏んづけた。
「VRとは言え面と向かってここまでやられると感動しますね」
「早くMODの説明して俺らも感動させてくれや」
「うふふ。下等な実験動物どもが……説明を始めるから黙って聞いてろ」
「その悪口、クソ監督単体に絞れんかった? 流れ弾食らってんだけど」
デスゲームマンがあり得ない数の皺を発生させながら笑い、続ける。
「ギャハハ! 炭鉱マン! てめぇも例外なく下等なんだよ!」
「VR端末ってさ、本名登録してるじゃんか」
「本名晒しだけは勘弁してください。関係ないじゃないですか」
こいつ大晦日の時に端末に登録されてる本名情報抜きやがったな。ナイス。
それはそれとして話が進まないので俺は斧で炭鉱マンをキルした。
「で?」
「…………えー、ボスの湧く場所なんですが森に魔法陣が湧くようになっています」
なるほど。
そこからのデスゲームマンの話をまとめると、こうだ。
魔法陣の中心にボス、雷帝(仮称)が湧く。
その魔法陣の端を踏むと光り、雷帝が動き始める。
ランダム生成だが、予め近場に魔法陣が湧くワールドを見つけて再生成したワールドがここ。
なので今から剣だけクラフトして3人でテストプレイがてら攻略を始める。
「さて、質問は」
「ごめん、リスポーンしたら説明終わってたんだけど何?」
「質問です。裸に剣だけで勝てるような雑魚敵なんか? お前やる気あるんけ?」
「防具の概念がねぇだろまだ。しかも武器も緑の剣以外はノーマルの剣しかねぇ。つまり準最強装備3人なわけだ。それで勝てないのはお前らの大嫌いなクソゲーってやつなんじゃないんですか?」
うざ。反論ができなかったのでその辺で斧を振り回しながらじだんだを踏むことした。
ウッキー!
「ねぇどういうボスなん?」
「雷属性の魔術を使う。食らいすぎたヤツは……ハハッ」
「脳が沸騰するってさ」
「マ? 遺書かいてね〜。まぁいいか、早く行こうぜ」
デスゲームマンがため息をつきながら船外へ足を向けた。
とりあえずは剣のクラフト素材集めだな。
「平和ボケしたカスどもが。気絶を最後にしたのはいつだ? ま、もっとも気絶で済めば良い方だが」
脅しはいいから唸るようなボス戦期待してるぜ〜。
途中小競り合いを挟みつつ、俺達は装備を揃えて問題の魔法陣の前へ来ていた。
中心では、黄色いマントを纏い王冠を被ったミイラみてぇなのが空中体育座りをしている。
「大変だったな」
「今度からこのクソ監督とかいう利敵野郎ハブろうぜ」
「お前も同じだ、クソったれ。資源も集めず落とし穴ばっか作りやがって。脳みそも空洞まみれなのか?」
共同作業は俺達の絆を強固なものにしてくれた。負ける気がしねぇぜ。
「さて、踏めば開始なんだよな?」
「ああ」
「ちなみに足場を伸ばして起動させないまんまチクチクするのは?」
「天罰MODが起動する」
死ねや。キショ対策しやがって。
俺は起動していた建築モードを取り消す。
「炭鉱マン、行きまーす」
「あいよ」
そんな気の抜けた掛け声で、炭鉱マンが魔法陣を踏む。
フリーゲームでよく聞くような何かが起動するSEが流れ、魔法陣が紫に淡く光った。
「発光弱くね?」
「は〜あ、うるせーなコイツら。ご意見あざーす」
拗ねんなや。
「俺はこんくらいのが不気味で好きだけど。空が暗くなると嬉しいかもな」
「急に建設的な意見出すの脳がバグるんでやめてもらえますか」
雷帝が起動する。
バリバリとポテチの袋を開けたみたいなちゃちな音と共に足元から黄色の線が円状に広がっていく。
「ジャンプ回避ね」
バリバリバリ……はい、今。
そこそこVRアクションやってりゃ避けられる範囲の攻撃だ。
小手調べには良い感じだな。
「ドゥア!」
食らった馬鹿がいるな。
その後2連続ほど円状攻撃をかわしたあたりでボスが封印された時と同じ、空中体育座りに戻る。
……攻撃チャンスか?
「チッ、機会を逃したか」
ただ、まだ始まったばかりだ。
最初は様子見に徹しても良いだろう。
これで攻撃のクールタイムの間隔は分かった。殴れて2発ってとこか。
さぁ、次の攻撃は?
周囲を見渡す。あれ、炭鉱マンがいねぇな。
「おいデスゲームマン、炭鉱マンはどうした」
「彼は、雷帝の一撃を受けたんですよ?」
そうか。
雷帝の頭上に黄色い球が浮かんだ。
ドン、ドン、と轟が聞こえる。
「う、おッ!?」
デスゲームマンの構えから、何回か音がなったら発射されることを予想していた俺は寸でで回避に成功。
四度目の轟で、自分の居たところに雷撃が飛来する。かなりの速度で。
「ほう! 今のを避けるか。おい、なんだ、くっつくな」
「雷撃を、食らうとどうなる」
「さて」
フン。まぁてめぇに雷撃を擦り付けて確かめるとしよう。
そら、もうすぐ――
「――四度目の轟だッ!」
「では2人で食らいましょうか」
何だと。
唐突に抱き着いてきたデスゲームマン。まずい、拘束、避けられな……ッ!?
「ッッォオおおおお!!!?」
凄まじい圧迫感。
血管が締め上げられたような、その感覚と同時にヒートショックのような酩酊感が俺を襲い――。
「……はッ」
俺はVR機器との接続が切れた状態で目を覚ました。
気絶していたらしい。
「なんかメッセ来てんな」
送り主は、デスゲームマンと炭鉱マン。
デスゲームマン:昔、感度ガバガバのインディーズ思考速度入力アプリでブレインバックを起こしてましたよね? それを起動して悪用してみました。雷撃を食らったら気絶するのは普通のことでしょう?
なるほどね。
アプリの使用許可はそれか。
うんうん、抜け道を探すのが上手いじゃないか。
炭鉱マンからのメッセはデスゲームマンの本名晒しだったので、俺はそれをそのまま掲示板にコピペしてから脳を休ませるために就寝することにした。