第三十六話「殺し合いをしよう! part2」
「弱者が淘汰されたようじゃのぅ」
ファーストステージを潜り抜けた俺達の前にくろりんがやってくる。
「おいおい、確かにアイツらは負けた。だが戦いの中での誉れある死だ。あんまり侮辱するような発言は謹んでもらおうか」
椅子みたいな形のアバターのやつがそんな発言をする。
お前は誰なんだよ。
あとなんでそんなアバターでアスレチッククリアできたの?
「クク……ここで死んだ者には誉れなんぞないわ。金の亡者どもめ」
それは否定できんな。
俺はうんうんと頷いた。
「セカンドステージに進む、その前に。チーム分けを行おう」
くろりんが指パッチンのような動作を行った後に、俺達の乗っていたステージが2つに分かれるような形で動き始めた。
「うお……慣性がカスすぎ」
炭鉱マンと共に悪態をつきつつ、何とか足場に留まる。
何だってんだ。
「うむ! ……うーん、思ったより2等分できなかったの。後で調節じゃな」
見れば、心なしか俺達がいる側の人数が少ない。
「おいおい、さっきのアスレステージでの攻防を見てなかったのか? 俺ら側に付いた方が勝てるぜ?」
「やだ……あの人デスゲームで自業自得な感じの死に方するタイプのセリフ吐いてる……」
なんだてめぇコラ。
お前から虚空に葬ってやろうか?
そんなこんなで俺達が仲間割れをしている内に人数調整が終わり、第二ステージが始まった。
激ヤバ慣性のエレベーターを降りた先に見えたのは、サッカースタジアム。
「どうかと思うけどね俺は」
正直な所感を述べ、炭鉱マンを見る。
「まぁ……ルール次第じゃないか?」
「それもそうか」
「では諸君! 諸君らには全身を使ってサッカーをしてもらうッ!」
怪しくなってきたな。
くろりんの宣言と同時に、2メートル超の鉄球のようなものが落ちてくる。
「圧迫感に関しては規定が曖昧なのでな、気分が悪くなったらすぐ言うのじゃぞ」
別の方面でも怪しくなってきたな。
「ではこちらの帽子を装備してくださーい」
係員に配られた赤白帽を被る。
よく見れば、ゴールポストも紅白で分かれている様子だ。
「染めてやるぜ、鮮血で」
腕がカマキリみたいになってるアバターがそんな事をぼやきながら自分の腕を舐めるような動作をする。
相手の首を絞めやすそうな形状だ。味方チームで良かった。
「ルールは単純! 鉄球を自陣ゴールに入れるだけ! 制限時間までに自陣のゴール内により多くの鉄球を入れたチームが勝利じゃ!」
やれやれ……この勝負、荒れそうだな。
「では、開始ッ!」
「っしゃ死ねオラァ!」
俺は正面の白帽子に掴みかかり、チョークスリーパーをかました。
警告用のログアウト画面が出たらしく、視界の接続を切られた白帽子が、ふらふらと腕を動かしながら放浪し始める。
「おい、カマキリ野郎」
「いや、これはゴキブリを再現しようとした結果、近縁種であるカマキリに類似してしまっただけなのだが」
さっきまで鮮血がどうこう言ってたやつの語り口じゃねぇだろ。
「ゴキブリ野郎って呼ぶのは流石に抵抗あるんすけど」
「やれやれ……ま、頼みたい事は分かりますよ」
お、分かってくれるか。
「チョークスリーパー戦法はやりません。私も良い歳したおとっ……」
「っだァ! ワンキルゥ!」
白帽子に飛びかかられ、ゴキブリ野郎がオチる。
「死ぬのはてめぇだよォ!」
「ぐお……!?」
しかし俺が即座にカウンターを食らわし、視界未接続の世界へと落としてやった。
そしてゴキブリ野郎の手元を誘導してやり、メニューを閉じさせ復帰させる。
「ここはもう戦場なんだよ、ゴキブリ野郎」
「あ、結局言うんだ」
だって呼んだ方が喜びそうだし。
さて一旦戦況を確認しよう。
まずチームは自然と3つの役割に分かれた。
鉄球運搬チーム。
言わずもがな、このゲームで勝つには鉄球を運ばなくてはならない。
チョークスリーパーチーム。
ログアウトボタンを無理やり出現させ、相手の視界をブラックアウトさせる妨害役だ。
蘇生チーム。
チョークスリーパーでブラックアウトしてしまったチームメンバーを復活させる役。
ただ、たまに自力復帰が可能な猛者もいるためチームというよりは目についたら場当たり的に対処している奴が多い。
本当に専門で蘇生だけをやっているのは各チーム2人もいれば多い方だろう。
「さて、と」
ゴキブリ野郎のアシストを得てメニューを閉じ、視界を取り戻しながら戦闘態勢を取る。
「そいつ、1人でやれます?」
「やれるね。ゴキブリ野郎は他のやつを相手しな」
「はいはい」
シャカシャカと去っていくゴキブリ野郎を横目に、眼前の敵を睨む。
「椅子とは何か? それをお教えしますよ」
「あぁ? ぜひ教えて欲しいねぇ〜!」
ぶっ殺した後になァ〜!
椅子野郎にじりじりと詰めつつ、周囲の味方を確認する。
追加の敵襲は無さそうだが、逆に援軍も期待できなそうだ。
「座らされているんですよね、人類は」
どこが首なんだよ。
背もたれの付け根か……?
「人体の構造の謎。その全ては座るという動作に辿り着くため」
眼球は確かに背もたれにある。
だが残りの人体が歪みすぎて何も分からない。
「マッサージチェアは……邪教ですね」
「うるせぇな」
普段こんな奴が名無しとして掲示板に当たり前のように書き込んでいる事実に背筋を凍らせつつ、姿勢を低くする。
「椅子がどれだけ高尚だろうが関係ねぇな」
「ほう?」
俺が何故お前にべらべらと喋らせたと思う?
動いてんだよ。
てめぇの喉仏がな。
「首は——」
後脚の、右側。
どう歪めればそこに首が配置されるのか考えたくもないが、俺は見極めた。
「もらってくぜッ!」
「ぬぅ!?」
ぬるぬるのタックルがキマり、後脚を掴み取る。
「待って! そこはアッアッアッアッアッ」
唐突に脳みそを弄られて洗脳されてる奴みたいな悲鳴を挙げ始める椅子野郎。
オチたな。
俺は椅子野郎を蹴り飛ばすと、次の標的へと向かった。
「——そこまでじゃッ!」
くろりんの声で我に返る。
途中からは異形アバターどもがその異形を活かした戦法を取ってきてキツかったが……概ね勝ち越してはいたと思う。
後は鉄球がどうなったか。
ステージの中央に浮かんだくろりんがメガホンを持つ。
「赤チーム! 鉄球3個!」
3つか。
さて、どうだろうな。
「白チーム! 鉄球……」
ゴクリ。
誰かの生唾を飲み込む音。
「7つッッッッ!!!!」
普通に大負けしてた。