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第四話「物理演算ガバガバレース」

「さて、さっそく始めよう。レースマシンは五機あるから五列に並んでくれ」


 くろりんの一声で異形達がわらわらと整列し始める。

 統率は無駄にとれてるんだよな。


「む、新人君。どうだ? これは君の歓迎会だからな、一番に乗せてやろう。どの機体がいい?」


 そう言われ、五機あるレースマシンを改めて見る。

 五機、共に一般的な形状のバギーだ。違いは色ぐらいで、赤青黄緑白に分かれている。


「じゃあ赤で」


「いいセンスだ!」


 何が? というツッコミをぐっと堪え、バギーに乗り込む。

 そして俺に続くように各列の最前列に立っていた異形どももバギーに乗り込んだ。


「よう、新人。歓迎会だからって手加減してもらえると思うなよ」


 隣の青のバギーに乗り込んだ肩甲骨けんこうこつが30cmぐらいある変態が俺に話しかけてくる。


「初プレイで手加減もクソもなくないですかね」


「わははは! 違いない!」


 肩幅に対してほがらかすぎる笑みを浮かべる化け物肩甲骨。


「これ、アクセルしかないんですね」


 わかりやすくアクセル、と書かれたペダルを指さして言う。


「ん? あー、そうみたいだな。アクセルの踏み具合とハンドル操作だけって感じか」


 急停止用だけでいいからブレーキが欲しかったが、贅沢は言うまい。

 ん? なんかスイッチがあるな。脱出用……ああ、異形共が車体に引っかかって出れない時用のか? そこは気を遣えるのな……



 そんなこんなで準備が整ったらしく、くろりんがカウントを始めた。


「では、いちについてぇ! よぉい……」


 スタート!



「摩擦係数ッッッ!!!」


 素直すぎる挙動に思わず叫び声をあげる。

 俺含め数人は何となく予想していたので事なきを得たが、白バギー乗りが最初のカーブでフワーーーッ! となり場外へフライアウェイしてしまった。


「石鹸の上走ってるみてぇだ……」


 ブンブンとケツを振り出したバギーを何とか鎮めつつ、コースを走る。


「よぉ、山っち~! 楽しいな!」


「なんだお前。スターでも取ったのか」


「元からだよ~」


 アホの倉本がスイーッと俺の横を通過していく。

 クソッ。いくらこんなクソゲーとは言え負けるのは悔しい。

 俺はアクセルを少し深く踏み、スピードアップした。


「おお、山っち追いついてきたじゃん」


「うるせぇ今集中してんだよ」


 そんな風に言葉を交わし合いながら並走していると、俺らよりも先に行っていた二人の姿が見えてきた。

 片方はレース前に喋った化け物肩甲骨。そしてもう一人は……


「アレ何が伸びてんだ?」


ひじだね」


 そうか。

 化け物肘と化け物肩甲骨は、特にギミックのないこのコースに飽きたのか、互いの車体からはみでた部位をがしがしとぶつけ合い、じゃれあっていた。

 カブトムシの喧嘩かな?


「おっ、ゴール近くない?」


「やっとか」


 見ればくろりんや異形どもが俺らに向け盛んに手を振っている。


 残すは最後の直線。

 正面で繰り広げられているカブトムシの喧嘩も荒々しさがピークに達しつつある。



「あっ」



 これは誰の声だったか。

 正面の二人の肘と肩甲骨が互いの車体にズブリと入り込む。

 


「「 お゛お゛あ゛ぁ゛ん゛!!!! 」」


 クソ情けない声と共に両機体がぐるんッと縦回転を始める。

 だが、それだけでは終わらない。ここは摩擦係数を奪われた世界だ。

 

 最初はゆっくりとした、シーソーのような動きだった。

 ドタドタと音を立てながらその動きは激しさを増していき――



 ――飛んだ。



「ぁあああああああああ!!!!!」


「だぁあああああおぉおおおあああおおおおおお!!!」



 大人二人の咆哮と共に大空へと羽ばたいていくバギー。

 やがて悲鳴も聞こえなくなってきた頃、俺と倉本はほぼ同着でゴールした。


「……えぇ…………」


 未だに空をじたばたと舞うバギーを見てドン引きしていると、くろりんが嬉々とした様子で近寄ってきた。


「楽しかったろう?」


「えっ……うーん……」


 楽しいには楽しいがアレを楽しいとは認めたくないというか何と言うか。


「というかアレ、大丈夫なんですか」


 アレ、と言いながら空のバギーを指す。


「んん? ああ、一応車内に緊急脱出スイッチがあったじゃろ。あれ使ったら初期地点にワープできるからの」


 なるほど。あのスイッチはそれ用か。


「で、感想のほどは」


「発展の余地がありすぎですね。とりあえず摩擦なんとかして下さい。もしあの摩擦係数が気に入ってるならコースを雪っぽくして乗り物をスノボにするとかそういう工夫が欲しいです」


「ふむふむ」


 ロリジジイがこくこくと頷く。なかなか様になっている動作だ。

 クソッ、やたら顔が良い。


「意見、感謝する。作成者に伝えておこう」


 バギーからもそもそと降りていた俺にニコリと笑いかけてくる。顔が良いなオイ。


「よし、よし。ではそのバギーはもう少し向こうにやっておいてくれんか」


「え? 次のレースで使うんじゃないんですか?」


「いや、スイッチ一つで五機が定位置に生成される仕組みなのでな。それはもう使わん」


 それ処理落ちとか大丈夫なのだろうか。


 俺のそんな心配をよそにくろりんがテキパキと次のレースの準備を始める。


「……まぁいいか」


「山っち、どした」


「いや別に。てか俺はこの後どうすりゃいいの」


「そうだなぁ」


 倉本があごに手をあて少し考える素振りを見せる。


「ああ、そうだ。俺、今から何人かと森MODの追加要素の話するんだったわ。来る?」


「行くわ」


 せっかく参加したしなるべく色んな人と喋ってみたい気持ちはある。

 ある、が……


 遠めに見えたカラフル集団。赤青黄色。あと緑。


「遅かったじゃねぇか」


「悪い。レースやってたわ」


 赤色肌の男がフッと呆れたように微笑む。やめろ。


「で、そっちのペールオレンジ色の人は?」


 初めてそんな呼ばれ方したわ。俺の肌ってペールオレンジって名称なのか。


「ああ、俺の友達の山っち」


「はじめまして」


 ペコリと頭を下げる。


「ああ、そう畏まらなくていいよ」


「なんか俺らの会議聞いてみたいんだってさ」


「ああ、そうなんだ」


「俺は気にせず話し合い始めちゃって大丈夫ですよ」


 俺の言葉に、カラフル集団が首肯し、会議が始まった。


「俺の投げたデータ見た?」


「え? あー、多分雑草の成長速度のやつっしょ? 良い感じだと思うよ。ただ成長限界の値がちょっと高いかな。あまり視界を塞いじゃうと良くない。だからあそこの数値は――」


 そこから倉本がべらべら専門用語を交えて話し始め、それに赤青黄緑の四人が何か返す。


 ぶっちゃけ訳が分からなくなった俺は途中から完全にレース会場の方を眺めていた。


「……フライングバギー増えてないか」


 くるくると上空で舞うバギーが五つ。増えるペース早すぎでは?

 大丈夫? ほんとに処理落ちしない?





 十分後。普通に処理落ちして強制ログアウトになった。

 大丈夫じゃなかったらしい。




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