第三十一話「環境を増やそう! part4」
「じゃあトゥデイはグローバルなバイオームMODのテストプレイのデータがリーチしてるわ! そこでプラクティカルなレッスンをドゥしましょう!」
「ドゥするって何? 毎日がエヴリデイなの?」
「イェス!」
「……」
榎木が絶句する。
はは、甘いな。その程度のツッコミがグローバルマンに響くと思ったら大間違いだ。
「お、おい。山下……なんか、意外と可愛い子なんだな……」
俺はアホの相田を無視しつつ、口を開いた。
「はい。今日もよろしくお願いします」
「オゥ! トークスがクイックね! じゃあアイがセンドするリンクにカムしてね!」
そう言ってグローバルマンがログアウトしていく。
俺はぼうっとしながら、ワールドへのリンクが送られてくるのを待とうとした。
ガシッと肩を掴まれる感触。
「山っち、大丈夫?」
「山下……お前、ツッコミが……」
倉本と榎木が俺を心配そうに見ていた。
うるせぇな。
俺はグローバルマンとここ数日ミーティングしてノティスしたんだ。
オビディーエントリィにフォロウした方がベターなんだ、ってな。
は?
「すまん、俺は病気かもしれん」
「知ってるよ」
俺が榎木と取っ組み合いをしていると、視界の隅に通知が表示された。
グローバルマンからのメッセージだ。早速、目を通す。
「環境MODをテスト導入したワールドに入って、実際のモノを見ながらどう翻訳するか考えるらしい。フィールドワークみたいで心が躍ります、みたいなことが書いてる」
「なるほど。まぁ理には適ってるな」
「へぇー、フィールドワークとか好きなタイプなんだ」
相田、お前は頼むから黙ってくれ。
俺はメッセージで3人にリンクを送った後、口を開いた。
「とりあえず、まぁ……行くしかねぇよな」
「そうなる。行くぜ、魔王城に」
俺は榎木と熱い握手を交わし、ワールドへと向かった。
かかってこいよ。俺達の友情は負けねぇ。
「……遅いな」
「フレンズはタスクでもハヴしてたんでしょうか」
俺がワールドに入ってから既に15分が経過しようとしていた。
メッセージも送ってみるも、既読がつくことすらない。
流石の友人想いの俺ですらこの状況は理解できる。
あの野郎共、ポカしやがった。
「なるほどね。殺したろかなあいつらほんま」
「FD、ビー・クール」
「そもそも元凶はお前なわけでだな」
いや、もういい。
どうせあいつらはこの先の戦いについてこれなかったさ。
俺だけでもやり遂げる。
俺は深く息を吐いた後、心を切り替えた。
「で? ここが環境追加MODのテスト導入がされたワールドなんだな?」
「ザッツ・ライト」
「ふーん」
軽く周囲を見渡す。
まぁ初期位置は大して変わらないか。
落下した宇宙船に、それを取り囲む森林……ん?
開けていて、かつ地面が黄土色の箇所がある。
「なんだアレ。砂漠か?」
「……メイビー?」
とりあえず行ってみよう。
宇宙船から資材を回収し、ツルハシ片手に砂漠へと足を踏み入れる。
ズボッという音と共に身体が沈む。
踏み入れすぎだな?
「ワォ。デンジャーなデザートね」
「馬鹿なんかな。それともテストプレイを知らないのかな」
「テスト・プレイヤーはウィーですよ?」
いやそうなんだけどさ。
遠くを見れば、森林から出た野人が直立不動で砂に沈んでいく様が見えた。
これもう罪人が死んだ後にくる場所だろ。
「森林内を進んで別バイオームを探すか。砂漠は……欠陥品だ」
俺は何とか砂から這い出し、ツルハシを構え直した。
森林に入るなら剣が要るな。
「オーケー。ネクスト・レッスンね」
「突っ込み損なってたけどレッスンて何? MOD制作会議の予定だったはずですよね?」
「ワォ。ソーシィなスチューデントね」
誰が生意気な生徒だよ。
生意気じゃねぇしそもそも生徒ですらねぇわ。
その後、チャチャっと剣を用意し、俺達は森林へと踏み入った。
「なんか雑草の種類増えてんな。そのせいでインベントリの圧迫がひどい」
「バッド・ポイント?」
「いや……うーん。雑草で一括りにして、設置時に形を多少選べる感じにした方が良いかもな」
「コンストラクティヴなビューね」
そりゃどうも。
しばらく歩いていると、池に到着した。
「池食えるバグ直ってんのかな」
俺は試しに池に向かって食事のトリガーとなるモーションを行った。
反応はない。
「ほう。ミスって池を食わされる危険性がないなんて神ゲーか?」
「……」
おい、なんか言えや。
俺達は妙にねちょねちょした池を抜けた後、何故か地形が生成されず巨大な穴となった場所や、地形が多重に生成され出来の悪いアインクラッドみたいになった場所なんかを抜け、ぐんぐん進んでいった。
なかなか新バイオームに出会えない。
「俺らの引きが悪いのか、生成率が低すぎるのか……それとも砂漠しか作ってないのか」
あいつらの仕事の早さや、砂漠の雑さから考えると、あと2つや3つ、作ってても良さそうなところなんだが。
「FD、アイはタイヤードです……」
「キツいのはお前だけじゃないぞ。皆我慢してる。でも口に出してるのはお前だけだ」
「ファッキン・ティーチャー……」
生徒なのか先生なのかハッキリしてくれ。
出ているはずもない汗を拭う動作をしながら歩くこと更に30分。
景色は、唐突に変化した。
「……おお!?」
「ワォ! ゴールデン……ジパング……!」
言うなれば、黄金郷だ。
金色の宮殿。金色の広場。噴水。民家。
森の中に唐突に現れたソレは、ユアルのくせにまぁまぁ良い感じの風格を漂わせていた。
そしてそれを取り囲むように見覚えのある金色のアバターがうろうろしている。
いいね。ちょうどアイツを殴ってやりたかったところだ。
俺は剣を強く握り、中に足を踏み入れる前に一旦突っ込んでおく。
「適当なこと言うなや。日本にこんな悪趣味な場所はねぇよ」
「ンー」
そうかなぁ? というような表情を浮かべグローバルマンが小首を傾げる。
俺はそれを無視して、黄金郷内に踏み入った。
「キエーーーッ!」
直後、付近にいた黄金人が奇声をあげ突撃してくる。
「パニック・ホラー!?」
「下がってろ」
邪魔だ。
コイツと連携して虚無の底に突き落とすのは無理だろう。敵モブ相手にできるほど練度がないはず。
炭鉱マンあたりを増援で呼べばよかったが、今更後悔してももう遅い。
「普通に戦うか……」
囲まれて余裕が無くなってしまう前に、一発攻撃を受けて威力を確かめておく。
さて。体力は……いやちょっと削れすぎじゃねぇ? 半分以上もってくじゃん。
防具も盾もないゲームのモブ敵でここまでの火力はいかんだろ。
リスポーン位置の変更手段がないから復帰も厳しいのにさぁ。
「FD! インナーをカットするように!」
「どういう指示?」
一応、攻撃の当たり判定は剣の方が長く、黄金人の二匹目が来てもまだ優勢を保てている。
しかし硬いな。メタルスライム的発想か?
黄金は意外と柔らかいんだぞ。噛んだら歯形が付くぐらいだからな。
「よしッ、まず1匹!」
「ヒュー!」
段々腹立ってきたな。そもそもどの辺がレッスンなの?
俺は後方で隠れるグローバルマンをじろっと睨んだ。
「……オゥ、オーケー。アイはアンダースタンドしましたよ。アイもファイトしろというゲイズですね?」
「分かってるじゃねぇか。剣を持て」
「ンー」
ンー、じゃねぇよ。
それで誤魔化せると……クソッ、危ねぇッ……思うなよ。
二匹で突撃してきた黄金人を何とか捌きつつ、グローバルマンに悪態をつく。
やっぱ一発で体力の半分もってかれるの納得いかねぇよ。
「何? VRのアクション苦手な感じか? ならしゃーないけど」
「ノー。オーディナリーにはドゥできます。でもバット……ベリーにソーリーなフィーリングなんですが……FD、グラデュアラィ……アイがゴートゥベッドするタイムなんです……」
「ひょえ〜」
あまりの面の厚さに自分とは思えないほど間抜けな声が漏れる。
寝る時間ってお前なぁ。
メニューを開いて時計を確認する。
え? 22時? マジ? そんな何時間もやってたのか。
「じゃあ、まぁいいか……俺も落ちるわ。掲示板で報告もやりたいし」
「オーケー!」
あとあの3人に鬼電して問い詰めたいし。
俺はグローバルマンがログアウトしたのを確認し、遅れてログアウトした。