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第三話「虚無卓会議」

 

 午後の授業も終え、下校時間。

 俺は途中まで帰り道が同じな倉本とだべりながら歩いていた。


「あ、そうだ山っち」


「ん?」


「帰ったら会議用のマルチプレイMODのデータ投げるから」


「は?」


 会議と言うからには例のゲーム……ユアルの話なんだろうが、マルチ?


「そこまでやれるんならもう一からゲーム作れよ」


「いや、マルチに関しちゃ元々機能として未完成ながら存在したのを完成させたやつらしい」


 それでもすげぇよ。どっから来るんだその熱意。


「というか普通に通話じゃ駄目なの?」


「あー……いやその、今ユアルやってる連中、さ。殆どがデフォアバ改造板出身なんだよな。だからアバ見せ合いながら話したいっていうのが根幹にあって……」


 俺は嫌な予感がしつつも、会議に参加する旨を伝え、倉本と分かれた。






「ただいまー」


 返事がない。母はまだ帰ってきていないようだ。

 

「……じゃあ宿題後回しでユアルすっか」


 俺は手洗いうがいを早々に済ませ、自室へ急いだ。








 VRマシンを起動すると、既に倉本からメッセージとデータが届いていた。早すぎる。

 さてはユアルをすすめてきた時点で用意してあったな。


「流石、大枚はたいて全身に金箔を塗るだけあるな。熱意がすごい」


 俺は皮肉たっぷりの返信を送った後、倉本のメッセージ通りにマルチMODを導入した。






「お、ほんとにマルチプレイの項目がある」


 マルチMOD導入後、ユアルを起動した俺は感嘆の声をもらした。

 こんな虚無ゲーでマルチとは。イカれてやがるぜ! ……まぁ、流石に下地MOD導入下の環境だろうが。


「さて、サーバー名入力してっと……」


 ログイン。

 俺は虚無の中へと身を投じた。


 一瞬の空白。


 その後に、一面の緑が俺の目に飛び込んできた。


「……お?」


 緑色のペンキこぼしちゃった、みたいな緑ではない。

 相変わらずすごくチープな色ではあるが、確かに雑草が生えている。


「森MOD?」


「その通り!」


 声のする方に向き直る。


 見れば、いるわいるわ、改造アバターの数々。

 ……百鬼夜行かな?


「山っち、俺だけど。分かるよな」


「金色の肌のデフォアバがお前以外に居てたまるか」


 ギンギラギンに全然さりげなくない感じで輝くクラスメイト。

 というか普通にTシャツ着てるだけで面白いのずるいだろ。


「とりあえずこの界隈仕切ってるリーダーみたいなのいるから。挨拶に行こう。くろりんって言う人なんだけど」


「分かった」


 変態の親玉か。気が引き締まるな。


「こっち」


 倉本に連れられるまま、異形集団の合い間を縫うようにして通り抜ける。

 時折、まともなアバターが見られるのが唯一の救いか。


「おお! 倉本くん! それが君の友人かね!?」


 そんな渋いおじさま系の声が聞こえてくる。

 

「ああ、くろりんさん。ほら、挨拶しろよ」


「え? どこ?」


 だがその声の主がどうも見あたらない。

 異形が多すぎて頭が混乱してるのかもしれん。

 一瞬、ゴスロリ衣装の少女と目が合ったがアレはありえないし。てかなんであんな子がいんだよ。


「だぁっはっは! まぁ無理もない! だってワシめちゃくちゃ可愛いからなぁ!」


「それ関係あります?」


 先ほど目が合った少女が口をぱくぱくさせながら近付いてくる。

 

「おいおい! まさかまだシラを切るつもりか!? ワシと目ぇ合っただろう? なぁ!」


「ログアウトして通報しなきゃ……」


「待って」


 ゴスロリ少女に腕を掴まれる。


「なぁ、倉本。これなに」


 これ、と言いながらゴスロリ少女を指差す。


「くろりんさん」


「なるほど。じゃあ自分、夕飯の時間なんで」


「待て待て待て待て! 通報する気じゃな!?」


「そらそうよ」


 憮然と言い放った俺にくろりんなるド変態が必死にすがりつく。

 だが当たり判定がガバガバなのか、俺のアバターが吹っ飛ぶ。


「うおッ」


「おっと。大丈夫かい?」


 顔面がぐにぐにに歪んだアバターに受け止められ、なんとか立ち上がる。


「大丈夫です。ありがとうございます」


「あのアバターを見て犯罪の臭いを感じるのは分かるけど、一応アレ合法な手段で得てるモノらしいからね。少しは話を聞いてあげな?」


「は、はい……」


 一応とは。そして合法とは……


「ところで君」


「え? はい」


「僕のアバターをどう思う?」


 どう思う、って……

 そう言われ改めて顔を見てみる。

 しっかしキモいな。うずまき型か?

 でも……あれ、なんか見た事ある形状のような。


「お? 気付いたかい? ……フフフ、そう。黄金比だよ。あの図形さ! 美しいだろう?」


「いやくっそ気持ち悪いっすね」


「いずれ気持ち良くなる」


「じゃあログアウトして通報しますね」


「待って」


 変態黄金比野郎が俺にすがりつこうとするのをすんでで避ける。

 あっぶねぇなマジで。当たり判定ガバいんだからやめろや。


「素晴らしいッッッ!」


 そうこうしている内にくろりんなる合法変態ロリジジイが賞賛の言葉を口にしつつにじり寄ってくる。

 前門の黄金比、後門のロリジジイ。最悪だ。

 何故俺がこんな目に遭わなければならないのだろうか。


「君のその歯に衣着せぬ物言い! レビュワーにふさわしいッ!」


 俺は散々迷った挙句、見た目だけは可愛いロリジジイの方に向き直った。


「はあ、それはどうも」


「おおー、気に入られてる。良かったね山っち」


「良くない」


 黄金皮野郎は黙ってろ。


「……本当にそのアバター、合法なんですよね?」


「無論。そうじゃとも。札束で殴った結果じゃ」


 人形のような整った顔から出てくる渋おじボイス。

 そんな常軌を逸した光景に慣れはじめている自分に呆れつつも、言葉を返す。

 

「まぁ、それならいいか。参加しますよ、この会議」


「おおそうか! ……といっても今日は会議というよりは新人歓迎会なんじゃが」


 そうなのか。

 見れば、周囲の人たちもうんうんと頷いている。

 一部、頷いてる……? と思わざるを得ない連中もいるがそれは気にするだけ無駄だろう。


「それは、何と言うか。ご丁寧にどうも」


「礼にはおよばん! ただでさえニッチな界隈。新人は手厚くもてなさねばな! おい、もういいぞ。見せてやるがよい!」


 くろりんの掛け声で、前頭部がキンタマみたいに膨れ上がったアバターのやつが、七色のブロック状の物体をポン、と平原の真ん中に配置する。


 そして数秒後。デンデンデーン! という山奥で配信でもしてんですか、みたいな音質の音楽が鳴り響き、クソだせぇ七色のポップなフォントで「レース」という三文字が上空に浮かび上がった。

 それらの演出を終えるがはやいか、周囲にレースコースっぽい灰色の板が生成され始めた。


「……た、楽しそー」


 俺は気合いで社交辞令を捻り出した。


「そうじゃろう! ……ではこれより新人歓迎会及びレースゲームMODの批評会を開始するッ!」


 くろりんの一声で異形どもが雄叫びをあげる。

 うわぁ、なんだかとんでもないことに巻き込まれ始めたぞぉ。


 俺は先ほどのアバター同士の当たり判定のガバ具合を思い出し、頬を引きつらせた。



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