第十八話「ダンジョンを作ろう! part3」
今日は掲示板に例のMODが貼られる予定の日だ。
「おっ、ちゃんとあるな」
早速ダウンロード。
ユアルに導入を済ませた俺は、虚無へとダイブした。
迷わずマルチプレイを選択。
倉本が事前に用意してくれていたワールドに入る。
「おっ、きたきた」
「うっす」
辺りを見渡せば、いつもの宇宙船と、金ピカアバターの倉本。
普通すぎて違和感があるレベルのアバターの相田と榎木。
「で?」
「とりあえずそこの斧を拾って、木材を集めてツールを制作するよ!」
「結構役に立つな。この金ピカチュートリアルNPC」
「倉本だよ!」
「分かってるよ」
そんな会話をしながら相田と倉本が拠点から出て行く。
ふむ。
「俺らも行くか」
「うい」
それから俺達は、時折、野人に襲われつつも全員分のツールを作成する所までゲームを進めた。
だが、本番はここからだ。
ここまでは所詮チュートリアル。
つまり少し前までこのゲームはチュートリアルすら完成してなかったわけだ。ヤバいわよ。
「さて、ダンジョンの前まで来たわけだが。心の準備は?」
「万端!」「完璧」「この日の為に仕上げてきた」
榎木はいちいち発言が適当だな。
まぁ現状、持てるツールは全て持ったわけだし、万端ではあるだろう。
木の幹から顔を出し、野人の巣の入り口を見る。
見張りらしき野人が二体。その後ろには、巣への入り口らしき洞穴。
製作者に攻略法を聞くのはナンセンスだし、ちょっと自分なりに考えてみるか。
「背後からサイレントキル。できるな?」
「できませんが……」
「何の身体機動アシストも無しはキツい」
チッ。
「二人一組で襲いかかれば間に合うか……?」
「その方が良いと思うよ」
製作者もこう言ってるし、やるか。
俺と倉本、相田と榎木に分かれ、見張りの背後に回る。
さぁ、スマートに侵入させてもらうぜ。
「死ねぇッ!」
「うりゃ!」
俺と倉本が攻撃する少し前に、こちらに気付き振り返った見張り野人。
だがもう遅い。
射程内だ……!
俺達の剣閃が、野人を裂く。
「アァアアアアアアアアアォオオオッッッ!!!」
迫真すぎる断末魔をしり目に、相田と榎木の様子を見る。
合図は出したはずなんだが……。
「アオッ、アオッ!」
俺達の横を、慌てた様子の見張り野人が駆けていった。
こ、これは。
「おい! 相田、榎木ッ!」
見れば、相田と榎木のアバターがぬるぬる前に進んだり元の位置に戻ったりを繰り返していた。
「クソ物理演算死ね!」
榎木がこちらに向け中指を立ててくる。
「ごめん!!!!」
それに関しては平謝りするより他ない。
何とか二人の謎挙動を収め、いざダンジョンの中へ。
俺と相田、榎木が剣を持ち、倉本は松明を持って洞窟を照らす役だ。
「逃亡した見張り野人が不意打ちしてくる可能性は?」
「さぁ? デスポーンしそうだけど」
チラリと倉本の方を見る。
倉本は人差し指を立てた。内緒、という事だろう。
「という事はあの行動には何か意味があるってことだ」
「あっ! 山っち、それはずるいよ~」
しょうがねぇだろ。ゲーム側がバグとかいうズルしてくるんだから。
「てか野人思ったより少ないな。そろそろもう一戦あっても良くない?」
相田がそう呟いた時だった。
「ォオオオオオオ……」
洞窟内に雄叫びが響く。
来たか。
「構えろッ!」
剣を持ち直し、正面を睨む。
ドタドタドタ……という音と共に、野人の軍勢が姿を現した。
「多くない?」
「見張りを逃した分、数が増える設定だけど……倍率ミスかなぁ」
そっかぁ。
俺達は野人の濁流に飲まれ、めちゃくちゃにボコられた。
「トラウマになるわ」
視界が暗転後、相田の声が聞こえた。
リスポーンしたか。
それにしては周囲が暗い……まさか。
「倉本。ここは……」
「食糧庫だね」
そこで我慢できなかったのか相田が口を挟んだ。
「ちょっと待って。あの全身緑の奴ら、そういう事なの?」
「そういう事だな」
「ホラゲーじゃねぇか。事前に言ってくれよマジで。それならそれで心の準備してたんだけど」
「俺もできてなかったからセーフ」
「てかさっきから身動き取れないんだけど。何?」
確かにそうだな。
手は自由に動かせるが、足が……。
そこで俺は、周囲の景色が上下反転している事に気付いた。
「足首縛られて吊るされてますね」
「ログアウトしていいか?」
「まぁ待て。落ち着けよ、まだ諦めるには早過ぎるぜ。倉本、これどうやって脱出するんだ」
「この辺俺じゃなくて炭鉱マンの担当だから……」
マジか。ログアウトしようかな。
俺達がそんな会話をしていると、視界の端に新たに吊るされた人間がうつった。
「結構逃げたけど結局死んだわー」
「榎木てめぇ……」
「いやアレは逃げるだろ普通」
そう言いながら、榎木が斧を持ち、ロープに向けぷるぷるし始めた。
最初こそ何を始めたのか分からなかったが、ロープにヒビが入り始めたのを見て、合点がいった。
「そうか、破壊できるのか!」
そうと決まればやる事は決まっている。
早速斧を取り出し、ロープに向け振るう。
当たり判定か物理演算がガバなのか、斧がブルブルと震える。
そしてそのブレのせいで破壊判定が時折外れる。
「……スゥーーーーーー」
落ち着け。FPSのリコイルコントロールと似たようなものだ。ブレを考慮してこちらの手を動
ぐりんッ!
ロープのたわみが伝わったのか、自分のアバターが一瞬海老反りになる。
「オ゜……なるほどね。だいたい理解しt」
ぐりんッ!
「おおおおおーーーーーーあーーーーーーッッッッッ!!!!! クソがーーーーーーーーッッッッッ!!!!!」
イライラコンテンツを作るのが上手すぎる。
脳の血管がピクつくのがはっきりと分かるぜ。
「うるせぇ! 気が散る!」
「助けてくれ! ストレスに殺される!」
「分かるけど! 気持ちは分かるけど!」
そんなこんなでロープの破壊が終わる。
よし。驚いた事に、榎木よりも早く破壊が終わった。
自分なりに工夫したのが功を奏したらしい。
「あれ? あれれ? まだ終わってないんですか皆さん」
「お前がストレスの供給元になっていくのか……」
そうやって俺がイキっていると、榎木が拘束を脱して俺の横に並んだ。
「僕も煽り、すきー!」
「いえーい!」
「最悪だこいつら……」
そこで、先程から口数が少ない倉本の方も煽ってみる。
「終わってないようですね製作者さん」
「ごめん、焦っちゃって……多分ここラッシュイベントあるから」
えっ……え?
背後から、野人の怒号が聞こえてくる。
おそらく、誰かが拘束から脱する事がラッシュイベントのトリガーだったのだろう。
「建築モードッッ!!」
咄嗟に壁の建築画面を呼び出し、手持ちの木材をぶっ込む。
直後、壁への殴打音が多数、響き始めた。
「よし! 今の内に別の出口から逃げるぞ!」
「おいッ! 俺が脱出するの手伝えッ!」
チラリ、と相田と倉本を見る。
そして次に壁の損傷具合、手持ちの木材の数。
「……よし! 今の内に別の出口から逃げるぞ!」
「おい!!!! てめぇ!!!!!」
「山っちー! 流石にこの状態でアレに囲まれるのキツイってー!」
うるせぇ! いつまでもこんな所に居られるか!
「山っちー! ジュース一本」
「榎木ィ! 何逃げようとしてんだァ! さっさと斧使えッ!」
「こいつマジでやべぇな」
俺は友達思いなので、ちゃんと4人で逃げる事にした。
俺は友達思いなので。