第三十八話「前回までのユアル」
「てかさ、ユアルってどこまで進歩したの」
昼休み。
いつも通りの面子で飯を食っていると、榎木がそんな事を尋ねてきた。
「……ごめんな、さっきまでの話そんなにつまらなかったか?」
「違ぇよ。普通に気になったんだよ」
「ダウト。ユアルを気に留める人類は存在しない」
「目の前に少なくとも、2人」
そう言いながら榎木が俺と倉本を指す。
クソが。
倉本はともかく、確かに俺はあの初期の虚無体験を気に留めてしまっている。
俺は諦観と共に口を開いた。
「進歩ね。とりあえずバイオームは増えたぞ」
「へぇ」
「まぁこの情報はお前らがグローバルマンから逃げなければ得られているはずの情報ですが……」
俺は最後までたっぷり殺意をこめながら言葉を紡いだ。
気持ちが伝わったらしく、榎木含む3人が背筋を震わせる。
「ご、ごめん。やっぱ女の子いると俺黙っちゃうし、空気悪くするかと思って」
「相田、分かった。それ以上喋るな」
お前だけ方向性が違うんだよ。
「いやなんかわかんねーけどさ。あんま2人邪魔するのも良くない、みたいな事を榎木が」
「分かってる。諸悪の根源が榎木な事は」
相田の純情を利用しやがって。
俺は榎木をキッと睨んだ。
「あの。被害者面してますけど、加害はそちらから始めましたよね?」
「グローバルマンのことを加害って呼ぶんじゃねぇよ」
「そこまでは言ってねーよ」
やれやれ。君達には失望したよ。
最後の米粒を口に入れ、咀嚼しつつ弁当箱を片付ける。
「でさぁ、まぁその……マルチプレイやってみてもいいぞ」
榎木が何やら照れ臭そうにしつつ、そんな事を口にする。
「そんなに日常に絶望してんのか?」
「してねぇよ。いやさ、なんかツッコミどころ多いから言ってなかったけどよ。普通にすごくねぇか?」
「何がだよ」
榎木が弁当箱を片付けながら、ぴっと人差し指を立てた。
「第一に、いっくらツールが転がってるとは言えゲームを作るのは簡単じゃない」
「慣れればそうでもないよー」
「慣れるまでが大変だろ?」
「まぁ、うーん。そうだね」
頬杖をつきつつ、榎木と倉本のやり取りをぼうっと眺める。
「それを特に見返りもなくやってるわけだ。正直何がお前らをそこまで駆り立てるか分からん」
俺はその辺の事情に一家言あったため、そこで口を挟んだ。
「いや、何かしらの共同制作はな……案外営利目的の方が続かねーもんだ。無益だから、馬鹿馬鹿しいからって理由で続くもんは割とある。ユアルはその類だな」
「あー……なるほど」
物申して満足した俺は、再び頬杖傍観スタイルに戻った。
「でもまぁ、見返り無しに素人が作ってるレベルにしちゃ結構進歩してると思うぞ。実は昨日ちょっとユアルをやってみたんだけどさ」
正気か?
「酷い部分はあるけど……アーリーアクセスゲームとして考えればまぁ…………まぁ、一応ゲームだったぞ」
「よろしければ感想は掲示板にお願いします」
「急に業務口調なの何?」
「MODを作れねぇ俺にできるのはそのくらいなんでな……反応はやっぱモチベに繋がるし教えてやれよ」
俺が自嘲気味にそう言うと、倉本が俺の肩をがしっと掴んできた。
「ク……山っち! そんな事ないよ! 観測できるだけでも2人は引き摺り込めてるじゃん!」
今クソ監督って言おうとした?
「実際は言ってないだけでもうちょい増えてると思うぞ」
ふむ。
「とりま榎木は感想を掲示板に書いてやってくれよ」
「んー……まぁそうだな。いいぞ」
これを機に新規の入りが確認しやすくなる流れができるといいな。
【MODの動作に関する報告及び質問総合スレ】
146:名無しの開拓者
現環境のユアルをプレイしたので感想落とします。
・良い点
以前プレイした時と比較して地形の変化が格段に増えている。そのため探索は割と楽しい。
ダンジョンが2種追加されており、両方ともやりごたえのある難易度。
初期リスに斧→ひとまず木材を取る→クラフト開始の導線が意外にしっかりしている。
・気になった点
水の質感がなんか気持ち悪い。
ダンジョンを捜索する術に乏しく、運良く早めに見つからない限り途中でモチベーションが死ぬ。
野人の巣の攻略報酬である緑の剣の性能が普通の剣と見た目以外変わらない。(それか、分からないレベルでしか変化がない?)
地下に湧くミミズのような敵モブの判定がクソ。
鶏型の人間?のようなモブがおり、攻撃もしてこずドロップでごく普通に見える鶏肉を落とすのが不気味すぎる。(グラフィックのバグ?)
物理演算ガバはあるが概ね1時間くらいなら遊んでられる印象。
147:名無しの開拓者
!?
148:名無しの開拓者
新規プレイヤー……実在したのか……!?
149:炭鉱マン
普通に常駐してるやつが改まって感想投げただけじゃね?
あと緑の剣は一応攻撃力上げてはいる
150:名無しの開拓者
敵を殺すまでの攻撃回数が変わらなきゃ効果実感できない定期
151:炭鉱マン
そういやそうか
あんま火力上げすぎると壊れるかなぁって
152:名無しの開拓者
虚無なんだから何も壊しようがない定期
153:PVPマン
あの
154:>>146
一応新規プレイヤーです
感想は投げ終えたので、では
155:炭鉱マン
新……規…………?
156:名無しの開拓者
コレが……心……?
157:デスゲームマン
ユアルで心を学ぶアンドロイド、さっさとスクラップにした方が良い
158: PVPマン
あのあの
159:水マン
水まだ気持ち悪いかー
何回か調整してるんだけど液体の触感って難しいね
160:PVPマン
すいません、あの
161:森マン
野人の巣の小規模版みたいな、野人の野営地的なの作りたいな
162:炭鉱マン
あー、じゃあそれに野人の巣の生成位置分かるアイテム設置すっか
163:くろりん
うむうむ
活発化してきておるのぅ
164:PVPマン
>>146
>鶏型の人間?のようなモブがおり、攻撃もしてこずドロップでごく普通に見える鶏肉を落とすのが不気味すぎる。(グラフィックのバグ?)
>鶏型の人間?のようなモブ
>鶏 型 の 人 間
純情な新規プレイヤーに妙なバージョンのMODデータを渡したの、だーれだ??????????
165:名無しの開拓者
グラフィックのバグやろ
166:PVPマン
バグってんのはてめぇらの頭なんだよなぁ
どういう神経してたら鶏のテクスチャを俺にできるんですかね?
167:監督
新規きてんだからあんま高圧的な文投げるなよ
168:PVPマン
おk、お前ね
殺すわ
169:名無しの開拓者
草
170:炭鉱マン
判断が早い(ご満悦)
171:監督
決めつけの刃はよくないと思います
173:PVPマン
直前のレスに引っ張られんな
174:食事マン
その人クリスマスの時のデータのバックアップ残ってない? ってぼくに聞いてきてました
175:名無しの開拓者
チェックメイトが早すぎる
176:炭鉱マン
あいつならやるだろうって思ってました
177:PVPマン
てかちょっと待って?
その新規に直でデータ渡したのか?
何? 知り合いなの?
178:森マン
てかリアルの方の知り合いでしょ?
179:監督
お前なー、あんま迂闊な事言うなよ
180:くろりん
リアルの方でもユアルを布教しておるのか!!!?!???!?????!??????
181:名無しの開拓者
くろりんさん!?
182:名無しの開拓者
ここまでのガチ狼狽初めて見た
183:炭鉱マン
歳なんだからあんまり刺激与えんなや
184:デスゲームマン
普通にクソサイコやん
こわ
185:監督
お前にだけは言われたくないが……
186:PVPマン
リアルでユアル布教って……警察に見つかったらどう言い訳すんだよ
187:監督
どうもしねぇわユアルを何だと思ってんだよ
188:名無しの開拓者
ユアル、VRの法整備さえ進んだら普通に何らかの何かに抵触するだろうからな……
189:デスゲームマン
それはそう
気をつけようね
190:監督
お前が言うな